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209 到着ッ! 最西の街!



「ここが、最西の街……! レイメイ……!!」


 大きく、広く、外敵からの襲撃に備えるように壁で囲まれている。壁のつくりもデュアラル王国程でもなくとも、堅牢で、厳か。

 城壁内に入る門には憲兵さんが検査をしているのも変わらない。

 いつもこの世界の『街』のイメージを変えてくる……! わくわくが、止まらない!

 

「よおし、入国だ! アン、いこ!」


「はい! 行きましょう!」


「――はいはい、お前らは別に中に入らなくてもいいから」


「ふぐっ」


 待機列寸前で首根っこを掴まれ、グイっと引っ張られた。

 乗り合いの馬車内には僕達しかいなかったから、気を利かせてくれて門前でおろしてくれたのがさっきの出来事。

 そして……僕たちは街に入らなくていいと言われているのが今現在の出来事……。 


「通信魔導具はもったか?」


「は、はい。ここに」


 収納袋から手元へと召喚して見せると、レヴィさんは頷いた。


「それの使い方は分かったな? 魔素を込めたら、私らが持ってるのに繋がる」


「それは、はい、分かってます」


「ボスを倒したら魔素が薄くなって」


「大丈夫です。倒したら連絡、奥へと進まずに引き返す、ですよね」


「よし。じゃあ三日間の間に5階層目の奴を倒して連絡をしてこい」

 

 急ぎ早に言われた言葉に、こくこくと頷く。

 三日、それは今から数えて三日ってことか……? 腰につないでいる懐中時計を確認。10時。おっけー、覚えた。


「って、その期間を過ぎると……どうなるんですか?」


「別に設けた期間に意味はねぇ。女装をさせる」


「うぇ」


 横からムロさんに言われ、変な声がでた。初日のタオル投げたの相当根に持ってるのか?

 少しだけ呆れつつ、分かりました、と二回繰り返す。

 その反応に、エルシアさんとレヴィさんがくすくすと笑うのが見えた。

 

「じゃ、俺らはクエスト前にこいつの胃袋を満たすことにするから。お前ら頑張ってこいよ」


「はっ、えっ、これから昼食ですか!? クエストは」


「調査依頼だっつっても、無闇に走り回るわけねぇだろ。腰据えてじっくりとだ」


「そういうものなんですか……?」


「そういうものなのです!」


 そういうものなのか。

 ってことは、僕とアンはダンジョンで、三人はまず街に入る審査をして……か。ギルドでの手続きも代わりにやってくれるらしいし。


「……まぁ、そういうことならいいです。じゃあムロさん達も頑張ってくださいね」


「おう、任せろ」


「クラちゃんもアンちゃんもね!」


「いい報告待ってるぞ」


 と言うと三人は待機列の人混みへ消えていった。

 それを見て、僕とアンも教えられたダンジョンがある森林地帯へと向けて歩き出した。




      ◇◇◇




 事前に教えて貰ったダンジョンの場所は街からそう遠くない。

 街から北東に広がる森林地帯へと足を踏み入れていく、もちろん道も舗装されていないところがほとんど。

 人がよく通る所は踏み慣らされて平らにはなっているけども……いいとこ獣道。誇張表現をしても道路や歩道と言えるものではない。

 そんな道を練り歩きながら、前にいるアンと小さな声で敵の位置の報告をする。


 『魔素感知』を走らせていると段々と魔物《モンスター》の数や強さ、空気感が変わってきた。そろそろダンジョンがあるのだろうか。


 普段お世話になってるあの森林地帯は『中位ダンジョン』があるところだから、ここに上位進化個体《ヘルツォ》とか進化個体《エヴォル》がゴロゴロいるってことはないとは思う。

