526 映像記録媒体について
狭くて色々と雑多としている部屋に通されたかと思えば、ちょっとまってて、と言われ、机の上にのってる道具や素材などを腕で下に落としてそのまま袖で磨いてる姿を見せられている。
散らかってるというか、この部屋で色々と道具を作ったりしてるのか?
前の世界の研究所や工場みたいなのをここで?
いや、さすがにここ以外もあるか。奥にもまだ部屋があるみたいだ。
(佳奈の部屋みたいだなー……片付けてない感じが)
「あの、どうして私達を」
「えぇ? なにー? あ、もう入ってきていいよ~」
まだこんなに散らかってるのに……?
「……行きますか?」
「そうね」
「ささ、ここに座ってくれたまえ」
フィヨル。
年齢はムロさんよりも少し下かというほど。
白衣にポケット突っ込んで、にこにこと笑ってるが目までは笑っていない。
マッドサイエンティスト感があるというか、人を人と思ってないって印象があるな……ちょっと怖い。目に光がないのが怖い。
「で、なんで私達を連れてきたの?」
「男性は自分のことを大きく見せるだろう?」
「……?」
「女性側の意見を聞きたかったのさ。うちにいる技術者は男ばかりだからね。男の意見は抽象的で困るんだ。その点、女は毒すら平気で吐いてくれる。助かるよ」
そう言いながらポケットの中から小さな野球ボールより少し大きいくらいの球体を取り出して机の上を滑らせてきた。
完璧な球形じゃないからか、歪な転がり方をして手が届く距離で止まった。
「どうかな? 見てみてくれ。アサルトリアに任せた魔導具の改良品さ」
エマさんが手にとってみると起動したのか、球形に刻まれてる細線に光が灯った。
黒色から灰色、白色に色が変わるとソレは宙に浮かんで少し離れた場所で静止。
レンズと思われる部分がこちらに向いている。録画が開始されているのだろう。
「軽量化に試みてね。その分、耐久力に難ありだろうが。どうかな」
「どうって言われても良し悪しなんて」
「問題はデザイン、被写体を収める位置、追尾機能、連続の駆動時間さ。で、君たちに求めてるのは追尾機能と被写体を収める位置、デザインだな」
「デザインは比較対象が分からないけど、まぁ良いんじゃない? 好みじゃないけど」
「追尾機能は……ここじゃ分からないでしょ? あ、でも、前は狭い場所だったら壁にぶつかってたけどぶつからないようになってる」
「そう! 設定をしている距離を保つんだ。想定はダンジョンボスだからね、近すぎてもダメだ。適宜距離の調整ができたら良いんだが、そこまでは難しかった」
「良いんじゃない?」
二人とも「良いんじゃない?」って結構、他人事な気もするけど。
まぁ、知ったこっちゃないよな。ズケズケ言えるほどの関係性もまだ出来上がってないし、ある程度の水準までいったら良いんじゃないか? となるのも分かる。
「そうか。まぁ、好評で良かったよ。じゃあ、ずっと静かなそこの少女はどうかな」
やっぱり僕のことを女性だと思ってるか。
まぁ、そこまで頻繁に会うことはないだろうし、話くらいあわせておこうか。
「デザインのモチーフはなんですか? ゴーレムとかです?」
「ああ、遺跡のゴーレムだね。魔導核のようなデザインにしてみた」
球形の中に青色の核があり、それのエネルギーを伝わせるための細い道が中央から外に向かっていく。野球ボールのデザインが近いが、それをもっとメカメカしくした感じだ。
「キレイだと思います。記録は今、見せてもらうことはできるんですか?」
「ああ。できるとも──機能停止」
フィヨルがそういうと、その場で動作が停止して床に落下。
ゴツンッとなかなか大きな音がなり、それを回収していた。
「映像の記録をみるためにはレンズの上側を外さないとダメなんだ。よいしょ」
動かすと空中に映像が映し出されて先程のやり取りが流れ出した。
さすがにヌルヌルと映像が動くことはなく、かなり飛び飛びな映像だ。
フレームレートというんだったか、それが10とか5とかのカクカク感。
でも、すごいな、ちゃんと映るんだ。
(モニターを作ったり、タブレットを作る技術があるからこういうのにもすぐ着手できるんだろう……この人一人でどれだけの文明を進化させてるんだ?)
後々、この時代の文明がすごい進んでたとか言われる原因になりそう。
「どうかな? 自分の顔をこうやって見ることはそうそうないだろう」
フィヨルがにこにこしながらそう聞くと、女性陣は空中の映像を見ながら。
「わたしってこんな顔してんだ……」
「わたしも……ちょっとブサイクじゃない……?」
映像に映った自分の姿を見て、ショックを受けてる。
「うわっ……喋る時きも……」
「脇腹辺りのお肉ってこういう風に見えてんだ……」
「実物はとても美しいんで大丈夫ですよ。気にしないでください」
「そう? そう……? 本当にあんな感じに見えてない?」
「見えてないです」
「わたしのここのお肉とかも」
「大丈夫ですって、すごく色っぽいです」
「そっか……なら良いのよ」
そうだよな、自分のことをこうやって映像で見ることってないもんな。
自分が思ってるよりも大きかったり、小さかったりする。
鏡に映る自分はまぁまぁ格好良いはずなのに、友達の撮った映像はキモかったりとかあるある。
さすがにこの映像記録に美肌効果やら小顔効果なんてついてる訳ないしな。
ウサギ耳付けるやつとかで、映ったモンスターに獣耳がついてたらキモイし。
それに、多分全体を多く写そうしてたりしてレンズの形が平らじゃなかったり……でも、それ説明できないしなぁ。
「映像に関しては大丈夫だと思いますけど、声とかは入ってないんですね」
「そうだねぇ。重要なのは映像だから後回しになってる。前に挑戦してみたことがあるんだが、中々難しいんだ」
といいながらフィヨルはチラッと積み上げられた魔導書を見やった。
(……もしかして、自分でイチから勉強をして作ってるのか?)
いや、当然か。刻印魔法も結局は魔法。
魔法の原理が分からないと刻印なんてのもできないだろう。
じゃあ、マレウスさんが作ってくれたこの双剣に刻印された魔法ってのは……専用の魔法。映像を記録したり、音声を記録したり……。
(ん、音声?)
「じゃあ、問題は今のところはなさそうだ。じゃあ少女はコレをダンジョンに持っていってくれたまえ」
元の形状に戻すと映像記録が消え、その状態の球体を渡してきた。
「じゃあ、お役御免か」
「面白いものを作ってるんだなー……」
二人が席を立ったのをフィヨルさんはどこか寂しそうに見つめる。
(うーん……音声、音声……か。音声ね。音声なぁ……)
「クラちゃん、戻るよ~?」
声をかけられたけど……ちょっとやりたいことがある。
「すみません。フィヨルさんに話をしたいことがあるので、先に行っててもらっていいです?」
「え?」
「……」
エマさんが何かを察してくれたらしく、エルシアさんの肩に手を回した。
「あの道具の使い方に不安があるんでしょう。先に戻っておきましょ」
「私が教えるのにー……」
「いいからいいから」
……あとでエマさんにお礼を言っておかないと。
「で、どうしたんだい? 私に話なんて」
という彼女の前で、僕はポケットから紙を一枚取って机の上に置いた。
「音声について少し力になれるかもしれないんですが、良いですか?」




