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私、 転生して路傍の石になっちゃいました。 ~石から始まる、底辺騎士爵の娘の受動的英雄譚。なぜか放っておいてもらえません~  作者: 大童好嬉


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第15話 アバルトとストン

毎年、収穫が終わる頃になると、決まって同じことが起きる。

アバルトが、村の従者たちを含めた六人とともに、ふっと姿を消すのだ。


アルフィには、その理由がよく分からなかった。

秋が深まり、畑が静かになっていく頃。

父はいつもと変わらない手つきで鎧を整え、剣を磨き、そしてほんの短い言葉だけを残して村を出ていく。

どこへ行くのか、どれくらいで戻るのか。詳しいことは語られない。


ただ――

一か月ほどして帰ってくるその姿は、いつも同じだった。

埃まみれで、疲れているはずなのに。

なぜか、少しだけ誇らしげで、どこか晴れやかで。


その顔を見るのが、アルフィは好きだった。

帰ってきた、という事実だけで、胸の奥がじんわり温かくなる。

そして、その時期だけ。

私は――ストンは、アルフィの手を離れる。

代わりに、アバルトの胸元へ。


……いや、ちょっと待って。

なんで私、連れて行かれてるの?

完全に巻き込まれてるんだけど?


でもまあ、結果的にそれが“運命の分岐点”になるとは、この時の私は思ってなかったわけで。

アバルト、従士長パナール、そして四人の従者。

彼らは毎年、辺境伯領からの兵役として、警備や討伐に駆り出されていた。

アルフィが四歳の頃。

その年も、いつもと同じはずだった。

近隣に出た盗賊の討伐。

規模は二、三十。

訓練された討伐隊なら、問題なく片付く――はずの案件。

……だったのよ。


現地で判明したのは、完全な見込み違い。

五十を超える盗賊。

しかもただの寄せ集めじゃない。

隊列を組み、合図に従い、引くべきところで引く。

統率が取れている。

そして極めつけは――首領。

風の魔法を操る、元貴族。


ああ、もうこれ、嫌な予感しかしないやつ。

案の定、戦場はひどかった。

金属音、怒号、悲鳴。

風が唸りを上げて、空気ごと切り裂いていく。

討伐隊は五十。


でも実際に戦えるのは四十前後。

残りは文官、治癒役、補給要員。

魔法使いも一人だけ。

……ねえ、これ戦力差おかしくない?

いつもなら、パナールを中心に陣形を組んで、じわじわ削る。

そういう堅実な戦い方でどうにかなる。


でも、この日は違った。

盗賊側が、完全に主導権を握ってる。

攻めれば横から叩かれ、押せば風で崩される。

じわじわ、確実に押されていく。

その流れを変えようと、副隊長が動いた。

背後から回り込んで、首領を叩く。

判断としては正解。


……ただ、相手が悪かった。

風で間合いをずらし、剣で受け、弾き、押し返す。

魔法使いでありながら、剣士としても完成してる。

副隊長は決定打を出せないまま、逆に追い詰められていく。

遠目にも分かるくらい、危ない。

風が唸る。

防御が崩れる。

体が浮く。

地面に叩きつけられる。


――あ、これダメだ。

起き上がれない。

首領がゆっくり歩いていく。

確実に仕留めるための、迷いのない足取り。


その瞬間。

アバルトは、もう動いていた。

考えるより先に、私を掴む。

ちょっと待って。

嫌な予感しかしないんだけど?

狙いも、計算もない。

ただ――全力。

投げられる。


え、ちょっ、待っ――

そして。

私は、吸い込まれるみたいに、首領の眉間に直撃した。

……は?

いやいやいや、待って。

そんな綺麗に決まる?

私、ただの石よ?

鈍い音。

血。

止まる動き。

ほんの一瞬の、隙。


でも、それで十分だった。

副隊長が、立つ。

距離を詰める。

剣が走る。

首が、落ちる。

あっけないくらい、あっさりと。

首領を失った盗賊団は、崩れた。

指示が消え、隊列が乱れ、恐怖が広がる。

あとはもう、一方的。

討伐隊が押し返して、戦いは終わった。


……ねえ。

これ、もしかしなくても私、戦犯じゃなくて戦功?

いや、ちょっと待って。

納得いかないんだけど。

その後の評価は、分かりやすかった。

アバルトは二番目の勲功。

宝石、金貨、剣。


それなりに大きな褒賞。

その金で馬車を買って、宝石は穀物に替えて、領地に持ち帰る。


結果――

村に、食料が戻った。

人の顔に、笑いが戻った。

それを見て、アバルトは思ったらしい。

あの時、私を選んでよかった、って。


……いや、うん。

それはいいんだけど。

なんかこう、複雑よね。

私はただ、飛ばされただけなんだけど?

そして時間は流れて。

アルフィは七歳になった。

明日は、鑑定の日。

教会から司祭が来て、子供たち全員に“それ”を与える日。

この帝国では、それが義務。

例外なし。


才能か、運命か。

何かしらが刻まれる日。


――まだ、この時は。

アルフィも、私も。

それがどれだけ大きな意味を持つのか、分かっていなかった。


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