 それにこっちは気配を消しながらの移動だから戦闘の回避もできているし……いたとしても大丈夫だろう。

 そうして大小様々な魔物とすれ違いながら進み、強そうな魔物は事前にこちらが感知して進行方向を変更。それを繰り返して奥へ奥へ進んでいくと、ぶわっと風を感じた。


「わっ……!」


 咄嗟につむった目を恐る恐る開くと、なんとも見覚えのある場所が広がっていた。


「……そうか。ここも、こんな感じか」


 森林地帯を抜けたその空間は、なんとも神秘的な場所。

 先程までの場所とは全くサイズ感が違う。大木が天高く聳えて、先が見えない。

 蛍のような虫が空中でゆっくりと移動し、視界の端に見える大きな湖には大きな蓮の葉が浮かんでいる。

 と、そこまでは初めて来た人の感想。僕にとって、ここは……。


「……嫌な場所だ」


 シルクとの戦闘。ゴブリンキングとの戦闘。

 古傷はないとしても、ケガを負った箇所がズキズキと痛むような気がする。


「……再《・》び(・)襲われたとしても、わたしがお護りします」


 こちらを見上げて言われたその一言で、緊張がほぐれた。


「……僕が女の子だったら、トキメいてるだろうなあ」


「あるじはわたしよりも女の子ですよ」


「そうかね?」


「わたしはよく『男らしい』と言われるので」


「アンはかっこいいけど、僕の中で誰よりも『女の子』だよ」


 普段の調子での会話を挟み。自分やアンの状態を確認。

 僕だけでなく、アンにとっても楽しい思い出がない場所。その場所でこうやって話せるのなら上々だろう。

 周囲を警戒しながら奥へと進んでいくと、地上から地下鉄乗り場まで降りていく入口のような場所を発見した。


「苔がすごいけど……これっぽいな」


 あからさまな階段みたいなのが見える。位置的にも教えて貰った場所と一緒だから、これがダンジョンの入口のようだ。


「さっそく降りますか?」


「うん。あ、待って、その前に眼帯外しとかないと……」


「あ、わたしも髪を結っておかないと……」


 お互いに準備が完了。暗くて先が見えない階段をゆっくりと一段一段降りていく。


「ニオイは……しないか。聞いていた通りだ」


「スンスン……」


「する?」


「いいえ」


「ね」


 人が死んだような心地の悪い臭いはしないし、血がこびりついていると言うこともない。

 ……だけど、なんだろうか、このぞわぞわする感じは。

 汚れを隠すために上塗りしたような、腹の黒い人が浮かべる笑みのような、害があるものが害のないと言っているような。決して心地の良いものではない。


 そこからさらに降りていくと、長い通路に通じていた。


 洞窟というより遺跡に近い。天井は高いし、壁もしっかりしたモノだし……。少しだけ神聖で厳かな印象もある。

 けれど、やっぱりそれを上回る不気味さが感じられる。


「うわ、まっくら」


 ダンジョン内には光源などないと聞いていたけど、ここまで真っ暗か。


「松明《たいまつ》、つけますか?」


「ううん、大丈夫。明かりの確保は僕が勉強しておいたから……『灯《ライト》』」


 ぽわっと球体状の灯りを僕とアンの近くに出しておいた。

 旅の道中でレヴィさんから学んだ魔法の一つ。

 曰く、松明《たいまつ》や角灯《らんたん》を持たないからパーティーメンバー全員の両手が空くから覚えておいて損をしない中級魔法! なのだそうだ。


 アンは肩より少し上にふよふよと浮かぶソレをそーっと触り、わっ、と驚いた。


「温かい……! 熱くないんですね」


「うん、火の玉を浮かばせているわけでもないしね」


 発光をしているのは火属性魔法の原理だけど、その他のほとんどは中級魔法のそれだ。

 パッと見、下級魔法の一種のように見えるけど実は難しいのです。


「ちなみにアンがどれだけ早く走っても、近くに居るように文字《ルーン》を刻んだから安心だよ」


「ほんとですか!」


「うん、試してきてもいいよ」


「では――」


 僕の言葉と魔法を試すようにビュンっと一気に加速して、僕の灯《ライト》が届かない場所へとアンは走っていった。

 タタタタタ。……カンッ、ガシャッ、ブオンッ。

 金属音と空気を裂く音……?

 アンが走る足音に遅れて反応して、罠が発動した……ような音が聞こてきた。


「一階層目から罠って……」


 話には聞いていたけど、これも本当にあるのか……。感知系のスキルは持っていないから慎重に動かないといけないな。

 足元や壁、頭上に注意をしてアンが走ったところをなぞるように歩いていっていると、タッタッタッと戻ってくる足音が聞こえてきた。


「あるじー、魔物《モンスター》を倒したら石になりました」


 その手に持っているのは、黒みが強い紫の歪な形の石のようなもの。


「魔石ってやつだね。持って帰ったらお金に変えれるよ」


「これがお金に……」


「色んな用途があるみたいだよ、詳しくはわかんないけど……。で、どうだった? 灯りは着いてきた?」


「しっかりと!」


 興奮した様子で肩の球体を抓《つね》って、弾力のある球体がみょーんとなってる。

 安心安全の完成度、万が一にも火傷をすることはありません。


「じゃあ、そのダンジョンの魔物《モンスター》は強かった?」


「いえ」


「ふむ。なるほど」


 まだ上層だからそこまで強い魔物《モンスター》がいないのかもしれない。

 一階層目からゴブリンキングー……とか想像していたけど、さすがになかったか。


『キュイッ!!』


 と、遠くから聞こえてきたのは甲高い鳴き声。

 聞き覚えがあるそれは、オークたちよりも倒しづらい相手の声だ。

 声が聞こえた通路の奥に目を向けると、灰色の角、白くもふもふとした毛皮が見えた。


「一角兎《アルミラージ》……の群れ?」


「先程も倒したというのに、まだいたのですね」


 魔素感知で感じるその数、およそ10匹くらい。

 

「……あれがあんなに居たらめんどくさいな」

 

 まだ距離はあるとはいえ、魔物《モンスター》が群れを作りこちらに向かってきている状況。

 森で見つけた一角兎《アルミラージ》は逃げ回ったというのに、ダンジョンの中だったら習性が違うのか。

 ダンジョンはどれだけ暴れても壊れることはないと聞いたけど……。最初だし、魔素も温存をしておきたいから……。

 

「……ちょっと広めな魔法を展開するから、後ろに来てて」

「わかりました」


 まぁ、でも、連発するよりも一撃で倒した方がいいだろう。


「横幅めいいっぱいで、躱《かわ》せれないように――『雷弾《ヴォルトショット》』」


 稲妻《ライトニング》を球状に保つための魔導を加えた改良型の広範囲雷属性魔法『雷弾』を発動。バチバチバチと激しく光を発しながら、一本道を進んでいく。

 一角兎《アルミラージ》は全速力でこちらへと向かってきたこともあり、走る速度以上の速度で紫電を放ち急接近している『雷弾』に気づいた時には遅かった。


 ――バチッ!


 直撃だ。


『キュイィィィッ!!』


 可愛らしい悲鳴と共に体が霧状になって消えていき、先程までいた場所に魔石をボトボトっと落とした。


「おお。魔石ってこんな風に……、へえ……」


 一定の範囲の中でひしめき合う紫色の雷の球。雷属性を重点的に勉強したから威力も段違いになった。広域に展開させたのを対象に当てるまでの状態維持……も使えるようになってきた。

 レヴィ先生様様だ。この分野すごく苦手だったのに。

 ……でも、さすがにやりすぎたな。魔素がすごく減っちゃった。


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