にゃん鬼 月の温度 5話
▶ゆきのうた 月灯り
あたたかい。
そうか、寒かったんだ。
やわらかい。
“・・・・。" "・・・ね。"
"・・・・”。
ん?
はなすおと。
“・・・おちた?・・・なにが?・・・どこに?”
“おとした?・・・だれが?・・・ここに?
?
やわらかい。
あたたかい。
“・・・きでね。・・・てね。・・・そだって”
”・・・あいにきてね。”
「あいにきて」「まってる」
・・・?
置いていかないで、ここはどこ?
寒い。置いて行かないで。
帰りたい。
かえりたい。
”ゆきさまっ。ゆきさま。”
侍女の声で、目が覚めた。
どこ? ああ、ここは・・・。
きのうから、宮を移した。母はいない。
私が布団から出るのを確認すると、
侍女は、ばたばたと部屋を後にした。
・・・汗をかいて気持ちが悪い。
顔を洗いに中庭の見える廊下へ出た。
ぽたぽたぽた。
雨降りだ。
中庭に人影がある。
・・・。
母が心配になって様子をみに来ているのかもしれない。
背筋を伸ばし、
ねまの襟元を正して廊下を渡る、
厠の横の水桶から、水を取って顔を洗う。
ぱしゃ。
ぽたぽたぽた。
雨がぽたぽた足元で跳ねている。
掛けてあった手ぬぐいで顔を拭いて、
ふっと庭先の人影の方を見た。
・・・?
しらない女
ひらひらと衣が舞っている?
・・・。
ぽたぽたぽた。
どこかで見覚えのある?その女は、
少しうつむき、歌っている。
私に微笑むと、
すっと庭の奥へ消えた???
”ゆきさま。ゆきさま。”
侍女の声がした、朝餉の用意ができたのだ、
私を探している。
私を見つけて、傍まで来ると手ぬぐいを私の手から奪いとり。
はぁ。と、息をついた。
侍女は、私の顔をやさしく拭き、
雨に濡れた衣の裾を拭いてくれている。
ぽたぽたぽた。
ぼーと呆けた私を自分の体へくっつけてさすった。
”寒いですね。雨降りです。”と言って、私の見ている方を見て、
「どうしました?」と心配そうに聞いた。
女があっちへ消えた?・・・と、
・・・言葉にして言うと急に怖ろしくなって、
ぎゅっと
口を結んで、涙をこらえた。
侍女は、また私を自分の体へくっつけてさすった。
”雨降りですからね。”と
平気そうに侍女は言った。
堪えていた涙が溢れそうになる
ほんとうは、きのうからずっと堪えている。
でも、人前で泣いてはいけません。
涙が零れないよう侍女が私の顔を自分の胸に押し付けた。
・・・私を憐れにでも思ったのだろう、か?
なぜかはわからないけれど、
侍女も泣いていたように思う。
部屋へ戻り、着物を替え、膳の並んだ広い部屋へと入った。
ぽたぽたぽた。
雨降りだから。すこし寒い。
雨の影に母が居る気がする。
心細い気持ちを
まだ熱い汁で飲み込んだ。




