221 骸骨騎士の核は
構えられた二つの黒炎大剣。騎士の損傷部位の修復速度も緩やか……が、もう完全に修復しそうだ。やはり、早く片付けなければならない。
ダッと駆け出した僕は、この大剣の黒炎を飛ばすために、
「《風よ》!」
魔法を紡ぐ《力ある言葉》を使った。
骸骨騎士側へ押しやられた黒炎は、形を保ってはいられない。とゆらぎ、煌めき、消えはしないがこれでまともに刀で打ち合える状態に。
「っあぁ!!!」
──キンッ!
響いたのは小刀と大剣の金属音。
暗がりの中の火花が咲いた。
「──シッ」
まともに打ち合えるのなら、形や大きさは違えど数は同じ。
裁き、打ち込み、蹴りをくらわし、回避。
切って。切って。避けて。
再び刀を合わせた。
「ハアッ……ハアッ!!」
重い、強い、物理はやはり効かない。
笑んだまま、頬が強ばる。歯を食いしばったまま息を吐いた。
慢心をするな──ぼくは、弱い。
ぼくは、コイツに勝ってるところなんてない。
実力差なんてもうはっきりしてる。誰が見ても「オマエのほうが弱い」と指を差してくるだろう。
でも、弱いままでいたくないという気持ちは誰よりも強い。
「勝つんだ、ぼくは──ッ!!」
どれだけ惨めで、
汚くて、
泥臭くても、
勝利を掴むためには貪欲でなきゃいけないんだ……!
「あぁあああぁっ!!!!」
動け、翻弄をしろ!
デカいアイツは攻撃が早いが、動き自体は早くない。
だから、背中を取れ、正面から打ち合うな!!
チャリチャリと認識票を鳴子のように鳴らし、それよりも大きな打ち合いの音が五階層に響き渡る。
互角じゃない。向こうの方が上手なのは知っている。
だけど、今押してるのは……僕だ……!
骸骨騎士は骨を動かす力、その重たい剣を振るための力、守るための装甲、全部魔素でできてる。
重たい剣を振るときは防御が薄くなる。
同時に魔素を振り分けたら中途半端になる。
だったら、カウンターが効くのなら、ここッ。
「このタイミングで──」
ホワイトボグの短剣を相手の振り下ろしのタイミングで側面から弧を描くようにして受け流した――……。
――キンッ。
「は……、えっ」
割れた。
剣が。
あいつの……黒炎大剣が。
そして、刺さった。
「う、ぅあ……っ」
僕の右腕に、深く、深く──!!
「あるじ!!?」
破片が、僕の、腕にッ。
炎が、依代を変えるように、侵食するように燃え移った。
混乱もいいとこ、正気を保つのでさえままならない。
が、唇を血が吹き出るほど噛み締めた。
「……っ、分かってたよ、そんなことはぁっ!」
スゥと息を吸い込み、右腕に意識を集中させる。
「――《広がるな》《静まれ》」
火穹窿を構成する《力ある言葉》の一部を咄嗟に用いり、気休めの処置を施した。このままでは炎の進行を抑えても、熱が収まる訳ではない。
「っ〜……!!」
熱い。死ぬほど熱い。
火傷をした患者が殺してくれ、と嘆願するのも分かる。
火が燃える釜の中に手を突っ込んでいる状況だ。
いや、それよりも熱いかもしれない。
「でも、こうなることは……想定してたっ……。ぼくなんかが、オマエから無傷で帰れるわけがないって……ッ!」
だから、
「子どもみたいに、泣いて、消してくれと懇願をすることなんかしない……!」
武器を構え、必死に口角を釣り上げた。
「コレ、お前を倒したら消えるんだろ……?」
だったら、
「大人しく……死んでくれっ」
吐き出すように笑みを浮かべ、倒れるように走り出した。
修復未然の骸骨騎士の攻撃を避け、再びカウンターを狙う。
鎧に傷をつけ、誘い、飛び上がって蹴りを食らわした。
そして着地した時に――キタ。
再び、黒い魔素で作られた黒炎大剣が振り上げられたのだ。
「ハァハァ……ッゥ! 最後の勝負だ! 骸骨騎士……ィ!!」
わざとらしく叫び、再び受け流しを狙っているように武器を構える。
その瞬間、振り下ろされた。それは今までよりも早く、鋭く。
グォンっと目の前まで迫った黒炎煌めく大剣。
叩きつけるように降ってきた大剣を寸前で、避けた。
どうせ、どれだけ他の所を薄くしたって肋骨内にある核を守ればお前は助かるんだ。だったら胸の装甲だけ硬くするって分かっている。
大剣も魔素でできているのならまた壊れてしまうかもしれない。だから、狙うのはそこじゃない。僕が狙うのは……。
「それ以外だ」
短剣を握る力を強め、魔素が薄くなっている骸骨騎士の四肢を剥ぎ取りにかかった。
連撃、連撃、連撃。
早く──速く──疾く──ッ!!!
