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にゃん鬼行  作者: てふ
青の玉
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志乃武家 7話  新緑

▶れんげ花

正装は重い。

慌てて、弟 おとにも正装をさせる。


音は、つい3日前に元服している。

酒も酌み交わし。もう立派な志乃武の家の者だ。

音は、少し さがって控えて立つ。

村の者がため息をつく。

中には泣いて居る娘もいる。

音に思いを寄せる娘は、さぞ多い事だろう。


兄弟とは言え、美しく育った。

武には向かない、優男で美男だ。・・・。

母“ささ” も、今日ばかりは、野良着から、

着物に替え、紅まで挿している。


開け放った縁側は、いつもと変わりない。

風は、畑の薄い紫の花を撫ぜてまわり、

抜けていく。


“しゃん。 しゃん。”

聞いた事もない音、風に乗って香が舞う。

傍家 しのの家に嫁が入る。


本家の奥の方“ふみ殿”の代りに、

村の女が数人、篠の家へ来て

お披露目の用意をする。母上も手伝っている。


俺と、音は、ただ座って支度が終わるのを

開け放たれた部屋でまつ。


そのむすめは、 

”ムラサキ”と

名を名乗った。


“しゃん。しゃらしゃら。”

頭を下げた娘の簪が、きらきらと陽日に光る。

目が合う。

とても、長い時が流れた。

風が抜けていく。


気が付いた時には、

父上が来て、少し談笑し、

本宅へ帰って行くところだった。

・・・。


ひとまず、母上の部屋を居住まいとし、

ムラサキの侍女達は、篠の家の土間から上がってすぐを部屋とし、

住み込む形になる。


父上の話では、

ムラサキを俺の嫁に、侍女の内どちらかを音がとる。

と、言う話であったらしいが、

俺は、娶る事を辞退したので、必然的に音がもらう事になる。

侍女は、志乃武家の侍女として貰いうける形をとった。


本家、我が主 りつには、

まだ、嫁は入らない。 

許嫁の三夜城の姫はまだ、幼少だ。


はぁ。

女子のいる暮らしなど耐えられない。

居心地が悪いので夕餉を終えると、本家へ。


・・・本家の縁側で横になる。

夜風があたたかくて、むずがゆくなる。

はあ。


りつが気づいて出てきた。

「どうした?」


"どうした?・・・"か、

笑いを押し殺し、りつが座布団を投げてよこした。


何も言わずに、座布団を受け取る。

畑の向こうの居宅をみる、もう灯りが消えている。

少し、ほっとする。

音は、爆睡していた。

優男は、女子にさほど抵抗はないようだ。

・・・。

それにしても、

篠の家に嫁をとる話、いつから知っていたのだ?

もう、声を上げて笑ってしまっている律を問い詰めようとしたが、

「知ってたのか?」

まぁ当主だし、知ってるだろう。


俺は、主より先に嫁は貰わない。

理由わけは、わかっているだろう?


律は、少し困った顔をして

「産まれる子が、女子ならいいだろ?

・・・もし、男子でも、志乃武家の火種になるまでに十年は、いる。

それまでに赤子はどうなるかわからん。」


そうだ。

・・・律の母ふみは、1人目の子を産んですぐに亡くしている。

おそらく志乃武の村で、

その事を知っているのは、母上”ささ”と俺だけだ。


ふみ殿は、無理を押して、律を産んだ。

それが祟ってか、今も床に伏している。

もともと、身体は、強い方ではなかったらしいが。


・・・。俺は、志乃武家の為に生きる。

そして、志乃武の当主の代りに死を受け入れる。

物心ついた頃には、決めている。

それは、十六になった今も、揺るがない。


嫁か…。

まだ、質の段階だし。

すぐにどうこうではない。が、

音の女と思えば、たとえひとつ屋根の下で暮らそうが、

志乃武の家に、不穏な要素は、産まないだろう。


ただ、

ムラサキを初めて見た時の衝撃が、怖かった。

これは、

深入りしては戻れない。

・・・気がする。

はぁぁー。


律がまた、にやにやと笑う。

はぁぁー。 人の気も知らず。


・・・よし。

考えても無駄だ。寝よう。

目を無理やり閉じた。

気持ちの良い夜だ。


律もからかい疲れたのか、戸を開けたまま布団に入った。

そのまま寝てしまった。


目が覚めてすぐ目の前に、

美男 音の目がうるうると、俺を見ている。

律は、わざと自分の着物を俺にかけ、

隣に座った。

・・・


音の顔は、血の気が引いて青い。

「やはり、あの噂は、ほんとだったのか・・・?」

「そんな事もあるのか?世の中はわからん。」

・・・

「メシだよ・・・。」

・・・言うと、目も合わせずに

篠の家へと、引き返していく。


とぼとぼ歩く弟を見送りながら

となりで、主は笑い転がっている。

はぁぁー。


ねむい。

板の上で寝たからか、身体が痛い。

ばきばきと、腕をのばした。

れんげの香が

あたたかい風に乗って抜けて行った。


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