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使役

 遠い昔、海は今ほど深くはなく多くの土地があった。そこには、ヒトがいたのかもしれない。

 主は大切なモノを海に落としてから、しばらくして気づいた。自分が消えかけていることに……そして世界に自分以外、誰もいないことに。

 現実の世界に、自分を証明できる誰かが一人も存在しないことに、後悔し絶望することを禁じ得なかった。

 唯一、証明することが出来たのは自分だけだったが、大切なモノを失くしてしまっては証明が出来ない。自分が誰なのか証明できない。どれほど記憶が残っていてもソレが自分のモノという確信が持てない。新たに記憶を得ても、すぐに崩れてしまう。

 いつの間にか雨が降っていた。それは冷たくてかなしい雨……浴びていると胸の辺りがよく冷えて寒い。それはとても辛いと感じさせたけれど、ソノ苦痛が自分が消えてしまうのを止めてくれていた。

 来る日も来る日も、哀しい気持ちでいっぱい。寝ても起きても胸の辺りはいつも寒い。

 自分が消えてしまわないように雨は降り続け、世界は海に沈んだ。雨はどれだけの時間を降り続けていたのだろうか?

 孤独の海は哀しいという感情が多く含まれている。悲しいではなく哀しい。この感情の色は青くて蒼く、そして冷たい。この感情は苦痛を感じなくなっても、冷たさが心を蝕んでしまう。

 暖かい感情を抱かせてくれるモノを探してしまう。凍えながら緩やかに力を失っていくのに気づく……だからこそ見つけられるモノがあるはず。

 涙は冷たかったけれど、雨を降らせていたソレは優しいモノでした。


 魔術師は再びこの場所を訪れた。それに気付いた使い魔は気配を現すと、呼び出す呪文を待たずに姿を現す。

「えっと、その持ち方ね……まぁ、予想の範囲内だったよ」

 丸テーブルを見上げる格好で腕を組むと口角を上げて笑う。

「前回の時、両手を上げたり下げたりしていたからね」

 逆さにした丸テーブルの天板を頭に乗せ、両手でバランスを取る魔術師も口角を上げて笑った。

「まず、わたしが端の方を支えるから、あなたは少しずつ後ろの方を持つようにずれていってね!」

「わかった」

 使い魔は魔術師の前で両手を上にあげて丸テーブルの端を持った。

「ちゃんと持ったよ! ほら、後ろにずれて!」

「……近いな」

「……何?」

「なんでも……」

 魔術師は注意深く丸テーブルを支える両手を後ろにずらして行き、使い魔と同じ格好になった。

「えっと、これからどうしよう?」

「とりあえず首の辺りまで下ろそう」

「わ、わかった」

 二人は丸テーブルを自分達の首の辺りまで下ろした。

「大丈夫か?」

「ぜっ全然平気!!」

 と言いながら、腕が少し震えだしている。

「そうか、じゃあ、次はしゃがもう。そしたら、君から見て右側に倒して天板を地面につけよう」

「……」

 声を出さずにうなずき、魔術師に合わせてしゃがむと丸テーブを右側に倒し天板を地面につける。そして、テーブルの足も地面に着いた。

「ありがと、助かったよ!」

「どういたしまして!!」

 二人は何かを成し遂げた様つもりだが、丸テーブルはまだ倒れたままだった。

「おっと、あとは起さないとな」

「そうだった!」

 起された丸テーブルはようやくその役割を果たすことが出来る。しかし前回、持ってきたパイプ椅子は少し離れた場所にあった。

「椅子をこっちに持ってくるか、テーブルを運ぶか。どっちにする?」

「どっちでもいいよ?」

「周りの描写がまだ無いから、どちらでも変わらない……椅子を運ぶよりはテーブルを運ぶほうがインパクトがあるかな」

「インパクト……」

「重いけど運ぶの手伝ってくれるかな?」

「うん。いいよ……。あ! 今回、わたしを呼び出す呪文言ってないよ!! ……ま、いっか」

「そうか」

 向き合う形で丸テーブルを持ち上げ、蟹のように横歩きをして椅子のある辺りまで運ぶと、使い魔は少し疲れたのかテーブルに両手を置いたまま動かない。魔術師は、すばやく動くと左右の手にそれぞれパイプ椅子を持ち、自分の分を無造作にテーブル付近に置くと、もう一つを使い魔のすぐ後ろに置いた。

「ありがとう」

 お礼を言って座る使い魔に魔術師は後ろから言う。

「うむ、私の演出に付き合ってくれたお礼だ」

「……なんだか、わたしの方が偉いみたい!!」

 満足そうな声を出す使い魔の正面ではなく、やや近い位置に魔術師は椅子をずらして座った。

「さて、この段階で文字数は2000に近い。落ち着いたところで終わりにしようか? それとも3000文字を目指すか?」

「3000文字を目指そう!!」

 尋ねる魔術師に勢いで答えた。

「そうしよう」

 魔術師は落ち着いた声でその答えに応えた。

「そういえば今回、地の文さん頑張ってるね!」

「そうだね。少し上達したかも」

「地の文さんって、神の視点を持っているんだったよね? ということは、神様なの? あなたより偉いの?」

 使い魔は、疑問をいくつも投げかけて、地の文の位置を探る。

「神かもしれないね。でも、このお話では、地の文は私の使役する使い魔の一つだよ」

「わたしと同じなの?」

「似たようなモノではあるね。私が扱える魔術の、召喚と使役の解釈によるモノだよ」

「地の文さんが神様だとすると、神様を使役しているの?」

「望みを叶えるためなら、神も使役するさ!」

「えっと……罰当たり?」

「そうかもしれない。もともと信心深くもないし」

「そうなんだ。ふーん」

「……それに昔、助けてくださいと願っても、助けてくれなかった。だから、使役することにしたんだよ」

「どういうこと?」

「例外も少なくはないけれど、神と呼ばれるソレ自体は人間に比べて単純な力しかない」

「そうなの? 神様っていうとすごい力がありそうだけど……」

「それは言い方は様々だけれど、魔術やそれと似たモノによって人間の心に影響を及ぼしているのだと思う。伝わる説……伝説や云われと呼ばれる召喚の呪文によってね」

「わかるような……わからないような……なんとなくわかった気がするでいい?」

「もちろん! 私もなんとなくだ!」

「そうなんだ……」

「うん。でも、そうだな……雷は確かすごい力があるよね」

「すごい電気らしいね」

「雷に心を持たせて何らかの物語を紡ぐと、雷が人間のような性格を持った神になったりする」

「やっぱりよくわからない」

「私も文字を並べていてよく分からなくなってきている。とりあえず……私はソレらに”様”をあまり使わないで”さん”付けや呼び捨てにしている。”さん”付けの時は、かしこまった感じで、呼び捨ては、気さくな感じ。”様”は敬う感じの時に使うように気を付けていたり、いなかったり」

「へーそうなんだ……って、眠そうだね」

「うん。現実の私が眠くて上手く文字が出てこなくなってる。ごめん、ちょっと眠るね」

「風邪引かないようにね。ここには毛布も無いから……」

「うん……」

 魔術師はテーブルに突っ伏して眠ってしまった。使い魔は椅子を動かして魔術師の近くに……地の文も文字が並べられなく……。

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