第三十一章 広美、軽井沢旅行する
ある日、隆と広美の休みが一緒になった。
広美は二連休だった為に、隆は有給休暇を使い、広美と同じ日に二連休にして、どこかに旅行しようとした。
隆が、「夏は優雅に軽井沢へ避暑に行こうぜ。」と提案した。
広美は、「今からでは、宿泊の予約は、ホテルやペンションも満室で無理でしょう。」と夏の軽井沢は、早くから予約しないと無理だと反対した。
隆は、「車で行けば問題ないだろう。」と反論した。
広美は、「車と電車とどこが違うの?まさか車で寝ろとでもいうの?洗面はどうするのよ。それに隆は人相が悪いから、不審者に間違われて、警察に連行されるわよ。私まで巻き込まないでよ。」と隆の提案が理解できない様子でした。
隆は、「広美が警察手帳を提示すれば、大丈夫だよ。車で寝なくても、夏でも予約なしで泊まれるホテルを知っているよ。」とヒントを与えた。
広美は、「車で予約なしで泊まれるって、まさかラブホテル?そう都合よくラブホテルがあるの?」と隆の無計画さに呆れていた。
隆は、「心配しなくても、高速道路の出入り口には必ずあるよ。ネオンが派手だから、すぐ見つかるよ。それに事件が発生して、旅行が中止になっても、キャンセルの必要もないしね。」とラブホテルに宿泊するメリットを説明した。
広美は、「隆、詳しいのね?以前利用した事があるの?誰と行ったのよ。」と隆を睨んだ。
隆は、「考え過ぎだよ。ただの取材だよ。」と笑っていた。
広美は、「記者って都合いいわね。何でも取材で誤魔化せるから。」と隆を横目でチラッと見た。
隆は、「嘘じゃないよ。優秀な刑事を誤魔化せないよ。」と以前取材した、ラブホテルの記事が掲載されている週刊誌を、広美に渡した。
広美は、「解ったわよ。確かに記者名は、高木隆になっているわね。でも誰かに見られればどうするのよ。」とラブホテルは嫌だと不満そうでしたが、軽井沢での避暑は魅力的で、今からだと宿泊可能なのは、ラブホテルしかないと渋々納得した。
**********
二連休の数日前から、着替えや観光案内など、荷物の準備をして、前日、勤務終了後移動して、二時間をメドに、サービスエリアで運転を交代して、真夜中に、軽井沢のラブホテルに到着した。
ホテルの部屋に入ると広美は、「何これ、浴室の壁がガラス張りで、寝室から丸見えじゃないの。」と初めてのラブホテルに、驚きを隠せない様子でした。
隆は、「夫婦だし、二人とも家にいる時は、時間短縮の為、一緒に風呂に入るし、問題ないじゃないか。」と指摘した。
広美は、「それはそうかも知れないけれども、外から見られているようで、落ち着かないわ。」と恥かしそうでした。
隆は、「鬼軍曹の異名を持ち、凶悪な殺人犯を、簡単に倒す広美が、そんな初心な女の子だとは知らなかったよ。」と大笑いした。
広美は、「なんですって!初心な芸者、鶴千代といってほしいわね。」と隆を睨んだ。
隆は、「そんなに怒るなよ。露天風呂に入ったと思い、気軽に考えろよ。」と深く考えないように助言した。
広美達は、ラブホテルで一泊して、連休一日目は、朝六時にラブホテルを出て、軽井沢銀座に向かい、朝食後軽井沢銀座などを散策して、職場へのお土産などを買っていた。
昼食の時間になってきたので、レストランに入り、昼食を注文して、食事が来るまで、観光案内を見ながら、二人で相談して、午後は、観光農園に行く事にした。
昼食後、北軽井沢に移動して、観光農園で、果物狩りを楽しんでいた。
広美は、「さすが観光農園だけあって、広いわね。関西の果物狩りと違い、種類も豊富ね。半日じゃまわれないわ。また来る機会があれば、弁当持参で朝から移動して、一日使いましょう。」と広さと種類の多さに圧倒された。
隆は、「そうだな。次回くる機会があれば、食事の時間がもったいないので、朝食と昼食は弁当ではなく、適当に果物を取って食べよう。」と隆も予想外の広さに驚いていた。
**********
果物狩り終了後、広美の運転で、中軽井沢まで戻ってきた。
広美が、「ラブホテルの風呂には入りたくないわ。この近くに、温泉がいくつかあったでしょう?千ケ滝温泉とか星野温泉とかとんぼの湯とかね。温泉に入りましょうよ。」とラブホテルの風呂には、入りたくない様子でした。
隆は、「そうか、それが目的で、中軽井沢に来たのか。千ケ滝温泉には、売店や遊戯施設など色々とあり、大きいみたいだから、そこにしよう。」と提案して、千ケ滝に向かった。
広美は、そこでスケートリンクがある事に気付いた。
「残念、今日の営業時間は終わっているわね。今夜は、この近くに宿泊して、明日帰る前に、スケートしてから帰ろうよ。」と提案した。
隆は、「近くにラブホテルがあったかな?」と思い出していた。
広美が、「確か十八号線を、小諸に向かって行くと、あったような気がする。温泉に浸かりながら、思い出しましょう。」と千ケ滝温泉に入った。
