Ep1.「最後の日常」
初投稿です。不適更新ですがよろしくお願いします。
西暦4501年3月1日。火星のテラフォーミングが始まって早30年。火星の地下に、滅んだ数万年前の文明遺跡が発掘された。
その遺跡では、人類よりもはるかに進んだオーバーテクノロジーが詰まっており、数万年経過していても動作に支障が出ないオーパーツが日用品に至るまでゴロゴロ転がっていた。
それは停滞し種としての退化を始めていた人類に明るい希望をもたらした。
宇宙への、本格進出。すでに頭打ちとなっていた地球での発展。新たな世界を望む人類にとって、光明をもたらすはずだった。
すでに人類は知っていた。新たな技術、新たな世界、が招く恩恵と、その代償を。
しかし、傲慢な人々は、その代償を甘んじて受け入れてしまう...
「わああああ!?もうこんな時間!?」
「ユメノ!あんたのせいで遅刻しそうじゃない!」
「電車逃しちゃうよぅ!マイク先生に怒られるぅ!」
資源コロニー、アズカ5の駅構内。時刻はグリニッジ標準時午前七時一六分。コロニー内のハイスクールに通う3人の女子生徒が全力疾走で駅構内を駆けていく。
改札が目の前に差し掛かったところで、カーゴが出発する合図が鳴り響く。
「急げ急げ!」
「あああああ!」
「間に合ってぇ!」
階段を勢いよく駆け下り、乗車場につく。
カーゴのドアはまだ空いていた。
「すいませえええん!」
「私たちいいい!」
「乗りますぅ!」
間一髪、ユメノ達3人はカーゴに乗ることに成功した。
ドアが閉まったと同時に、カーゴが次の駅に向かい発進する。
「はぁはぁ...ね?間に合ったでしょ?」
「ぜぇ...ぜぇ...なにが...まにあった...だよ...」
「あぁ...よかったぁ...」
3人は息を切らし、カーゴの床に座り込んでしまう。
3人はいつも一緒に行動しているのだが、ユメノが「新作レーションを食べたい!」と言い出し、登校前に買い食いを始めたところ遅れそうになったわけである。
「あーあ...結局味わってる暇もなかったなぁ」
「はぁ...もういいわ...」
呆れたようにマニがため息をつく。いつものことだ。
「ねぇユメノ。あんた今日の発表どうするの?」
「あたし?」
走った時に乱れた三つ編みを直しながら、ユメノはマニに振り向く。
「あたしは最近の情勢かな。ほら、アズカ2に民主軍が入港したって言ってたじゃない?近所がピリピリするの、嫌いなんだよね」
ユメノは自分のサイドルーズの三つ編みにうっとりし、マニに対してさらっと返す。
ユメノの太い三つ編みは彼女のチャームポイントだ。
「へー意外。ちゃんとしたのやるんじゃん。私はアズカの誕生の秘密だな。資源採掘用っていっても、アズカ系列はちゃんと都会してるからなぁ。内容は、発表のお楽しみ」
「みんな偉いなぁ。私なんか近所のスイーツレーションぐらいだよぅ。でもでも、美味しいからみんなに食べてもらいたいなぁ」
「あんたはそのままでいいのよ...」
マニは最近ぷにっとし始めたカレンの腹をつっつき、わずかな抵抗を楽しんでいた。
その時、カーゴ内でアナウンスが流れる。
『訓練、訓練。乗車中の皆様にお知らせします。先ほど、アズカ5で緊急避難警報が発令されました。当車両はこのまま最寄りの避難ステーションまで移動いたします。ご不便、ご不安をおかけしますが、よろしくお願いいたします。』
カーゴ内で避難警報のアナウンスが流れる。ここ半年、かなり物騒な情勢により突発的な避難訓練が起きている。
民衆からは事前の告知を行なって欲しい旨の主張が続いているが、アズカ側は沈黙を貫いている。
