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182 木上の観察者



 この世の不思議が詰まった迷宮は、未知を求めて冒険をする彼らにとってはなんとも魅力的な場所であった。

 それは、いつの時代でも変わらない。過去も現在も関係ない。

 そして先程、この場所に冒険をしに来た者達は、霧状に肉体が吸収されて行っている。

 憐れだと思うだろうか? 

 無謀だと思うだろうか? 

 次は来ないと思うだろうか?

 そんなことはない。

 ほら、この迷宮にまた来客が来た。今度は、白金等級と金等級で構成された中堅の冒険者一党。

 やってきたぞ! やっつけろ! 目標は五階層にいると言われている化け物だ! うぉぉぉぉ!


 などと小さく呟きながら、黒いフードを着用していて顔が見えない人型の何かは、迷宮に入っていった冒険者の背中を見送りながら笑った。

 

「あ~、アホらし」


 中位迷宮上の広場。その高く聳えた巨木の枝に地上を見下ろす形で腰を掛けている。

 足を投げ出し、プラプラと遊ばせながら、コロコロと笑う。

 その声は、なんとも若々しい女性の様な声。どこか、気品も感じられるような気もする。

 

「これだから、人界の様子を見るのは飽きないわぁ~。が従属させてる魔物が弱いわけないじゃない。ほーんと、お馬鹿なんだから」

 

 と、誰に当てたわけでもない言葉を発すと、迷宮内に入って行った冒険者一党の様子を目を瞑って――外からは素顔は見えないのだが――楽しんでいた。

 小気味良い鼻歌を歌いながら、高さ数十メートルの所で全身でリズムを刻む。

 

「~♪ ……おっ! 来た来た!」

 

 四階層から五階層に続く階段下の扉の前で、魔素が止まった。そこで、数秒。おそらく作戦会議。

 そして、とうとう彼らが第五階層の扉を開いた――という所で、鋭く舌打ちをした。

 その理由は目の前に展開された魔法陣。そこから発せられる女性のような声。


『――――――』


 聞こえる言葉に適当に相槌を打って流すと、話途中に展開された魔法陣をぶつりと強引に打ち消した。

 

「はぁ〜、はいはい、分かりましたよ~っと。今んところ順調だし、そろそろ冒険者依頼も発行されてる頃ー……かな? めんどくさい……けども、お仕事するかぁ〜」

 

 魔法陣から聞こえてきた女性の声は、ただの催促だった。

 内容は単純。遊ぶな、早く調査をしないか、と。

 良い所だったのになぁ、と思いつつ体をぐいっと伸ばす。

 どうせ白金等級と金等級だ、それなりに持ちこたえるに違いない。決着を知れないのは寂しいものだ――……。

 ――あら?

 ところが、感じていた魔素が消えたではないか。それも全て、同時に。

 

「瞬殺ぅ? まじぃ? ぷぷぷ」


 白金等級、金等級という人界側の中堅層を一振りで沈めた攻撃。果たしてどんな攻撃なのだろうか。

 大きな骸骨兵の一撃、それとも傍らの二体の骸骨兵が何かしたのか。それとも……。

 あーでもないこーでもない。面白おかしく冒険者の最期を考えながら、その者は木上から姿を消した。

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