122 見抜かれ
作ったご飯を入れ物に詰めていると、二人が起きてきたので作りかけていた料理で朝ごはんを作ってテーブルに並べた。
二人とも匂いに釣られて目も半開きで眠たそうなまま料理を食べ出して、三分後くらいには意識が戻ってきたようで会話を始めだした。
「朝ごはんが食べれるって新鮮……」
「クラディスと一緒にいたら作ってくれるし、美味しいからボクは満足です!」
「イブさんはもう胃袋掴まれてるよね」
「えぇ、もうギュッと掴まれてます」
「そのスープお気に入りだもんね」
そんなことを言いながら朝ごはんを頬張る姿を見ていると、イブは飲み物の牛乳でヒゲを作りながら手に持っていたスプーンを置いた。
「ん、美味しくなかった?」
「ううん……クラディスのご飯食べれなくなるの嫌だなぁーって思って」
「まぁそう言わないで、寂しくなっちゃうから」
「……寂しくなるならボクと一緒に来たらいいのに」
「昨日話したでしょ、今は無理だって。」
「むー……ちょっとだけでも」
「なに? クラディスはイブにスカウトされたの?」
「スカウトというかなんというかって感じ」
「クラディス~、ねぇ~ぇ!」
「そんな口調で言ってもだーめ、次会った時に誘ってって」
「あー、振られちゃったね」
「もー! 知らない!」
「……いいの? お弁当作ったけど」
「お、お弁当……?」
サッと台所に置いていた弁当をイブに渡したら、目がキラキラと輝いた。
「お別れの時は笑顔で別れないと後に引きずっちゃうからね。僕からのサプライズ」
「中身は! スープは!? 入ってる!?」
「スープは入れ物がないから入れれなかった。でも、イブが好きなもの入れといたよ。日持ちしないから早めに食べてね」
「うん……!」
「機嫌直った?」
「最初から怒ってなかった!」
「へぇ~?」
「クラディスー、僕には?」
「ケトスは無し」
「えぇ~……」
落ち込んだケトスは横のイブが持ってる弁当をチラッと見た。
その視線に気づいたのか、イブはサッと反対側に弁当を移動させた。
「ボクのだからあげないよ!」
「イブって食に関したら強欲なんだね。そんな食い意地張るような感じしないけど」
「クラディスの料理が美味しいから仕方ない」
「あー、それは仕方ないね」
「仕方ないか?」
大事そうに弁当を袋に収納して、二人は残りの朝ごはんを平らげると服を着替えて、少し昼までの時間を潰して昼前にギルドに着くように家を出発した。
◇◇◇
ギルドに着いた僕たちは中に入らず、外で待つことにした。
料理を頼まないのに食事処の所に座るのは少し気が引けてしまうからだ。
ちょっとだけでも頼んで待っておく? と聞いたけどイブとケトスが「クラディスの料理を食べた後だから、余計なの入れたくない」と言ったので、僕も満更でもなく了承した。
「ファザーって人か……怖い人だったらどうしよう」
「ファザーはちょっと怖いよ、でも優しい人」
「リリーさんに聞いたんだけど、そのログリオっていう人、元皇の人らしいね。雲の上の存在だよ」
「えぇ!? ほんと? そんな凄い人なの?」
「らしい。しかも皇を自分でやめて、そこで仲良かった人達と建ちあげたのがイブさんが在籍してる
【ハインスト】って血盟なんだってさ」
「皇か……」
剣闘士系の最高官位。剣闘士協会の頂点……。
その実力はどれほどなのか分からないけど、今の僕が何か失礼なことをやらかしたら気がついたら死んでそうだ。
……話を聞くにつれてイブのやばさが分かるな。
「ログリオさんか……どんな人かとか分かればいいんだけど。暗黒森の番人なんだよね?」
「耳が尖ってて、肌が黒いのは確か。あとはこんな感じの帽子を被ってるんだっけ」
「暗黒森の番人でハットを被ってる……。それってあの人じゃない?」
黒のハットに黒の制服のようなものに身を包んで、肌も黒に近い色ということもあって遠目で見たら真っ黒な人が冒険者ギルドに向かって歩いてきているのが見えた。
あんな黒い服で身を包んでいたら日光によく好かれてそうだ。
そうすると、僕達に気づいたみたいで頭をぺこりと下げて少し歩くスピードを上げて僕達のところに来た。
僕らの前に立ったその人から溢れ出る圧をどこか感じて、自分ですら気付かないところで自然と一歩後ろに後退した。
「ファザー!」
「イブ、元気にしてた?」
「うん!」
「よかった。……すみませんね、うちのイブが迷惑かけちゃったみたいで」
来て一番謝りの言葉が出てくるとは思ってなくて、少し反応に困ったけど直ぐに僕とケトスも「迷惑だなんて、そんな」と否定した。
糸目でいまいち表情が読み取れなさそうな人だ。
エルフ系だからおそらく見た目年齢よりずっと高齢なのだろう。見た目はナグモさんと同じかそれ以上かという見た目をしている。
「元気な子で大変だったでしょう。本当に世話を焼く子でね」
「とても楽しかったのでお気になさらず」
ケトスに聞いた話で僕とケトスは若干の緊張をしている
。絶対的な実力差がある人を目の前に、いつもの冗談など言えるはずもなく、最低限度の機嫌を損ねないような言い回しで返答をしていった。
「ボクはクラディスとケトスさんに迷惑なんてかけてないよ!」
「そうかそうか。……ん、え? 君達がクラディス君とケトス君……?」
「うん。眼帯で優しそうなのがクラディスで、ボサボサでメガネがケトスさん!」
「ボサボサって……」
「はぁ、なるほどなるほど。話には聞いてたよ。そうか、君たちが……――あぁ、自己紹介がまだだったね、私はログリオ。マーシャルとリリーとは血盟主同士仲良くさせてもらってるんだ」
「どうも」
「……表情が固いね、緊張をしているのかな?」
「クラディス達は友達だから変なことしないでよ」
「もちろん何もしないよ。でも、そうか……」
すると、糸目だった目を少し開きこちらを品定めするような目を向けてきた。ジィッとみられるのはマーシャルさんにもされたが、それよりもっと奥深く覗かれているような気分にされる。
ジロジロと僕とケトスを交互に見ていって、納得したように頷いた。
「ケトス君は魔導士、と言うよりかは剣闘士みたいな感じだね。普通そんなステータスの伸びはしないからね。で、クラディス君は不思議だね。色々なステータスが伸びてる。一番伸びてるのはagilityかな?」
「……!」
「『鑑定』を……やったんですか?」
口から出てきたのは僕とケトスのステータスを大まかに言い当てる言葉だった。
(転生者だって、見られた……!?)




