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暗闘  作者: 伊藤むねお
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驚愕桐山

 小さな公園を見つけてそこのトイレに入った時、呼吸も動悸ももう普段のペースにもどっていた。

 途中、小さな雑貨店でこまごまとしたものを買い、それを紙のバッグに入れてもちこんだ。まずワイシャツの上から黒っぽい安手のセータを着込むと、使い捨ての剃刀を取り出し少々痛いのを辛抱しながらもみあげを短く揃え眉毛も細めに剃りをいれた。最後に整髪用のスプレーを振りかけて髪を真ん中からきれいに両側に分けた時はもう機嫌良く口笛を吹いていた。

 手をよく洗い、ごみを下の缶に入れ、端の欠けた鏡を眺めると、われながら手を打ちたいほどの出来映えである。逃亡者は満足そうに背を少し反らした。

 ――さて、とりあえず沢田に連絡をせんとなあ。しかしどう言ったものか。どうして逃げる羽目になったのかと聞かれて、さあどうしてでしょうねえというのもなあ。いや、それよりもやばいのじゃないか・・・そうだよ、やばいよ。

 影浦甚吉。本名、桐山辰造は考えた。

 ――報酬があれだけよかったということは絶対に失敗を許さないということだ。沢田のやつは得体がしれん。おっかないことを平気でやるのだ。そうだ、思い切ってバードに一切合切話をしてほとぼりが冷めるまで匿ってもらおう。バードならそうしてくれるはずだ。手付けを返してもその方がいい。それがいい。それになぜバレたかの謎解きもしてくれるはずだ。バードは頭がいいからな。

 辰造の分別は立派なものだった。

 その時、人がひとり入ってきた。辰造は反射的に顔をそむけ蛇口を開いて手を洗うふりをしたがすぐに苦笑した。用心の必要はなかったのだ。

 しかし鏡を見てどきりとした。男は学者のような端正な顔をしていたが、それが自分の頭の上から見えるほどの長身だったからである。

 ――嘘だろう? やつか? いや、やつだ。だがどうしてだ。どうしてここまで追ってこれたんだ。糞!

 辰造はどうやって振り切るか、脳にありったけの血液を送って打開策をみつけ出そうとした。しかし長身の男は滑るように背後に寄ってくると、あっという間に辰造の肩を掴んでしまった。

「聞くことに答えろ」

「な、なに」

 辰造はその手を払いのけようとした。払いのけて頭突きをかませる。辰造の得意とするワザだった。しかしその瞬間、掴まれた肩で何かが爆発し、辰造自慢の闘志は一瞬にして消滅した。


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