四十九話 顔
「あっははははは!」
儀式を終え、聖堂から王宮へ続く道の途中。
デント、ユーリィ、ベルジェールの俺達三人にティナが加わり、ティナがさっきから大笑いしていた。
「ティナ!良い加減にしろ!もう良いだろ!」
「ダモレ、顔赤いよ?あっはははっ」
「レガリアしてんだから、顔見えねぇだろ!」
ティナが海神の巫女だと知らなかった俺は、聖堂でその正体が明かされた時、大声で驚いてしまったのだ。
おかげで俺の声は儀式の硬い空気に響き渡り、冷ややかな注目を浴びてしまった。
「デント!なんでティナがあそこにいたんだよ!」
「ティナはアトラシアの民、アトラシアンの末裔だ。」
「えええええええええ!!」
シードルに続いてティナまで!
アトラシアンの末裔だったのかよ!
「あっはははは!そのびっくりする顔が見たかった」
「だから顔見えねぇだろって!」
ティナは大役を終えた後だからか、晴れやかな笑顔だった。
「そもそも、テッドレッドを作ったのもティナの祖先だ。」
デントが知識を付け加えてきた。
「そうなのか!」
「クリストファー・アルステッド、ヴォザーカ・ダモレッド。この二人がテッドレッドの創設者だ。常識だぞ。」
「ダモレ、チュートリアル受けてないの?」
義務教育のことをチュートリアルって言うな。
「つまり、アルステッドとダモレッドでテッドレッドってわけだ。」
「ん?ちょっと待て、ダモレッドって。」
「あぁ、ダモレと似てるってか?この国にはよくいる名だぞ。創設者の名は縁起がいいからな。」
「そういうことだったのか」
どちらかといえば、ヴォザーカのほうが本名魚坂に近かったんだが笑。
「そういうことだったのかユーリィ。…ユーリィ?」
そういえば、さっきから俺達の前を歩くユーリィが全く会話に入ってこない。どうしたんだ?
すると、久しぶりにユーリィの口が開く。
「ダモレ、見てみろ。」
「ん?」
ユーリィが立ち止まり、景色を眺めている。
俺も同じ方向を見てみた。
そこからは街が一望できた。
なにやら街のあちこちで人々が集まり、わあっと歓声が上がっていた。
「アトラシアの聖なる水だ!」
どうやらアトラシアマリンによる水の供給が再開されたらしい。
街はすっかり沸き立っていた。
「ダモレ、よく目に焼きつけるんだ。…これがお前の守ったテッドレッドの景色だ。」
その言葉を聞いてわかった。
そうか、俺は、命懸けでテッドレッドを守ったんだ。
「ダモレ、お前は本当に…いや、なんでもない。」
ユーリィが珍しく口ごもった。
「そういえばダモレ、さっきからなんでレガリアをつけっぱなしなんだ?」
「へ?」
「もう聖堂出たんだからはずしても良いんだぞ。」
そう、聖堂に出てから皆がレガリアをはずす中、俺はあえてレガリアをはずさなかった。
「これを取ったら、ベルジェールじゃなくなるじゃん。結構気に入ってるんだよなんか。」
「そうか、そろそろ王宮につくぞ。外しても良い頃だ。」
俺はレガリアをとり、横にあった屋敷の窓をみた。
その顔を見て驚愕した。
「なっ。イケメンになってるうううああああ!!」
デント、ティナ、ユーリィは冷ややかな目で俺を見ていた。
「元からでしょ?」
「いや!更にカッコよくなってるって!!なんというか!!俺好み!!」
転生してから今まで、自分のことをイケメンだとは思っていたが、カッコいいとは思ってなかった。
けど、今はなぜかカッコいい!!
何故だ!!
俺はハッとした顔で呟いた。
「ヲメスだ。…俺はヲメスになったんだ!!」
俺が悦に浸っているとデントが口を出してきた。
「ベルジェールだの、ヲメスだの、お前は一体何に憧れてるんだ。」
ユーリィも苦笑いするしかなさそうだ。
でも、そんなことはどうでもいいくらい、今は俺は自分の顔面に夢中になって眺めていた。
すると、イケメンの瞳から一筋の涙が頬を伝った。
「…え?」
それを皮切りに、何故かホロホロと涙が溢れ出てきた。
「えっ…えっ…」
"俺は生まれて初めて、自分のことが愛おしいと思ったのだ"
「うっ、うっ、」
俺はその場で胸を押さえて膝から崩れ落ちた。
するとユーリィがそっと背中をさすってくれた。
「ダモレ、よく頑張ったな。」
こんな感覚、初めてだった。
自分の中の壊れていたところが少しずつ癒えていく。
その奥から、言葉で表すのがもったいないくらい愛しい感情が湧いた。
俺、誰かのためにこんなに頑張れたんだ。
きっと、そんな自分を認めてあげられたから、鏡に映る自分がイケメンに見えたのだろう。
「うああああぁ…」
しばらく泣いていた俺を、ティナとデントは何故か静かに見守ってくれていた。




