54話 手榴弾柘榴
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カーネアに辿り着いてから一夜が明け、ティック曰く赤の勇者である『ユーキ・アカイ』がやって来る日――の早朝、まだ薄暗い時間帯にタク達3人はある迷宮の前にまで来ていた。
「ふぁぁ……眠いです……」
「……気合一発」
「熱っ!? ちょ、フィムさ、熱い熱い熱いですって!!」
「……これから迷宮。油断禁物」
「あぅ、そうですね、すいません」
そんなやりとりを横目に見つつ、タクは迷宮を前にして首を捻っていた。そこはカーネアからさほど離れているわけでもなく、ましてや厳重に管理されているわけでもない。つまりいつでも魔物が溢れ出てくる危険性がある状態なのだ。
それでも整備だけはしてあるのか、ただの洞穴であったはずの場所は入り口だけレンガで固められている。それに階段も作られていて、ゴブリンの所とは雲泥の差だ。
「まさか本当に聞いた通りだとは思わなかった」
「何がですか?」
「……?」
「植物型の魔物はダンジョンから出てこないらしい。それをいいことに警戒・監視を疎かにしているんだと」
その情報源は戦闘ギルドの受付嬢だ。別にその女性がタクと同じことを言ったわけではなく、タクがそう受け取っただけではあるが似たようなものなので気にする必要は無いだろう。なお、戦闘ギルドは24時間営業である。
一応タクは、ここトレントの迷宮でやってはいけないことを聞いてきた。この狩場がずっと残っているということは、なにかしらのルールや暗黙の了解があると思ったからだ。
1.主であるトレント・ゴッデスを倒してはいけない。
2.魔物を狩り尽くすのは厳禁。
3.迷宮自体の破壊行為も厳禁。
4.1~3を守っていない輩は殺さずにギルドへ連れてくること。
以上の4点だけは絶対に守れとタクは言われた。どれもこれも破ると気まぐれなギルマスが烈火の如く暴れ回るらしい。だからそれでいいのかギルマス……とタクが嘆いたのは言うまでもない。
「……♪」
「ふふっ」
「…やけに機嫌がいいな。何かいいことでもあったのか?」
「……これ、マスターと同じ」
「妾もです。最下級ですけどね」
そう言って2人が懐から取り出したのは戦闘ギルドのカードだ。どちらも灰色で、最低ランクのストーンを表している。実はタクもギルドでの依頼を達成したことがない――正確に言うならば、ミリアーナから受けた依頼の精算を終えていない――ので、最下級のストーンランクだ。つまり3人で同じ色のカードを持っているということ。
「まぁ、今日中にブロンズに上がるだろうけどな」
「タク様の行動は予想外ですからねぇ……」
「……ん」
「パーティーを組まずに、あくまで個人での活動にするとは……ギルド側からしたらズルいと言いたいところでしょうか」
「俺が思い付く方法なんだから他にもやっているヤツは居るだろ。ギルドだって依頼が消化されたり素材が手に入ったりするんだから文句を言える立場じゃない」
なんとも歯に衣着せぬ物言いだが、概ねその通りなので誰も反論はしなかった。
龍瑠の言葉にもある通り、タク達はパーティーを組んではいない。それを組んで1つの集団になってしまうと、その集団1つで依頼1つという制限を受けてしまうからだ。
しかし個人でならば、1人1つまで依頼が受けられる。つまり3人で3つの依頼が受けられるのだ。これは意外と大きい。特にタク達のような単体戦力の高い冒険者ならばかなり稼ぐことが出来るだろう。それに個人で依頼を達成した方がランクアップも早くなる。ギルドとしては実力ある人間を低ランクで燻らせておくわけにはいかないのだ。
「……楽勝?」
「どうあっても苦戦はしないだろうな」
「ストーンの新人とは思えませんね」
「何を今さら」
タクはランクで言えばプラチナかそれ以上だし、フィムと龍瑠だってゴールドには届くだろう。それが最底辺に3人も居るとは……理不尽な世の中である。
さて軽口を言い合いながらタク達が入って行った迷宮だが、内部は全くと言っていいほど整備されていなかった。形状的には蟻の巣に似ている。階層という概念は無く、至る所に小部屋があるのだ。
「おぉ……野菜でいっぱいだ」
「……美味しそう」
「いやよくそんな呑気に眺めていられますね!? わっ、痛っ、なんなんですかこの豆は!」
「龍瑠は楽しそうだな」
「どこを見てそれを言っているんですか!?」
「……踊ってる」
「避けているんです!!」
少し進んだ辺りから、蔦や蔓、さらには種子の弾丸などに襲われ始めた一行だが、騒ぐのは龍瑠だけだった。何故ならタクは飛んでくる豆その他をキャッチしてそのまま『ストレージ』に放り込んでいるし、フィムは薄い〔焔〕の膜を纏っているので攻撃が届かない。
「目的の魔物は奥の方に居るらしいし、とりあえずはこのまま進むぞ」
「……ん」
「痛い! 痛いって言ってんでしょうが、豆こらぁ!!」
ちょっとだけ龍瑠のキャラが崩れていること以外は、いつも通りの3人だった。
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「お?」
「……っ!」
「わ、ととと……なんですかあのザクロは」
「グレネイド・ポミグラニット。さしずめ手榴弾柘榴ってところか。目的のヤツだ」
大分奥まで進んだタク達。段々と爆発系の植物(?)が多くなってきた、そんな矢先に依頼にあった目的の魔物と遭遇する一行。
「うーん……あれ、どうやって採取するんだ?」
「……落ちる前に、キャッチ?」
「それ怖いですね。手元で爆発とかシャレになりませんよ」
「まぁ、やってみるか」
そう言ってタクが大部屋の中央に生える巨木に近付いた途端、真っ赤に熟れたザクロがボロボロと落ち始めた。タクはそれを数瞬だけ観察し――
「……!?」
「えぇー……」
――持ち前のあり得ない速度と化け物じみた体幹制御を駆使して、落ちてくるのが早いものから順に全て獲った。
「……爆発、しなかった」
「そうだな。地面に落とすのがダメなのかもしれない」
「傍迷惑な果物ですね……」
「1つ食うか?」
「遠慮しておきます」
あの爆発を見てもなお口にできる猛者はタクとフィムくらいだ。つまり2人はその場でザクロを食ったのだが。
「多分、種を遠くに飛ばすのが目的なんだろうな。壁にもめり込んでるし」
「それなら納得できなくもないですが……それ、どうやって爆発したんですか? というか食べても大丈夫なんですかね?」
「軽い〔火〕の魔法が掛かっていたからそれで爆発したんだろ。その魔力ももう尽きたみたいだぞ? ほら」
タクが龍瑠の足元にザクロを1つ投げつけた。龍瑠は思わず悲鳴を上げそうになったが、なんとか堪える。
「もう! いきなりはやめてください!」
「どうせ爆発しても痛がるだけだろうに。それより、俺の言った通りだっただろ?」
「うむぅ……」
悔しそうにしながら、それでも食べ物を粗末にする気は無いのか渋々といった体でザクロを拾い上げて口にする。途端に笑顔になるのだからそこまで気にしていなかったのだろう。
どうでもいいことだが、植物型の魔物が〔火〕の魔法を使っていたことに関してはスルーなのか。いや、本当にどうでもいいことなのだが。
植物とかの名称を新たに考えるのは楽しいのですが、それが何を表しているのか分からなくなりそうなのでこの世界の植物等は地球と同じ名前とします。分かり易さが一番です。




