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暗闘  作者: 伊藤むねお
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功労者

 事件の発端となった火傷事件はメディアが派手に報道したこともあって、杉ビルがベールを脱いだ後はその因果関係を隠すことはできなかった。

 杉社長が記者会見を開き、未完成の時点でのテストで生じた不測の事故であったとして陳謝すると、世論はすぐに沈静に向かい、杉ビルの新イルミネーションの興味がいっそう高まった。

 黒木父子と埼南大学には杉電器が多額の見舞金を支払うことで和解した。初めは強欲振りを丸出しにして息巻いた黒木監督だったが、同行した秦と有田が黒木を別室に連れだして芳しくない噂を仄めかすと直ぐに口を閉じた。

 鴨原は沢田とマクネリ組織の大物との会話を録音したテープの提出と、現職から足を洗うことを条件に放免された。瀕死の状況にありながら指文字を残した功績がものをいった。


 功績というのであれば、運転手を捕まえ、鴨原をつきとめ、その指文字を再現し、更には逃亡を計ったヒトマロを捕らえて堺の監禁場所を吐かせた伊能こそがダントツの功労者なのだが、そのことは議題にも登らなかった。どの報告書にも伊能の名前が無かったからである。

 遠山から伊能のことを秘して欲しいと懇請された刑事たちはみな粛々とその意図に沿って動いてくれた。鴨原と同じ警察病院に移されていた桐山辰造の枕元には秦と有田が赴き、今回の罪を問わないことを条件に負傷は逃亡時の転倒による自傷であるとさせ、ヒトマロについては、手にした拳銃の暴発、逮捕における有田との格闘による負傷であるとする調書を、格闘者(?)の有田自らが作成し、それを読み上げる有田を、包帯の隙間から怪訝そうな目で見ていたヒトマロだったが、なぜかひと言の抗弁もなく自署、押印した。


 捜査は一応の決着をみた。直前、遠山は重い守秘義務を課した佐野以下、捜査一課外から招集した全員を元の部署にはもどさずに、そっくり捜査一課にひとつ係を新設して異動させることを決定していた。総監命令とはいえ、抱えていた仕事を放りだして迷惑をかけた上司や同僚に、「何も話せない、何も聞かないでくれ」を押し通せというのは余りにも非現実的であり、酷なことでもあると判断したのである。

 佐野は昇格し警視正となり刑事部長を補佐する参事官となった。



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