クィトス王国 5
緋煉のヒロイン昇格か否か。その途中結果を発表します。
賛成:14
反対:19
どっちでもいいよ的な曖昧な票:4
いやぁ、緋煉のため(?)にありがとうございます。
一応言っておきますが、ヒロインじゃなくても出番はあります。紅蓮もついてきますが、そこはまぁ許してやってくださいw
「えー……ではこれより、アマミヤ様対ウルティリス様の決闘を始めます! 各自、前へ!」
場所はまたもや王城の地下修練場。そこに10名の人が集まっていた。青の勇者である4人と、宮廷魔道士団大隊長のマナガフ、審判役の騎士が2人、教会から引っ張ってきた高位治癒術師も2人、それにクィトス王国の美姫ウルだ。
ちなみに。毎回地下を選ぶのは2級以上の大魔法を使わせないためだったりする。修兵とウルが王都郊外の草原で戦った時など、修兵が下手に3級の魔法を使うものだからさあ大変。ウルも対抗するためにそれ以上の魔法を使い、その周囲一帯が凍り付いて不毛の地になった。
そんなことがあったので、ウルvs誰かの試合もしくは決闘は地下で、という暗黙の了解が生まれたのだ。幸いなことに、今のところ地下で大魔法をぶっ放すバカは1人も居ない。
「なんでオレのは蹴られたのに黒羽のは受理されてんだ?」
「貴方が2日に1度送るからですわ。そろそろ落ち着いてもいい頃ではありません?」
「な、何でお前、それ知ってんだよ?」
「王女さんから相談されましたの。いい加減しつこい、と」
「たしかに修兵さんの執着具合はストーカーに匹敵しますからね」
「お前らちょっと酷くないか?」
タクのために頑張っている修兵がボロクソ言われる不思議。
まぁ、タクを知っている人間は全員が『タクなら世界が滅んでも逞しく生き続ける』と思っているので、誰も心配などしていないのだが。ただしクィトス王国側の人間は王女が追放したとあって、タクにあまりよくない感情を抱いている者も多い。
「王女サマ。ルールと約束は覚えてる?」
「えぇ、もちろんです。だからこそ“試合”ではなく“決闘”としたのですから」
そう、今回は修兵の時の保守的なルール満載の試合ではなく、ガチの戦いで命の保証だけが辛うじてあるという決闘になっているのだ。理由は単純。黒羽、ウル、両名ともに得物を使って全力で戦いたかったから。
「ふぅー……ねぇ、王女サマ」
「なんでしょう」
「私ね、初めてなのよ」
「…何がですか?」
「本気でこの剣を振るうことが、ね」
そう言って黒羽が構えるのは漆黒の大剣。刃渡り120㎝強、刀身の幅は10㎝、柄は30㎝程度。全て合わせて150㎝を超える、女性が扱うには大き過ぎる剣だ。その重量は30㎏に迫るほど。
「…アマミヤ様には天賦の才がありましたね。それを自由に扱う姿は私も驚きました」
「ま、これを使うために魔法は殆ど捨てたのよね。それでも十分に戦えるから気にしてないけど」
黒羽は基本の魔法《ウォーター》と、出が早い《○○・バレット》系しか習得していない。では魔法の習得以外に何をしていたのか?
黒羽は、他の3人が魔法を学んでいる間に、ただひたすら身体強化の鍛錬をしていたのだ。それはもうこの世界の人間では到達し得ないレベルであり、あのタクにすら匹敵しかねないほどである。
燃費の悪い魔力での身体強化は極限まで効率を求められたその技術によって、6時間以上の継戦能力を得た。そんな異質さも相まって、『黒揚羽』もとい『クロアゲハ』という異名は騎士達に広がりつつある。
(『クロアゲハ』の異名、バカには出来ませんね……構えの時点で隙が少ないですし、もう目と足は強化しているようですし。私にとって幸いなのは魔法の引き出しが少ないことくらいですか。ただただ身体強化の一点特化。単純な脅威というのは厄介ですね……)
下手な小細工など通用しない。特化型にはそれ以上の実力でぶつかるのが最善手なのだ。特に今回の決闘など、事前に罠等の準備が出来ない場合は。
「終わりましたか? ……そうですか。では、コホン……いざ尋常に、始めっ!」
「ふっ!」
もう殆ど掻き消えるような速度で黒羽は踏み込み、そのまま大上段から一閃。対するウルは微動だにせず、しかし冷静に氷の棘を交差するように2本、そこに壁を1枚だけ造り出し、それらでギリギリ大剣を受けきった。
しかもそのまま大剣が凍り付いてしまう。抜き出せないわけではないが、どうあっても僅かな隙を晒すことになるだろう。さらに氷壁の残骸から無数の棘が発生する……が、
「うらぁぁぁぁ!!」
「なっ!?」
足刀一閃。ほぼ真っ二つに断ち割られていた壁の右側が、ウルに向かって散弾の如く襲い掛かった。言うまでもなく黒羽が蹴り砕いたのだ。その棘を蹴ったはずの黒羽の足は……衣服が裂けただけで傷1つ付いてなかった。
「……貴女もなかなか、非常識な人ですね」
「王女サマには言われたくないわ、よっ!」
