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準備も終わって、ひと段落した頃。成瀬は桜木との約束を思い出し、電話をしようと、一旦みんなのそばを離れた。
電話をかけると思いの外、すぐに出てくれた。
「もしもし。成瀬ですけど。佐奈?」
「うんそうだよ。もしかして準備終わったの?」
「うん。だからその約束のこと」
デートという言葉が恥ずかしくて少し誤魔化す。
「本当にしてくれるの?てっきりこのまま逃げるかと思ってた」
「心外だなあ。俺は約束は破らない主義なんだよ。それにあんなに杭をさされて逃げれるわけないと思うだろ、普通」
電話の奥で笑い声が聞こえた。
「そっかそっか。それもそうだよねうん。じゃあ待ち合わせは有高でいい?」
有高とは俺たちが通っていた有明高校の略称である。
「ああじゃあまた後で」
「うんまた後で」
そこで電話は終了した。そして今頃になって気づいた。振り返るとそこには源喜や美代子さんそのほかにも親戚の人がにやにやとした表情で俺の様子を伺っていた。そして俺に見つかるとざーっと居間に逃げる様に戻って行った。しかしまだ残っている人がいた。母と・・・・・・
「ひゅーひゅー碧くんもやっと彼女ができたんかい」
もう酒瓶を開けて飲んでいる成瀬のおじである。そしてその息子の源喜。
「親父ぃ、こいつは実は高校生の頃彼女がいたんやで。いつの間にかいなくなってたけどなあ」
源喜がここぞとばかりに暴露話をする。
「え、そうやったんかあ。ほな今日は逃げられんよう頑張らんとなあ」
冗談ぽくからかい口調でおじは言った。
しかし、その言葉に成瀬はぐさっと来てしまった。『逃げられた』その一言でいやな記憶が蘇る。
あの夏、俺の片思い、いや両思いだった・・・かもしれない女子は突如俺の前からある手紙を残して姿を消した。一日中町の中を走り回っても見つからず最後、その子の家を訪ねても帰ってきてないとのことだった。そして、あの頃の俺はとてつもなく馬鹿だった。
「じゃあ、また帰ってきていたら連絡をください」と伝えたのだ。たしかにあの時は体力も限界だったし、桜木も熱中症で倒れてこれ以上は探せない。そして時間が経てばまた家に戻ってきているだろうと思ったのだ。それが馬鹿だった。その女の子は確かに手紙に書いていたのだ。私はもうじきいなくなるけど、探さないで下さい。と。『もうじきいなくなる』それがその日の出来事ではなく、そのあと退学すること、そしてこの世からいなくなることだとあの時の俺は気づいていなかった。
その場にいると呼吸が乱れてしまいそうだったので、成瀬は靴を履き、外に向かおうとする。すると後ろから母の声が聞こえた
「もう行くのかい?」
「ああ人を待たせたらいけないし、なんで?」嘘ではないが今はここから立ち去りたかった気持ちが強く、つい口調も強くなってしまったいた。
「そう。行ってらっしゃい気をつけてね」母は寂しそうにそう言った。
その言葉を聞くと成瀬は振り返らず早足で家を出た。