風がぼくを纏う炎を広げ、身体全体に行き届かせる。
感覚が、落ちていく。
熱い。
冷たい。
寒い。
──なにも、感じなくなった。
あるのは、ただ……コイツを倒すという意識だけ。
壁や天井を蹴って、攻撃を食らわない状況を作りながら――剥いで、剥いで、剥いで、剥いでッ!!
「終わりだ……ッ!!!」
最後に助走込みの蹴り込みで、ダルマ状態の骸骨騎士を地面に押し倒した。
無抵抗のままガゴンッと音を立て、馬乗りのようにまたがる。
斬撃や刺突じゃない。この手の鎧は衝撃や打撃じゃないと効き目がない。
「ハァ……ハァ……」
炎に焼かれながら、胸の装甲に手を置き、魔法を発動しようとして……
体が止まった。
◇◇◇
――なんだ、この胸騒ぎは。
トドメを刺そうとして、酷く、警鐘を鳴らすように胸騒ぎがした。
何か相手がまだ隠し持っているという訳でもないだろう。
強かった。とても。慎重に戦わなければ負けていた相手だ。
だから、そうじゃない。敵の力量や技量の問題じゃない。
だったら、なにが、こんなに……っ。
一番攻略が簡単なダンジョンの、一番攻略が簡単なボスの部屋。
そこに発生した個体が隠れ、奇襲をして、学習をして、あろうことか『自動修復』をするのか?
何か、特別な理由があるんじゃないのか?
「っ……ゥ!」
そうこうしている間に、熱が、炎が、僕の体を焦がす。
なりふり構わずに魔素を使おうとすると――また、ザワっと胸が騒いだ。
不安を駆られるようなものでなく、今すぐ攻撃をやめた方がいいのではないか、というものだ。
「……なんだよ」
なんで?
分からない。
「なんなんだよ……コレ」
だけど、そう思った瞬間、僕はまた攻撃を止めて、顔を歪めた。
炎に焦がされながら、大火傷になるのは必至なのに。
自分の体を天秤にかけても、そうした方がいいと思ったのだ。
直感にも似たこの感覚。
魂が訴えかけるような。僕の深奥にいる《なにか》が止めろと叫んでいるような。なにも、霊的なものなものを信じている訳では無い。
元々は論理的な思考をして、堅いだのなんだのと言われていた僕だ。
なのに、なんで、
「こんなに、ザワつくんだ……っ!!」
残り少ない魔素を攻撃に使わず、胴体に付けられていた鎧を剥がすことに使うことにした。
重たい。僕よりも何倍も大きく、硬かった装甲だ。
それでも必死にボロボロになっている箇所に手を突っ込み、力を込めて肋骨を覗き見た。
息を、飲んだ。
火が消えたのを体のどこかで感じた。
でも、それよりも、ぼくの意識は目の前に引っ張られていた。
時間が止まったような気さえした。
そこに護られるように居たのは──緑が入った黒髪、僕達よりも少し大きく、でも幼げな。
「ひと……」
フード付きのボロ衣を着て、膝を抱くようにして泣いている女の子だった。




