第三十三章 広美のマンションで事件発生
翌日マンションで、千里と芳江が、「週刊誌読んだわ。怪我したって大丈夫?」と友達を連れてきて心配そうにしていた。
その友達が、「私は藤本公子です。広美さんが救った女児は、娘の奈緒美です。奈緒美を救ってくれた刑事さんが、同じマンションに住んでいて知り合いだと千里や芳江から聞いたので、御礼がしたくて紹介してと頼んだのよ。」と自己紹介して、娘を救ってくれた御礼をした。
広美は、「お嬢様に怪我をさせてしまいましたが大丈夫でしたか?」と心配していた。
公子は、「ええ、転倒した時に、女性の刑事さんが咄嗟に頭を庇ってくれたと奈緒美から聞きました。おかげでかすり傷で済みましたが、その時に刑事さんが犯人に刺されたと聞きました。その怪我がそうですか?大丈夫でしたか?」と心配していた。
広美は、「ええ、大丈夫です。お嬢様が無事だったと聞いて安心しました。」と雑談していた。
その後雑談が井戸端会議に発展して、四人で噂話などをしていると女性の悲鳴が聞こえて、広美達は悲鳴のしたほうに向かった。
しばらくすれば千里が若い女性の刺殺体を発見した。
「広美さん!女の人が倒れている!声を掛けても全く反応がないわ。死んでいるみたい。」と叫んだ。
広美が駆け寄り確認すると、心臓を一突きされて既に死亡していた。
一課長に報告した。
「三係に担当させます。初動捜査お願いします。」と指示して、緒方係長に連絡した。
殺人事件発生を伝え、「場所は高木君の住んでいるマンションで、通報者は高木君だ。高木君に初動捜査の指示をした。三係で担当して下さい。」と指示した。
付近を調べると血痕を発見した。
聞き込みすると、返り血で全身血だらけの男がバイクで逃走したと判明した。
緒方係長に連絡して緊急配備した。
広美は、返り血で目立つ為に、すぐに発見できると判断して現場保存に向かった。
しばらくすれば鑑識と刑事達が到着した。
西田副主任に確認すると、犯人はまだ発見されてないと聞いた。
広美は、「返り血で目立つ犯人を発見できないのは、バイクなので裏道を通ったか、バイクを乗り捨てた可能性があります。」と発見できない可能性を伝えた。
西田副主任は、「バイクなので、裏道にも警察官を配置して調べましたが、発見できませんでした。」と報告した。
広美は、「血のついたバイクがどこかに隠されてないか、車の盗難が付近でなかったか至急調べて下さい。服は返り血を浴びている為に、服の盗難が付近でなかったかも調べて下さい。被害女性は免許証から村田陽子さん、二十二歳です。後藤刑事、被害者の自宅に向かい家族から事情を聞いてきて下さい。」と指示した。
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母親は刑事が来たので気の強い娘に何かあったのかと心配した。
後藤刑事から事情を聞いた母親は、「最近、娘はストーカーされていました。東洋警備の警備員で気が強く、犯人と対決すると録音機を持って出て行ったので心配していましたが、まさか殺されるなんて・・・」とその場に泣き崩れた。
後藤刑事は、「警察へは通報されたのですか?」と確認した。
母親は、「娘に警察へ通報するように伝えましたが、自分で取り押さえて警察に突き出すと言って、通報していなかったようでした。」ともっと強く娘を説得するべきだったと後悔していた。
その後、母親は遺体確認を依頼されたが、怖くて主人に同行を求めた。
警察署で主人と待ち合わせていっしょに遺体確認して、主人が娘の陽子に間違いないと確認した。
主人は職場に連絡して早引きして奥さんと一緒に帰った。
被害女性のカバンの中に録音機があり再生すると、警察に通報すると警告されて、逆上した犯人に刺殺された事が判明した。
犯人の声も録音されていた為に、科捜研に分析依頼した。
須藤刑事が、「近くの工事現場に血の付いたバイクにブルーシートを被せて隠していました。それと、作業着が一式盗難されていました。」と報告した。
前田刑事が、「その工事現場で車やバイクの盗難はなかったのか?」と不思議そうでした。
広美は、「車やバイクだとすぐに警察に通報されると思ったのではないですか?現に聞き込みしなければ作業着の盗難も判明しなかったのではないですか?逃亡する為の時間稼ぎね。そこから考えて、自転車を盗難した可能性があるわ。すぐに調べて下さい。」と指示した。
西田副主任が、「近くの歩道に駐輪していた自転車が盗難されています。手すりに撤去と書かれた紙が貼っていた為に、撤去されたと勘違いして警察には通報していなかったそうです。その自転車を北大路駅で発見しました。」と報告した。
須藤刑事が、「犯人は、撤去とかかれた紙を何故持っていたのですか?」と不思議そうでした。
