表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と繋がれない俺は、世界最強のペアを目指す  作者: HATENA 
第1章_未接続(アンリンク)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/17

第7話 波形が出てたらしい

 放課後の自販機前は、いつもより人が少なかった。

 実技のあと、白石はほとんど話さなかった。

 プリントを配る時も、椅子を引く時も、こちらを見る直前でやめた。

 俺も避けた。

 避けたまま一日が終わった。

 机の横を通る時、白石の鞄だけが視界に入った。

 缶コーヒーのボタンを押す。落ちてくる音が、やけに大きい。


「神代」


 花宮だった。

 片手に紙パックの紅茶。もう片方の手で端末を持っている。何かを見せに来た顔ではない。見せるか迷っている顔だった。


「白石と喧嘩?」

「喧嘩じゃない」

「じゃあ何」

「実技で失敗した」

「それ、白石的には喧嘩より重そう」


 自販機の横で、一年らしい二人組が炭酸を買っていた。片方が取り出し口に手を突っ込んだまま「あ、違うの押した」と笑う。

 その笑い声だけが、変に普通だった。

 軽く言ったあとで、花宮は目を伏せた。


「ごめん、今の軽かった」

「いや」


 花宮はこういうところで戻ってくる。

 大河なら踏む。小鳥遊なら踏む前に刺す。


「噂、出てる」


 花宮が言った。


「噂?」

「神代と白石の波形が変だったって」

「誰が言ってる」

「いろいろ。実技室にいた人」


 いろいろ、という言い方が一番厄介だ。

 誰か一人なら否定できる。いろいろなら、もう空気になる。


「波形が出てたらしい、とか。先生が記録保存した、とか。仮ペアなのに初日から再観測かも、とか」

「再観測?」

「知らない。誰かが言ってただけ」


 花宮は端末をしまった。


「でも、白石には聞こえてると思う」


 返事ができなかった。

 白石の顔が浮かんだ。

 すぐに、自販機の明かりへ目を逃がした。

 缶コーヒーのプルタブに指をかける。開ける前に、後ろから声がした。


「何を話してるの」


 白石だった。

 足音に気づかなかった。

 花宮が一瞬だけ俺を見る。助け舟を出すかどうか迷った顔。


「噂のこと」


 俺が先に言った。

 白石の視線がこちらに向く。


「どの噂」

「波形が変だったって」

「そう」


 白石は短く返した。

 缶の列から目を動かさなかった。

 自販機がまた低く鳴った。

 誰かが取り忘れた紙パックが、取り出し口の中で斜めになっている。

 花宮がそれを取って、近くの一年に声をかけた。


「これ、忘れてる」

「あ、すみません」

「白石」

「何」

「聞こえてたのか」

「聞こえないふりはした」


 静かすぎて、自販機のモーター音が急に近くなる。

 花宮が紙パックを握り直す。


「白石さん、私」

「いい」


 白石は花宮の方を見た。


「止めなくていい。言う人は言うし、見ていた人がいるなら、消えない」


 そこで一度、言葉が切れた。

 白石の目が、俺に戻る。


「でも、神代くんが何も言わなかったのは残る」


 花宮が息を止める気配がした。

 俺は、何か言おうとした。

 言い訳ではない、と思いたかった。

 けれど、口に出す前から言い訳の形をしていた。


「白石が、嫌がるかと思った」

「何を」

「かばわれるの」


 白石はすぐには答えなかった。

 自販機の中でモーターが低く鳴っている。


「それは、半分当たってる」

「半分」

「うん」


 白石は缶の列を見るでもなく、ただ自販機の明かりを見ていた。


「かばわれるのは嫌。勝手に弱い側に置かれるから」

「じゃあ」

「でも、何も言われないのも嫌」


 言ったあと、白石は顔をしかめた。

 唇を噛む。


「面倒だと思うなら、そう思っていい」

「思ってない」

「早い」


 また言われた。

 俺は口を閉じる。

 白石はその間を待った。


「……分からない」


 言葉は、それだけしか出なかった。


「白石がどうされたら嫌なのか、全部は分からない」

「うん」

「でも、何も言わないのは違った」


 白石の視線が、ほんの少し揺れる。

 でも彼女は、怒らなかった。


「次は」

「うん」

「勝手に決めないで」

「分かった」


 白石が眉を寄せる。


「今のは?」

「……分かった、じゃなくて」


 言い直す。


「気をつける」

「……たぶん、それでいい」


 花宮が小さく息を吐いた。

 場が少し戻りかけた時、白石の端末が震えた。

 続いて、俺の端末も。

 同じタイミングだった。

 画面には短い通知。


《明日放課後、再確認実技》

《対象:神代玲/白石凛》

《接続波形の再観測を行います》


 花宮が横から見て、声を落とした。


「……やっぱり、普通じゃないじゃん」


 白石は何も言わなかった。

 俺も言えなかった。

 缶コーヒーは、いつの間にか手の中でぬるくなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