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銀香と鷹宮

放課後の部室。

窓から入る風が、将棋盤の上の駒をかすかに揺らしていた。

鷹宮は盤を片付けながら、心の中で何度も同じ言葉を繰り返していた。

——部長のためだ。

一条玲奈の言葉が、まだ耳に残っている。

「神崎を頼む」

夏が終われば、部長は引退する。

それまでに、銀香との関係をどうにかしなければならない。

——俺のわがままで部長を心配させた。

それだけは、もう嫌だった。

鷹宮は息を吸い込み、振り向く。

部室の隅で棋譜を見ていた少女。

銀香。

ギャルっぽい髪とメイク。

だが盤を見つめる目は真剣だった。

「神崎。」

呼ばれて銀香は顔を上げる。

「え? なに?」

鷹宮は少し視線を逸らした。

「……話がある。」

銀香は少し驚いた顔をした。

これまでほとんど話したことがない。

むしろ避けられていた。

「俺は……部長に頼まれた。」

銀香が首をかしげる。

「頼まれた?」

「お前のことだ。」

銀香は一瞬身構えた。

——来た。

内心、そう思った。

また外見のことを言われるのではないか。

将棋に向いてないとか。

そんな言葉を覚悟した。

だが鷹宮は静かに言った。

「将棋の話をする。」

銀香は少し拍子抜けする。

「……将棋?」

鷹宮はうなずく。

「この前のトーナメント。」

「あれ、どうだった。」

銀香は少し目を伏せた。

「負けたのは悔しかった。」

「でも……」

言葉を探す。

「それ以上にさ。」

少し笑って言う。

「外見と勝負を結びつけて、いろいろ言われたのが一番悔しかった。」

鷹宮は黙って聞く。

銀香は続ける。

「みんなにも迷惑かけたし。」

「でもさ。」

顔を上げる。

「将棋もギャルも好きだから。」

「やる。」

「やめない。」

はっきりと言った。

銀香は内心、構えていた。

——ここで否定される。

そう思った。

だが鷹宮はあっさり言った。

「両方好きならやればいい。」

銀香は瞬きをした。

「え?」

「ただ。」

鷹宮は盤を軽く指で叩く。

「負けないようになればいい。」

銀香は少し笑った。

「それができたら苦労しないよ。」

「だから目標を作れ。」

鷹宮は言う。

「段を取ること。」

銀香の目が丸くなる。

「段?」

「そう。」

「ただやってても強くならない。」

「段を目標にしたらどうだ。」

銀香は少し不安そうに笑った。

「そんなに強くなれるかな……」

鷹宮は肩をすくめる。

「それはお前の努力次第だ。」

そして続ける。

「この部には有段者もいる。」

「部の中で勝てるようになれば、段も取れると思う。」

銀香は少し考えた。

そして、明るくうなずいた。

「わかった。」

「やる。」

その素直さに、鷹宮は少しだけ驚いた。

「……そうか。」

少し沈黙。

鷹宮はふと思って聞いた。

「神崎。」

「お前、将棋をどう思ってる。」

銀香が首をかしげる。

「どうって?」

「目標とか。」

「あるのか。」

銀香は少し考えてから笑った。

「うーん。」

「強くなりたいとは思う。」

「でも、今は楽しいって感じかな。」

そして逆に聞いた。

「鷹宮先輩は?」

「目標あるの?」

鷹宮は言葉に詰まった。

——タイトルを取りたい。

将来。

棋士になって。

タイトルを。

心の中では、はっきりしている。

だが。

なぜか言葉にできない。

自分でも焦っている。

高校生でタイトル取るのも珍しくない時代だ。

自分の実力はどうなんだ。


沈黙が続く。

銀香は少し笑った。

「まあいいか。」

軽く手を振る。

「そのうち聞くよ。」

その言葉に、鷹宮は少し救われた。


翌日。

部室。

一条玲奈が腕を組んで宣言した。

「よし。」

「神崎特訓だ。」

部員たちが顔を上げる。

「え?」

銀香が目を丸くする。

一条玲奈は笑った。

「各部員、順番に神崎と対局。」

「徹底的に鍛える。」

「段を目標にするんだろ?」

銀香は鷹宮を見る。

鷹宮は軽くうなずいた。

部員の一人が笑う。

「面白そうじゃん。」

別の部員も言う。

「初心者の成長見るの楽しいしな。」

銀香は少し照れながら言った。

「よろしくお願いします!」

その声は、明るかった。

部室の空気も、どこか軽い。

窓際で腕を組みながら、

一条玲奈はその様子を見ていた。

——少し安心した。

まだぎこちない。

だが。

確かに、二人の距離は動き始めていた。

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