121 聞けるわけないよな
早朝。
窓の外から人がたてる物音すら聞こえないような時間で、宿舎に暮らしている人の環境音すら聞こえない、まだ眠っているんだと思う。
そんな時間だけど、僕は起きてイブのお弁当を作っていた。
好きなスープを入れることは出来ないけど、ちょっとでもこの出会いに感謝しようと思って前から考えていたサプライズだ。具材は昨日買ってきたモノの残りになるけど、それでもイブが好きなモノばかりを入れるつもり。
音を立てないように気を付けていたけど、フライパンや包丁で切る音は隠せない。
それでも二人の睡眠を妨げないようになるべくゆっくりと動くことにした。
そういえば、イブが来てから眼帯を外して眠らないようになった。
あの二人になら見られても大丈夫な気はするけど……、一応、レヴィさんとの約束だからな。
「これで、よし」
お弁当を先に完成させて、一旦眠気覚ましのためにコーヒーを淹れた。
(僕の目の事を考えていると、ケトスの称号Ⅰの話を思い出す)
初めて会ったあの日、ケトスは口から自然と出たように「称号Ⅰを持ってる」と言った。
それについて考えていると見透かしたような態度を取られて結局聞くことができず、あの日以降、僕からもケトスからも話題に出すことは無かった。
(イブは、どうなんだろうか)
イブもケトスと遜色ない戦闘能力を見せてくれた。それに同年代でケトスより階級が上で……血盟も強い所に入っている。ケトスが【称号Ⅰ持ち】であったとしたら、イブも【称号Ⅰ持ち】である可能性は高い。低くあるはずがない。
飲みかけのコーヒーから二人が寝ている方に視線を移した。
もし……イブが本当に【称号Ⅰ持ち】だったとして、僕はどうするんだ?
そのことを知って、何か態度が変わったりする……? いや、僕は変わらないか。
(だったらイブが「クラディスが実は転生者」だと知った時……どんな反応をするのだろうか)
僕が転生者だと知ったら……いや、これはイブだけじゃない、ケトスも、僕がそうであった、と知ったらどうなるんだろう。
(……この、平穏で心が落ち着く日を送れなくなるのかな)
友情、恋情ですら転生者という事実で憎しみに書き換えられる世界で、僕が転生者だと知った二人がこれまでのように関わってくれる保証なんてない。
「……聞ける訳ないよな、そんなこと」
転生者の情報が欲しいのは事実。
だが僕が、今、選ぼうとしているのは『進展』ではなく『安定』。
そもそもすべて確証がない話なんだ。ケトスが言った【称号Ⅰ持ち】というのは嘘かもしれないし、イブに関してはただ強いという理由で【称号Ⅰ持ち】と判断してしまうのは非常に安直であり、それを元に話をするのは危険な橋だ。
一歩でも踏み外してしまうと、昨日の心が温まる生活が一気に無くなってしまう。
そうなった時……僕は……。
そこまで考えると、僕は考えるのをやめてコーヒーを啜った。




