197 これレヴィさんじゃん、えっ
皆が満足するまで食事を楽しむと宴が終わり、先程までの喧騒が嘘だったかのように静まり返った。
大半が家や部屋に帰って言った中、ベロベロに酔った人は床や机にそのまま眠っている。
すっかり暗くなった血盟拠点で僕は、ぐがーぐぅぐぅと寝息を立てる人たちに毛布を掛けて回り、ようやく最後の人に毛布を掛けようとした。
「って、これレヴィさんじゃん。えっ」
なんでここで寝てるんだ。酔いつぶれるイメージなんてなかったのに。
声をかける訳もいかないな……。まぁ、これからいくらでも話す機会はあるか。
「んっ」
気持ちよさそうに寝ているオデコを突くと返ってきた反応。
「しばらくは忙しい時期が続くって言ってたのに、こんなとこで寝てたら風邪ひくでしょうに」
そんなレヴィさんの肩から毛布を掛けると、宴会後にやる仕事が全て終了した。
食器洗い、厨房掃除、床掃除、寝ている人への毛布かけ、戸締り。
ただの雑用だ、雑用。バイトの入りたてみたいなことばっかさせられた。
ふらふらと腰掛けれるようなスペースを探していると、戸締りを終えたアンがソファで寝ている人を床にぶん投げた。
「あ、僕達が寝る場所の確保?」
すごくドヤッとした顔で頷かれた。
そんなことしたらだめだよ、って言いたいけど……今日ばかりはグッジョブ。
力なく笑いながら、2人でそこに座った。
「僕らは、何をさせられてるんだろぉねぇ……」
あっという間に感じられたけど、それは右も左も分からない場所に放り込まれて、頭が付いてこなかったからだろう。
散々おもちゃのように扱われた後の雑用……。良い様に使われた、と感じる。
精神的にも肉体的にも疲れた。これ、給料って発生しないのかな。
「こんなことをさせられるなら、血盟なんて入らなくてもいいです」
「確かに……。これに見合うだけの利益というかバックがあるんだろうけど……んん」
「わたしはあるじの選択に従います」
結んでいた髪を解き、アンもうつらうつらと眠たそう。
途中から配膳やお酌も任され、アンは不慣れなりにも頑張っていた。
最強の少女を配膳係に使うって贅沢な血盟だよなぁー。
「とりあえずは……入らない方向で」
「分かってました」
「この流れで入るって言ったら怒った?」
「すこし、不機嫌にはなったかもしれません」
「あら」
「冗句です」
「あらあら!」
今日は、アンが冗句を言った記念日だな。多分、疲れてるから体裁を保てないのだろうけど。
ムロさん達と一緒にクエストを受けたりしてはみたいが、こういうのは望んでいない。
無理して血盟に入らずとも冒険者同士であるならパーティーは組めるし。
何だかバタバタとした一日だったけど、僕達はそのままソファで眠った。
◆
次の日、皆より早く目を覚まして体をぐいと伸ばした。
することは寝る前に決めていた。この酒臭い空気の換気だ。
「んしょ……っと。臭い、から、早く……」
高い位置にある小窓を開けて……、うっ、朝の風は寒いな……。
背伸びをしている足元で、ズビッと鼻をすする音。寒風に吹かれたのか。
こんなところで寝てるから、と言ってやりたい。言わないけどさあ……。
「不満だ。僕はイライラしている」
開けていた扉を少し閉め、寒そうに身を動かしていたアンの毛布を掛け直す。
すぅすぅと寝ているアンの頬をむにむにと触っていると、二階の方からドアのぎぃと開く音。
と思っていたら、すぐに一階へと降りてくる足音に変わった。
「あれ、起きてる」
「あら、ムロさん」
「お前はこの時間に絶対起きてんのか? じーさんみてぇだな」
じーさんだとぉ? 懐かしいことを言いやがって。
「……動きやすそうな格好に着替えてるってことは、これからまた日課ですか?」
「そーそー、やらねぇと気持ち悪いからなぁ。クラディスはなんで起きてんだ?」
「換気です。臭かったので」
「かぁー、母親かっての」
階段の手すりに手をかけながら、ケラケラと笑われた。
──イラッ。
あ、僕、今イラってした。命の恩人相手にイラっとした。
理不尽な雑用を任されたり、好き勝手に弄ばれたことでストレスが溜まっているのか。
ふるふると首を横に振って、気持ちのリセットをした。
「んで、また着いてくるか? どうせ暇だろ」
わあ、だめだ。イラついてたら、暇だろ、って言葉が刺さる。
目をぎゅっと瞑り、うぅ、と声が漏れる。
くそぅ、何故ムロさんにイラつかなければならないのだ。
「えぇ……と。少し待って貰えるならついて行きたいです」
「おし。待ってやるから走ろうぜ。外で待ってるからよ」
ばたん、と正面の扉から外へと出ていった。
その姿を見送り、はあ、と肩を落とした。
「なにイライラしてるんだか……。それこそ走ったら少しはリセットできるかな」
走るとなると……いつもの服とかの方がいいか。
服を着替える前に上裸の状態で、体に覚えたての治癒士の万能スキル『清潔』を簡単に掛ける。
どうせ、走ったら汗かくけど……これは気持ち的な問題だ。
頭の上からつま先までを魔法陣が通過したのを確認すると、くるりと周ってくんくんと匂いを嗅ぐ。
「……おおよそ大丈夫」
服を頭の上から被りながら外に出てみると、ムロさんのストレッチしている姿が見えた。
一緒に簡単にストレッチをして、走り出したムロさんに着いて僕も走り出した。




