241 着々と進む訓練
よく晴れたその日。
ぼくはようやっと、努力が実った気がした。
「なんとか……ここまではできるようになったな……」
(さすがです!)
「まだまだ歪だけどね……」
だが、見よ。これを! 武器に纏う【風刃】を!
魔素が武器を纏いながら伸び、長さが約2倍ほどになってる。切れ味はどうかはわからないけどね。試し切りするものがいまここにないし。
「タルトさんに刻印魔法のやり方……聞きに行ってよかった」
タルトさんに聞いた話は『刻印魔法は魔法陣が書かれた紙を特殊な技法で、武器や防具に馴染ますように打つ』のが私のやり方なのだと。中には魔法を実際に放ちながら打つ人もいるらしい。
とてもざっくりしていたのは、技法などに守秘義務があるのだろう。
それらを聞きながら思ったのは魔法の形状をバラバラにして纏わせるというより、魔素をコーティングしてそこで魔法を発動すれば良いのではないか? ってことだ。
これが成功だった。
まだ魔素操作が完璧ではないけど実用段階には来てるんじゃないか?
最初に考えていた『武器自体に魔法の属性が帯びる』が完成した。しかもこれ、ノアの『魔素から魔法を発動する』が応用できるのだ。
常に武器に魔素を這わすことが出来れば……意図的に魔素を増やして剣を振るタイミングで魔法を発動ってことも出来ると思う。
上手く行けば手数が増える。いいことづくし。
「武器の方はとりあえず置いておいて、魔素操作の方を頑張ろうか」
魔素の形状維持は魔法のように文字で書けないから、本当に練習あるのみだ。何百回何千回と練習をして、まだまだお披露目はできない段階ではあるが……武器の方が上手くいったからイケると思えてきた。
「魔素操作が上手く行けば……ちょっとやってみたいこともあるし」
(というのは?)
「秘密だよ、秘密〜。できるかどうかわからないけどね。ナグモ先生に色々と言われてたから、やってみようとおもって」
飛行の魔法と、風で浮かぶのは異なる。魔法は使い方次第だ。
だったら、ちょっと、魔素操作の応用でアレができるかもしれない。
「へへ、ちょっと、気分がマシになった」
ぺろと舌を出して集中をし始めた。
◇◇◇
「……ペルシェト――先生は、自動修復者について何か知っているか?」
第二書庫の円卓、そこで深夜に行われている治癒士の勉強会。
ギルドスタッフの仕事が落ち着いてから勉強会を再会しようと思っていたペルシェトは、帰国後すぐに自分の元に訪れたアンに驚いていた。
アンがクラディス以外の人物に、尊敬語混ざりの言葉を言ったのだ。「治癒士のことを教えて、ください」と。これはすごい! 進展だ!
そんなアンの申し出を断るわけにもいかず。というか、むしろやりたかったので大歓迎。ということで、ペルシェトは忙しい日程の中を縫い、ギルドの仕事が終わってからの数時間をアンのために割くことにした。
「知ってるには知ってるけど、どーして?」
「教えてほしい」
「……んぁーっとね……知ってるからこそ言うけど、むっずかしいよ? すぐに分かる話でもないし、基礎の部分が理解してないと厳しいし」
「だったら、その基礎も」
「意欲的だねぇ……先生としては嬉しいんだけどサ」
アンの迷いのない返答に空を仰ぐ。
「……じゃあ基礎から行こっか。あ、でも私も少し復習しないといけないからペースは遅めになるけど、それでもいい?」
「構わない。わたしはもっと強くならないといけないんだ」
アンの口ぶりから、アンは自動修復者という治癒士泣かせのユニークスキルを持っているということをペルシェトは感じ取った。
ペルシェトは普段の様子こそ呑気や悠々という言葉が当てはまるが、冷静な一面を持ち合わせていて、決して馬鹿ではなく、むしろ頭はよく回る方だった。
それがあるからこそ猫獣人という世間的に下に扱われている種族であってもギルドスタッフの高い位置に居続け、スタッフリーダーの補助をこなしている。
「よしっ! じゃあ、アンちゃんのために頑張っちゃうぞ〜! んー!!」
悠々とした様子の中に鋭く光る目。
その目にはアンやクラディスのことがどこまで分かっているのだろうか。
「忙しいのに、すまないな」
しかし、ペルシェトが取る友好的な態度は、混じっ気のない純粋な気持ちから来ていることは二人がよく分かっていた。
アンやクラディスも人のそのような感情の裏表は敏感な方だ。
その上でこうして頼るのは、ペルシェトのことを信頼していることを表している。
「あはは、ほんっとアンちゃん可愛くなったね。いいのいいの、全然気にしないで。私はどれだけ忙しくても明日の昼ごはんが美味しければそれで満足だから」
広げられた自筆のノートを片手にホワイトボードへペンを走らせる。
そうして今日も治癒士の勉強が進んでいった。