その後、広美達は、「ラブホテルには、必ず空き部屋があるから、急がなくてもいいでしょう。」と付近を散歩していた。
**********
広美は、「軽井沢の夏は涼しいわね。京都と全然違うわね。」などと、隆と雑談しながら散歩していると、途中で若い女性が、不良に絡まれていた。
広美達は、「何しているの!嫌がっているじゃないの!」と叫びながら、駆け寄った。
不良達は、「俺達は四人いるんだぜ。やる気か!」と広美達に向かってきた。
広美は若い女性に、「今の間に逃げなさい!」と指示した。
不良達は、「おい、待て!」と女性を捕まえようとしたが、広美が阻止した。
その女性は、近くのペンションに、友達と宿泊していた。
ペンションに戻り、今の出来事を友達に説明した。
「馬鹿!あなたは、助けてくれた人を、見捨てて、自分だけ逃げて来たの?」と慌てていた。
「警察に通報したほうが・・・」と携帯を取り出していた。
「馬鹿、今更通報しても手遅れよ。」と慌てて不良に襲われた場所に、二人で向かった。
二人が到着すると、「あっ、お兄ちゃん。」と友達を助けてくれたのが、兄だと知り、驚いていた。
隆は、「由紀子、お前何故ここにいるのや?」と不思議そうでした。
由紀子は、「お兄ちゃん、紹介するわね。私の友達の武藤あゆみです。あゆみと軽井沢旅行していたのよ。不良に襲われて、助けてくれた人を見捨てて、自分だけ逃げて来たと聞いたので、慌てて来たのよ。」とここに来た理由を説明した。
**********
不良達は、広美から連絡を受けた、軽井沢警察に連行された。
不良達が連行される時に、「女!お前何者や!男が強そうだったので、お前を狙ったが、全く歯が立たなかった。」と広美の正体を知ろうとしていた。
由紀子が、「正体を聞いて、後日リベンジでもする気?お姉さんは、京都府警捜査一課の主任刑事よ。いつも凶悪な殺人犯と、取っ組み合いしているのよ。殺人犯と銃撃戦も何度もしているのよ。あんたらを倒すのは、朝飯前よ。まさか警察にリベンジする気?そんな事をしたら、即逮捕されるわよ。」と広美の事を説明した。
軽井沢警察の警察官は、「えっ?京都府警捜査一課の高木主任と言えば、凶悪犯からも恐れられている、あの有名な鬼軍曹ですか?」と確認した。
隆は、「広美、お前の噂は、長野県まで轟いているんだな。刑事さん、そうですよ。俺の女房は、鬼軍曹として、犯罪者から恐れられています。」と自慢していた。
不良達は、襲った相手が悪かったと諦めて、連行された。
由紀子が、「お兄ちゃん、不良に襲われて、あゆみが怯えているのよ。ほら顔が真っ青でしょう。今お姉さんが、優秀な刑事だと知り、一緒に泊まってほしいと言っているのよ。夫婦の仲を裂くようで悪いけれども、お姉さん、お願できませんか?ラブホテルに宿泊する予定で、予約してないのでしょう?」と広美に無理を頼んでいた。
隆が、「一人でラブホテルに宿泊できないし、俺はどうすればいいんや?それにペンションも、食事の準備など、色々都合があるだろう。急にそんな事をしたら、迷惑だよ。」と反対のようでした。
由紀子が、「お兄ちゃん、私の部屋に泊まれば?オーナーに頼んでみるよ。」と提案して、ペンションのオーナーに、事情を説明して、依頼した。
オーナーは、「解りました。ベッドや食事は何とかします。」と内心迷惑でしたが、相手は週刊誌記者で、宿泊客を助けて頂いたと聞いたので、下手に断り、変な記事を書かれると困るので、引き受けた。
**********
その夜、隆は、「由紀子、お前と一緒の部屋で寝るのは、何年ぶりかな?」と昔の事を思い出していた。
由紀子は、「二十年ぶり?いやもっとかしら。」と由紀子も昔の事を思い出していた。
隆は、「あゆみさんは、同級生か?」と由紀子との関係を知ろうとしていた。
由紀子は、「いいえ、違うわ。あゆみは、亡くなった、私の婚約者の妹さんよ。あんな事件がなければ、あゆみは、私の妹になっていたのよ。婚約者が亡くなってから、私も辛くて、あゆみとも連絡を取ってなかったのよ。あゆみが、私が気にしている事に気付いて、声を掛けてきて、何回か会っていると、ある日、軽井沢へ旅行する事になり、今回軽井沢に来たのよ。」と説明した。
隆は、「亡くなった婚約者の妹さんと、友達だったとは知らなかったよ。」と、今でも、家族と交流がある事に、驚いていた。
由紀子は、「彼は、命をかけて、私を一生守ると約束してくれました。本当に、命がけで、私を守ってくれたわ。」と泣いていた。
隆は、「御免、辛い事を思い出させて。」などと雑談していた。
翌日広美は、由紀子達と四人でスケートを楽しみ、軽井沢を後にして、高速道路に向かい、途中でバイキング料理の店があり、色んなものを食べられると考えて、昼食を取り、高速道路を、京都に向かって、車を走らせた。
次回投稿予定日は、9月28日を予定しています。