第29話 ストンとアルフィ
そして再び目を覚ましたとき、最初にアルフィの視界へ入ってきたのは、すぐ目の前に寄せられた二つの顔だった。
アバルトとステラ――二人とも、息を潜めるようにしてこちらを見つめている。
まるで、ほんの少しでも目を離せば、再びアルフィが消えてしまうのではないかと恐れているような、そんな不安を滲ませた表情だった。
身体は重いが、確かに動く。指先に力を込めれば、ゆっくりと動いた。
――生きているんだ私。
その実感が、少し遅れて胸に落ちる。
何か言おうとして、言葉が詰まる。胸の奥で揺れているのは、アルフィの記憶と、ストンとしての長い時間。
どちらも確かで、どちらも自分だった。
やがて、口から出たのは、ひどく普通の一言だった。
「……おはよう…ございます」
その声は――少女のものだった。
自分の声に、わずかに意識が引き戻される。
ステラの瞳が大きく揺れ、次の瞬間、涙が溢れた。
「……アルフィ……?」
震える声。
私は、そこでようやく理解する。
アルフィなんだ。
流れ込んできた記憶が、形を持つ。
幼い頃、水面に映った自分。
髪に触れた母の手。
呼ばれていた名前。
アルフィ。
胸の奥で、何かが落ち着いた。
だが同時に、もう一つの自分も消えてはいない。
私は――石だった。
その感覚も、確かに残っている。
「……あの」
声が少し掠れる。
「私……」
言いかけて、言葉を選び直す。
「アルフィ……だと思います」
一度、区切る。
「でも……ストンでも、あります」
部屋の空気が静かに張り詰める。
ステラの手が震える。
アバルトは、何も言わずに見ていた。
逃げずに、続ける。
「アルフィの記憶も、ちゃんとあります。お母さんのことも、お父さんのことも……全部、覚えています」
胸の奥がじんわりと熱くなる。
「でも……あの時」
一瞬だけ目を伏せる。
「石になった時、私……アルフィを守りたくて…」
言葉を探す。
「強く願ったんです。アルフィを生かしたいって。そしたら……たぶん、そのまま一緒になったというか……」
うまく説明できない。
それでも、止めなかった。
「だから私……アルフィで、ストンなんだと思います。すいません……」
言い切ると、静寂が落ちた。
その沈黙を破ったのは、ステラだった。
彼女はゆっくりと手を伸ばし、私の頬に触れる。
「……温かい……」
震える声。
次の瞬間、強く抱きしめられた。
「よかった……本当に……」
涙が肩に落ちる。
その温もりに、胸の奥で何かがほどける。
自然と、言葉が漏れた。
「……お母さん」
ステラの肩がびくりと震えた。
「ごめんなさい……お母さん」
言った瞬間、自分でも少し驚く。
だが、それは確かにアルフィの感情だった。
すると、すぐに抱きしめる力が強くなる。
「違うわ……」
かすれた声。
「謝るのは私よ……」
その言葉に、今度は別の感情が前に出る。
静かに、しかしはっきりと。
「違います」
自分でも驚くほど落ち着いた声だった。
ステラが顔を上げる。
「お母さんは、何も悪くないです」
そして瞳をまっすぐに見る。
「見た目で人の価値を決める方が、おかしいんです」
言葉は自然に続いた。
「本来、人は行動や中身で判断されるべきです。それを確かめもしないで決めつけるのは……ただの思考放棄です」
部屋が静まり返る。
「だから、お母さんが責められる理由はありません」
言い切る。
ステラは言葉を失ったまま、私を見ていた。
やがて、アバルトが静かに息を吐く。
「……やはりな」
ゆっくりと手を伸ばし、私の手を握る。
「ストンだな」
その言葉に、少しだけ苦笑する。
「はい……たぶん」
アバルトは小さく頷いた。
「だが、それでいい」
穏やかな声。
「アルフィが生きている。それだけで、十分だ」
その言葉に、胸の奥が静かに満たされる。
ステラは、涙を拭きながら私の手を包んだ。
「アルフィ……」
その呼び方が、今はすんなりと受け入れられる。
石だった時間も。
この身体も。
どちらも、もう切り離せない。
私は、静かに息を吸った。
そしてようやく、自分がここにいるのだと――はっきり実感した。
実は、、
ここだけの話、カクヨムでは、
主人公が男の子版を書いてるんです。。
どちらかというと、あちらが先行していて本編。。
いずれ分岐する予定です。
しかし、カクヨムの方が話数はこの倍もあるのに、
PVはこちらのなろうの方が多いって。。。