西田副主任は、「たまたまA5用紙を所持していたらしく、手書きで撤去と書かれていました。手書きなので半信半疑だったそうですが、通報すれば事情を説明する必要があり面倒だったそうです。自転車を放置していた後ろめたさもあったようですがね。」と説明した。
広美が、「そんな紙、たまたま持っている訳ないじゃないの。前田刑事、どうでしたか?」と何かを前田刑事に調べさせたようでした。
前田刑事は、「近くのコンビニでA5用紙とマジックを購入している人物が監視カメラに映っていました。盗難された作業着にヘルメットをかぶっていたので顔は確認できませんでした。」と報告した。
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後藤刑事が村田陽子さんの日記を家族から借りて署に戻ってきた。
後藤刑事が、「日記には、犯人の氏名は書かれていませんでしたが、陽子さんが独自に調べて、犯人は今まで、被害者の村田陽子さんをはじめ、何人もの女性のストーカー行為をして警察に通報されていますが、父親の代議士が全て握りつぶしていました。警察に通報しても無駄だと判断して犯人と対決したようです。」と報告した。
広美は、生活安全課に連絡して犯人を特定するように指示した。
生活安全課に行っていた後藤刑事が戻ってきた。
「平田隆一郎がストーカーで数回訴えられていますが全て却下されていました。村田陽子さんの日記に記述されていたように圧力の疑いがありますが、それが父親の代議士だと確証が得られませんでした。」と報告した。
広美が、「馬鹿!それでのこのこ帰ってきたのか!これは殺人事件なのよ。徹底的に捜査しなさい!対応した警察官は誰なの?」と確認した。
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「菊川巡査です。」と返答したために、広美は生活安全課に内線電話した。
「捜査一課の高木です。菊川巡査をお願いします。」と菊川巡査を呼び出した。
「はい、菊川です。」
「後藤刑事がストーカーについて調べにいったでしょう?数回却下されている理由をなぜ伝えなかったの?」と確認した。
「別に理由はありません。証拠不十分で却下になっただけです。」と鬼軍曹が電話してきたので恐る恐る返答した。
「殺人事件として捜査しています。却下された原因が証拠不十分ではなく圧力だと判明すれば、殺人犯をかばったとして殺人事件の共犯として逮捕するから覚悟しておきなさい!」と怒鳴って電話を切った。
菊川巡査は慌てて上司に相談した。
「そんな前例はないから気にするな。ただの脅しだ。」と相手にしないように指示されたのでそのままにしておいた。
「そういう事だから、殺人事件として徹底的に捜査しなさい。」と指示した。
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広美は、“そういえば、私の客に代議士の平田純一郎がいたわね。”と思い出して、帰宅後母の初美に確認した。
初美は、「あなた方は気が合うわね。今夜、その平田純一郎さんから鶴千代指名で声が掛ったわよ。」と何か事件なのかしら?またお客が減るわ、と心配していた。
広美はお座敷で平田純一郎と雑談していると、平田が家族の話を始めた。
広美はチャンスだと判断して、「ご子息のお名前は?」と確認した。
平田が、「隆一郎だ。就職もせずにブラブラしているよ。」と息子の話をしていた。
広美は、「就職してないって、平田さんのご子息だから、世間の為に何かボランティアでもされているのですか?」と平田の様子を伺っていた。
平田は、「いや、息子を信じてそこまで干渉してないので、何をしているのか解らない。」と広美が息子の事に興味があるようでしたので、どこかで息子と会った事があるのかな?と考えていた。
広美は、「ご子息は父親から信頼されているのですね。さぞご立派なご子息なのでしょうね。」と雑談していた。
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そこへ平田の息子の隆一郎が飛び込んできた。
隆一郎は、「父さん、助けて。女の子に手を出したらぶん殴られてここまで追い駆けて来た。」と助けを求めた。
平田は、「隆一郎、私がここにいる事が良くわかったな。」と不思議そうでした。
隆一郎は、「昨日電話で料亭の予約をしていたのを聞いたから。」と説明した。
平田は、「そうか。しかし、お前女にやられたのか?追い駆けてきたって、どこだ?」とどんな女性なのか、気になっている様子でした。
そこへ、不良少女に扮した後藤刑事がきて、料亭の廊下を歩きながら隆一郎を捜していた。