「まぁしょうがないわよね。ユメノの興味持ってるやつ通り、最近は物騒だし」
「ここからだとぉ...ブラウンステーションかなぁ?」
「結構学校と近いわね」
「...」
マニとカレンはいつものことだと、携帯端末を見て暇を潰している。
そんな二人をよそにユメノは、窓ガラスから外の景色をずっと見ている。
「ねぇ...二人とも...」
「ん?」
「どうしたのぉ?」
「コロニーに穴が空いてる」
「え?」
「?」
その途端、耳をつんざく警報が鳴り響く。
『緊急避難!緊急避難!コロニー内に民主軍が侵入!住民の方は直ちに退避してください!繰り返します!民主軍の襲撃です!』
警報と共に爆発音が各地で聞こえてくる。
「はぁ!?」
「なになにぃ!?襲撃って...」
「...」
ユメノが見ていたコロニーの穴から軍用タイタンが入り込んでくる。カーゴ内はパニック状態だった。
『お客様にお知らせします!当車両はまもなくブラウンステーションに到着いたします!ステーションの職員に従い、慌てずに避難してください!』
「カレン!ユメノ!いくわよ!」
「なんでこんなことにぃ!」
マニとカレンは下車する準備を整える。
「...」
「ユメノ!なにぼさっとしてるの!早く避難しないと!」
「あぁ...うん...」
ユメノはカレンに連れられ、カーゴを降りる。
駅は付近にいた人々でごった返していた。
「すごい人...」
「そりゃそうだ。このあたりで一番交通が密集してるからな...」
「...」
「ユメノ?」
「なんか...気持ち悪い...」
ユメノは肩を震わせ、その場に座り込んでしまった。
「ちょっとユメノぉ?大丈夫ぅ?」
「なんか...やばい...う...」
ユメノは口元を抑えて、嗚咽を漏らす。
「ちょちょちょ!カレン!あたしユメノをトイレに連れてくから手伝って!」
「えぇ!?わ、わかったぁ...」
「ユメノ!まだ決壊しちゃダメだからね!?」
「うぅ...うえ..」
「うぉおおおおおおおぉぉぉぉ...」
「はーいはい。ぜーんぶだそうねぇ。そうそう。口の奥に指突っ込んでー」
「ごぼぼぼぼぼぼぼぼ...」
「なんか溺れてるような音聞こえるぅ...」
ユメノは大便器に顔を突っ込んで盛大にリバースしていた。
「しかし、襲撃なんてね」
「本当。無事にかえ―――」
ユメノはカレンがしゃべった続きがそこから聞けなかった。
真後ろで轟音が鳴り響いたからだ。
ユメノはしばらく耳鳴りが続いていた。
顔はトイレの中にあり、周りを見れなかった。
背後から飛行音と体が飛びそうなほどの風圧が感じられた。
「あ...?」
便器から顔をあげ、後ろを振り向く。
眼前に広がっていたのはコロニーの風景だった。女子トイレの中ではなく、親しんだコロニーの風景。
自分に寄り添ってくれた親友二人は、どこにもいない。
視界の端にある4本の足は、きっと飛んできたマネキンだ。足元まで流れてくる生臭く赤い液体も、なにかの廃液だろう。
ユメノは腹の底から恐怖が押し寄せてくる。そして、目の前を飛行している、建物の屋根を吹き飛ばしたであろうロボットを睨む。
「あぁ...」
どうして自分がこんな目に?
「ああああぁぁぁ...」
どうして親友二人を瓦礫の下に?
「あああああああああぁぁぁ...」
どうして自分だけ生き残った?
「ああああああああああああああああああああああ!」
ただただ、目の前の鉄屑が憎い。あれを壊したい。自分を、親友を、家族をめちゃめちゃした奴が憎い。
ユメノ達の日常は、ここで終わってしまった。
読んでいただいてありがとうございます。次回もどうぞご期待ください。