1歩踏み込んでの斬り上げ。ウルはそれを下がって回避……したところで黒羽の左足が跳ね上がってきた。慌ててそれも避けるウルはやっぱりか、と顔を顰める。
『クロアゲハ』とは、漆黒の大剣とその持ち主の戦い方、その両方から付いた異名だ。
黒羽は大剣の重過ぎるという点を、新たな重心として活用し始めたのである。つまり、振り上げた大剣に引っ張られる力をそのまま利用して相手を蹴る、なんてこともやるのだ。
(剣に振られることは悪いこと……その常識を真っ向から潰すような戦い方ですね。剣に振り回されながら戦うなんて普通の兵士には出来ないでしょうけど)
空中でそのまま一回転して着地した黒羽を睨み付けるウル。常識的な戦い方ではない、ということは定石通りの対応では対処しきれない可能性がある、ということだ。黒羽に対抗したいなら――
(私も非常識な世界に踏み入らなければいけませんか……)
――その土俵に飛び込むしかない。
“非常識”とは“数世代先の技術”ということも珍しくないのだ。それを例えるなら、剣と銃で戦っているようなもの。銃に勝ちたいならこちらも銃を装備するのが一番である。少なくともそれで対等に近付くことは出来るのだから。
(仕方ありませんね。マナガフの推論と、タク様の魔法の使い方、その両方を参考に練った運用法……まだまだ未熟な形ですが使わないわけにはいきません)
パキ…と、ウルの周囲から何かが軋むような音が。最初は微かなそれだったが、すぐにしっかりと聞き取れるほど大きくなる。
「……へぇ、そんなもの隠してたのね、王女サマは」
「私とてこれはまだ使いたくありませんでした。アマミヤ様がもう少し常識に収まっていてくだされば良かったのですよ?」
そう言うウルの周りには無数の氷剣が浮いていた。
こうして話している今も増え続けるそれを見てマナガフが目を見開いていたが、ウルはそれを一瞥しただけで無視した。目が合った時に少しだけ脅しの色があったのは黙殺するためだろう。
「では――始めましょうか」
「っ、はっ!」
まずは様子見……なんてことはしない。最初から全力で黒羽を潰しに掛かる。ウルは自らの周囲に10本だけ残して、他は全て黒羽に向かわせたのだ。
黒羽はその全身を使って次々と迫る氷剣を砕いた。手足が届かない範囲は大剣で薙ぎ、逆に大剣では対処しにくい近くにあるものは殴り蹴って折る。それでも延々と増え続ける氷剣に痺れを切らしたのか、なんと黒羽は氷剣の1つを足場に空中へと跳び上がった。
(逃げ場がない……とは言えませんね。むしろ空中は彼女の領域。……私の魔力が尽きるのが先か、アマミヤ様の体力が尽きるのが先か、の勝負ですね)
ウルの視線の先では、氷剣を踏み砕いて跳び上がった黒羽がそこからさらに大剣を振り回して暴力の嵐と化している。いかに魔力で強化されているとはいえ、そこは氷だ。黒鋼の塊には勝てない。
と、その時。黒羽とウルの視線が交錯し、黒羽がニィィ…と笑った……とウルが認識した直後にはもう黒羽が目の前まで迫っていた。
「でやぁぁぁぁっ!!!」
「っ! はぁっ!!」
空中、つまりウルよりも上からの加速を一番に活かせる攻撃――大上段の一撃を、ウルは周囲に残しておいた10本と、追加で生成した氷剣で受け止めようとする。
一瞬で20本近い氷剣が砕かれ、このまま黒羽が押し切るかに思われたその時。未だに空中に浮いている黒羽の足をウルが掴んだ。そしてそのまま投げた。
「え!?」
「敵を常に視界に入れておくのは定石です、よっ!」
大量の氷剣に遮られてウルの姿が見えなくなっていた黒羽は、その予想外の攻撃に一瞬だけ反応が鈍ってしまう。攻撃とは言ってもダメージは皆無なのだ、警戒心などが緩んでも仕方あるまい。
しかしそれはすぐに間違いだと知る。黒羽の背後、つまり投げられた方向に氷剣が待機していたのだ。このまま飛んでいけば背中から串刺しである。だから黒羽は――大剣を地面に叩き付けて停止する、という荒業を使った。
(さすがですね……やはりそう来ますか。だからこそ、これで終わりです)
床を抉りながら着地した黒羽は、そこに殺到する氷剣を撃墜するために横薙ぎに一回転。ボンッ! と大剣の先から空気を圧縮するような音が聞こえたが今は関係ない。その一薙ぎの間に勝敗は決していたのだから。
「っ! 足が!?」
「もう終わりですよ、アマミヤ様」
黒羽が作った床の窪み。その深さは大体20㎝ほどだ。そこに氷が張っていた。
「…ここまで考えていたのね?」
「空中で止まるにはそれしかないと分かっていたので簡単でした」
「くっ……はぁ、降参よ。負けたわ」
黒羽の周囲にはまだ氷剣が浮いている。足を固定している氷を砕くのは容易だが、それをしている間にハリネズミと化すのもまた容易だろう。
この決闘によって勇者達、特に修兵が頭を抱えることになるのだが、そもそも普通にやっても勝てないのだから悩む意味などなかったのだった。




