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208 注意事項





 今はどこら辺まできたのだろうか。絶対デュアラル王国の領土内ではないのは確かだ。

 乗り合い馬車の乗客も疎らになり、比較的のびのびと過ごせれるようになってきた頃。街で宿屋として貸し出されている一軒家に僕たちは泊っている。

 そして今は食事を済ませ、食後のお喋り会をしているところだ。


「ンにしてもよ。物覚えがいいなぁ、お前は」


「えっ僕のこ――」


「クラディスじゃねぇ、アンの話だ」


「わたしのことか」


 僕が肩を落とした傍ら、一緒に食器を洗っているアンが振り向かずに反応をした。


「視たら、大体のことは覚えれる」


「スキルの話をしているんだが」


「それも視て、やってみたら大体は覚えられる」


 なんだそら、とムロさんが半ば呆れつつ笑う。

 言おうとしていることは分かる。アンの覚える速度は尋常ではない。

 家事とかも教えたら直ぐに覚えたし、お菓子作りも今では僕が手助けしなくとも作れるようになった。

 でも、僕はその理由を教えて貰ったことがある。


「そうしないと、生きてこられなかったからな」


 さも当然のように呟いた。


 そもそも奴隷だったアンが身体強化や武闘家のスキルを使えることを疑問に思うべき。まっさらなスキルの使えない状態で、誰にも教えてもらったわけでもないのに技を覚え、戦闘奴隷の一等級まで上り詰めた。


 器用。そしてそれ以上に眼がいいのだろう。何かを覚えようとしている時のアンの目はかなり印象に残っている。

 集中してみたり聞いたことを頭の中で何度も試行錯誤して実践しているような。

 ムロさんやエルシアさんが見せたスキルや動きを模倣し、会得をした。その数は僕よりも多い。


 いや、自分で理解していたつもりの魔導と《力ある言葉》がことごとく修正されている僕なと比べるのは違うかあ。


「そっかあ、アンちゃんは奴隷だったもんね……」


「……そう思えばお前らは普通に接してくるな。何故だ?」


「えっ、何故っていわれても……。んー、別に奴隷だからって言われても何とも思わないし……。それにクラちゃんのお友達だから」


 アンはその言葉に多少の驚きを覚えつつ、レヴィさんとムロさんの方にも目を向けた。


「私はなんとも思わん」


「右におなじ。ちっとは言葉遣いを直して欲しいと思うが」


 レヴィさんの意見に同意し、いつもの憎まれ口を挟む。

 そうしていると、僕の書いた魔法陣を見終わった様子のレヴィさんが今度は添削しようとペンを握った。


「……そもそも奴隷だの種族なんだのと差別する者は、元々の身分が高い者か、そう思っている者がほとんどだ」


「お前らは違うと?」


「出自がどれだけ偉かろうが、どこに属していようが、結局私達はただの冒険者に過ぎない」


 キュッキュッとペンの走らせる音が聞こえる中、レヴィさん内の奴隷についての見解を淀みのない言葉で述べた。

 同意するように二人は頷き、そうか、とアンは返した。無表情、でもどこか安心したような表情にも見える。


 さっきのレヴィさんの言葉は『自分が偉いと思っている者って所に該当する人がほとんど』という言葉の受け止め方もできる。

 未だに差別意識を持っている人は多い。実際にアンは首輪をしているだけで奴隷だと後ろ指を刺されたことが何度かあった。とどのつまり、彼らはそういうことなのだろう。

 偉いの定義は人それぞれだけど、三人はとても強い冒険者で上位血盟の中堅を担っているエースだ。その三人が「ただの」冒険者って言うんだから……偉いってなんだ、となる。


 重たい話だというのに雰囲気はそれほど重くなく、むしろ普通の会話のように話が進んだ。

 エルシアさんは絨毯の上で店を広げ、見たことのない道具のような装備のような物を検《あらた》めてるし、ムロさんとレヴィさんは座ってるけど食後の温かいお茶を飲んでる。

 差別や序列が浸透している世界で、普通のように話すって結構難しいことだ。それをするって……やっぱり、

 

「……あるじの恩人たちは、優しいのですね」


 と、食器を片づけていると僕の気持ちを小声で代弁してくれた。

 

「……うん、僕の自慢の人達だよ」

 

 タオルで手をふきながら、こちらも三人に聞こえないように。

 なんだろうか、恋人と家族を合わせて彼女に「素敵な両親ね」と言われたような感覚。そんな感覚味わったことないけど、おそらくこんな感じなのだろう。

 二人で流し場からレヴィさんとムロさんが座っている机に向かい、すとんと座るとレヴィさんが姿勢を正した。


「では、あと数日でレイメイに着く訳だが……。ダンジョンに挑むにあたって話しておくべきことが沢山ある」


「お、仕事モードのレヴィ」


「わっ、仕事モードのレヴィね」


「調子が狂うから静かにしておけ」


 わぁ、仕事モードのレヴィさん怖い。


「本来はギルド側から言われることなのだが、今回は依頼の横流しだから私から話をする。不備があれば私以外の二人が補足をする。覚えられる自信がないのなら紙と筆を用意しろ」


「は、はい」

 

 自信はないからアンが持ってきてくれている紙とペンを机の上に出し、準備完了。


「ダンジョンについてクラディスは勉強をしているとは思うが、実際にそれが起こると対処ができないかもしれない。だからこれから話すことを何度もイメージをしろ。そして、必ず油断をするな。敵が弱かろうが、ことが順調に進もうが、絶対だ」


「はい」


「よし。では、話をするぞ」


 そこからダンジョンに向けての諸注意をしてもらった。

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