広美が後藤刑事の声だと気付いた。
隆一郎は、「父さん、来た!あいつだ!」と後藤刑事を指差した。
後藤刑事は、「見付けた!お前、父親がいないと何もできないのか!」とお座敷に乗り込むと広美がいたので、さすが主任、既に潜入していたとは素早いわねと感心していた。
不良少女が乗り込んできたので料亭のおかみも慌てて来た。
平田は、「場所をわきまえろ!ここは貴様のようなやつのくる場所ではない!おかみ!警察を呼べ!」と慌てていた。
広美が止めて、「商売柄、このような事には慣れています。ここは私に任せて下さい。」と後藤刑事を連れ出した。
「後藤さん、犯人の声は被害者が録音して科捜研が鑑定している事は知っているわよね。平田の息子の声を録音しましたか?」と確認した。
後藤刑事は、「はい、私もそのように考えて録音機を持って来ましたが、まだそのチャンスがなく録音できていません。その他にも何か証拠がないかと捜していました。」と現状説明した。
広美は、「後は私に任せて。」と指示して後藤刑事を帰らせた。
広美はお座敷に戻り、「あの不良少女は追い返しておきましたよ。平田さん、今日のところは息子さんと帰ればどうですか?」と現段階では平田の息子を連行できない為に、逃げられないように父親に監視させようとした。
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翌日、広美は科捜研に平田の息子の声のデーターを渡して声紋チェックを依頼した。
その後、科捜研から声紋が一致したと報告があった。
広美は裁判所に逮捕状を請求して、「昨日、平田の息子の隆一郎を父親に預けましたので、まだ家にいると思います。」と更衣室から鶴千代専用携帯を持ってきた。
前田刑事が、「平田にどう説明するのですか?」と確認した。
広美が、「昨日、平田の息子から財布をすり取りました。息子さんの財布を拾ったと説明して返しに行く事にするわ。」と説明して平田に電話した。
平田が電話に出ると広美は、「おはようございます。鶴千代です。昨日、平田さんのご子息のものと思われる財布を拾いました。恐らく、あの時、不良少女と争っていた時に落としたのではないでしょうか。本日の午後、持っていってもよろしいでしょうか。」と平田親子を足止めした。
平田は、「昨日息子から、財布を落としたようだと聞きましたが、鶴千代さんに拾って頂いたのですね。どうぞお越し下さい。息子と待っています。鶴千代さんの私服姿も是非拝見したいですね。昼間は何をされているのですか?」と鶴千代の私生活に興味があるようでした。
広美は、「解りました、身分証明証を持参して私服で午後お伺いします。」と告げて電話を切った。
午後、逮捕状が届いたので、捜査員全員で平田邸に向かった。
広美がインターホンを押して、「鶴千代です。」と呼びかけた。
平田が、「どうぞあがって下さい。」と私服の鶴千代と色々話をしたいようでした。
広美は、「今仕事中で同僚も来ています。玄関先で結構ですので、ご子息にお会いできませんか?落し物をお返ししたいので。」と息子の隆一郎を玄関まで呼び出そうとしていた。
平田は、「いいえ、かまいませんよ。同僚の方にもあがって貰って下さい。」とどうしても、私服の鶴千代と、ゆっくり話をしたい様子でした。
広美は、「それでは、お言葉に甘えさせて頂きます。」と刑事達に目で合図して全員で入った。
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広美達はダイニングルームに通された。
最初に広美が財布を出して、「ご子息のお財布をお返しします。」と財布を平田氏に渡した。
平田は、「これは確かに隆一郎の財布だ。」と財布を確認して隆一郎を呼んで財布を渡した。
平田は、「私服の鶴千代さんも美人ですね。昼間はどんなお仕事をされているのか身分証明証をお持ち頂けるとの事でしたね。」とどんな仕事をしているのか興味がありそうでした。
広美は警察手帳を提示し、「京都府警捜査一課の高木です。先日北区のマンションで殺人事件があり、その被害者が犯人の声を録音していました。昨日料亭で録音した、隆一郎さんの声と声紋が一致しました。殺人罪で、ご子息を逮捕します。」と逮捕状を提示した。
隆一郎が、「父さん、助けて。」と父親に助けを求めた。
後藤刑事が、「昨日も言ったように、あんた、父親がいないと何もできないのね。」と隆一郎を睨んだ。
隆一郎は、「あっ!昨日の不良少女!あんたも刑事だったのか!」と驚きを隠せない様子でした。
こんどばかりは証拠があり、父親もどうする事もできず、「鶴千代、お前刑事だったのか。」と諦めた。
次回投稿予定日は、10月8日を予定しています。