193 ケトスの過去
最近はやりのウイルス怖いですよね。私は最近風邪をひいていたので、気が気じゃなかったです。
クラディスがケトスの説明に頭が止まっていた時、デュアラル王国の森では何重にもあった泥の壁が壊されていた。
「ぶわぁぁぁ〜!!!」
「やっと出れた……」
「くそ、あの変人野郎が……!!」
「外の空気美味しい……」
「計画は失敗したな」
「それは仕方なかろう」
6人総出で泥を削り、高い壁に阻まれてから出るまで3時間程もかかってしまい、6人の服には泥と土が付き、小綺麗だった服が汚れてしまっていた。
「ちっ、変人がいるんだったらあの眼帯を殺すのは無理だ。他のやつにするぞ」
「あの袋どうする?」
「放っとけ、少しは役に立ったろ……ったく」
「……スケア、俺はあのメガネのことをあまり知らないのだが、それほどに強いのか?」
「あ、私もよく知らないかも」
森の中から帰ろうとしていたスケアに人族の男と猫人が問うた。
二人から質問に、泥を払いながら、苦い思い出を振り返るように口を開く。
「……あいつは、俺らより後に冒険者になったやつだ。そん時の格好は今でも忘れねぇ……血塗れの服、痩せこけた体、そんときにはメガネをつけてなかった。そして、装備も何もつけてない状態で手には切れ味の悪そうな大きな剣を持っていた」
「なんだそりゃ、変人って言われる理由はそれか」
「ちょっと前までずっとそんなんだったでしょ? それは私でも知ってるわ」
「……その隣にティータの血盟主がいた。あの小さい褐色のガキだ。あいつは冒険者になる前にスカウトされてたんだ」
「親族とかじゃないの?」
「違ぇだろ。そういう会話は聞いてねぇ」
「親族でないとすると……冒険者になる前に関わりがあったのか」
「まぁ、そうなるだろうな」
森から出ていく際に飛んでくる魔物を捌きながら会話をする6人。
スケアやアンに一方的に弾圧されてしまったが、実力は平均的な下位一階〜中位の間の冒険者より頭が一つ抜けているのは確かだ。
「だけどあんな奴を学舎で見たか? この王国内の学校とは交流があったから一通り生徒の顔は見たが、あいつは見たことねぇ。他の国の学校から来たのかもしれねぇけど、それじゃあティータの奴と出会う機会なんてねぇし」
「村人……ってことか」
「だろうな。村人がティータにスカウトされたことになる。ありえねぇ話だがな」
村人――学校に通うことも無く、農作や酪農を中心に行って将来冒険者になるような人物は少ない。
どの種族であれ、この世界において序列は一番下に位置している。
力を有さず、一方的に税を搾取されて護られる存在……。それ故に宿屋や旅への中継地として利用され、ギルドへクエストを発行する存在だ。
「そんで冒険者になった後、すぐにあいつは【進化】の個体をクエスト外でギルドへ持ち込んでいた。何匹もだ。それに……」
「それに?」
「お前らは知らないと思うが……、あいつは俺らが予定していた下位ダンジョンを先にクリアしていた」
クラディスがこの世界に転生する少し前。
デュアラル王国東部の大森林、名前は『モルの大森林』。名前こそフワフワしてそうだが、魔王の再生者の領地まで続く大森林であり、レイメイにある森と同じように下位ダンジョンと上位ダンジョンがある。
デュアラル王国側の下位ダンジョンへ行く予定の前日にスケアは場所の下見に向かっていた。
そこで彼が目にしたのは、下位ダンジョンから出てきたケトスだったのだ。
「だったら俺らの記録って――」
「馬鹿言うな、上層は確かに弱かったかもしれねぇが、下から上まで上がってくる時間でまた魔物が作られる。記録は間違いねぇよ……。だが、あいつは一人でクリアしたんだ。同期の中でも飛び抜けてる、あいつが居るうちは無理だ」
「そうか……同期で英雄に近いのはあいつなんだな」
矮人は悔しそうに声を出し、周りの仲間も唇を噛んだ。
その言葉にスケアは何も答えようとせず、森の外へと歩く足をやめなかった。
◇◇◇
ケトスの話によると、ケトスは元々ただの村人だったらしい。
父親が傭兵で、母親は物心着いた頃には居なかった……と言っていた。
冒険者ギルドとは違い、傭兵には傭兵のギルドのような組合があった。そこの中堅の傭兵だった父親に着いて村を転々として友人は居らず、学校に行ってない。
だけど、その暮らしもケトスにとっては楽しい時間だったらしい。
魔物から人達を護る父親の背中はカッコイイし、自分もいつかはああなりたいと思っていたのだと言う。
――そして数年前、父親と来ていた村が異常事態に襲われた。
今まで見たことの無い量の魔物が村を飲み込み、来ていた傭兵の仲間も村人も全滅。
ケトスを助けようとした父を貫いた剣。それは殺された傭兵が使っていた武器だったらしい。
体全体で父親から溢れ出る血液を浴び、視界も真っ赤になった。
その時に、ケトスの耳に今まで聞いたことの無い声が聞こえた。
――称号Ⅰ:勇者が与えられました
そこからは魔物を倒すのに身を投じ、住む場所などなかったし、収入もなかったケトスは空腹も喉の渇きも睡眠欲でさえ敵を倒すので紛らわせていた。
森で暮らしていた時に偶然出会ったのが、デュアラル王国の大森林の中にある中位ダンジョンへと向かっていた【ティータ】のリリーさんだったらしく、そこでスカウトされたらしい。
スカウトされて血盟に入った後も毎日のように一人で魔物を殺して、数週間、長い時には数ヵ月の間血盟に顔を出さない時があった。
そんな日々を送っていたら知らない間に強くなってたんだと。
「……で、気がつくとクラディスを襲ってたんだよね〜」
壮絶な過去をそんなテンションで言われても、反応に困るんだが。
なに、笑顔でそっか〜って言えばいいの? わかんないよ。
「そんな過去があったんだね」
っていうのだけでいっぱいいっぱいです。
「大変だったんだな、お前も」
「ちょっとだけね。でも元々弱かったから彼らの気持ちも分からなくもないんだよ」
「…………そっ、か」
「あ、ごめんごめん! 別に重たい話じゃないんだ!!」
「……軽い話でもないと思うけど」
「本人が大丈夫って言ってんの、もう克服したから」
ケトスの説明を聞いてると、称号というモノがよくわからなく思えてきた。
後天的に与えられるということは、この世界で『勇者になる』っていうのに何かの基準があるんだろうか。
「それで、お前は英雄とやらになるのを迷ってる理由はなんだ。【勇者】が世界を救うというのは、よく聞く話だ。わたしですら知っているからな」
「気になってくれた?」
「ふんっ」
「教えてやんないよ〜」
小さく舌を出すと、アンと取っ組み合いの喧嘩になっていた。
それで結局教えてくれなかったし。なんだそら。
「悩みをほいほい言うとでも思ったか! まぁ、これは自分の問題だからさ」
人の飯を喰らいながら何を言うか。
──で、本当に教えてくれなかった。
なんのために言ってきたんだよ。そのくせ、最後には先輩ヅラでこうも言ってきた。
「一つ言えることは……そうだな。クラディス達も、次のステップに進んでもいいんじゃない?」
「ステップ?」
「うん。ダンジョンだよ。駆け出し冒険者の登竜門、下位ダンジョンにさ」




