24話 翼が
「……ますた」
「んー?」
タクがエグい話を長々と語った日の夜。もう3日間も宿泊しているお馴染みオストロの鈴亭の一室。こうして考えると分かりやすいが、タクがメルテリアに来てからまだ4日間しか経っていない。それなのに大進行という特大イベント(問題)を引き当てるとは、さすが主人公。
「……いっしょにねたい」
「別にいいけど、どうした急に」
「……なんとなく」
「なんとなくかよ……んじゃ枕持ってこい」
「……ん」
フィムは就寝用の薄い服を着ている。これは買ったものではなく、戦闘ギルドの受付嬢がおさがりで良ければと譲ってくれた物だ。
「明日は調査する必要がないから体術をちょっとだけやってみるか?」
「……ん!」
「よし、じゃあ早く寝るとしよう」
「……ますた、おやすみ」
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翌朝。タクは強烈な違和感に襲われて飛び起きた。
森まで出かける必要がなくなったので、今は普通に朝の6時過ぎといったところだ。
「………………」
「…んぅ…マスター……ぅにぃ…」
「うにぃ…ってなんだよ……じゃなくて、ちょっと起きろ」
「……んゅ? ぁ…マスター……」
「おはよう。じゃあ説明してくれ」
「……? ふわあぁ……にゃにを?」
「お前がいきなり成長したことについてだ」
違和感の正体はフィムだった。寝る前からしがみ付かれていたのだが、その時は大して重さを感じなかった。しかし今朝は違った。なんかいきなり重量が倍増したかのように感じたのだ。まあ間違っていなかったが。
実はフィムの背中にある翼も原因だったりする。
「? ……あれ? マスター、フィム大きくなってる」
「そうだな。そしてお前が何も知らないことが分かってしまったよ……」
フィムは自分の身体を見て率直な感想を言った。タクはそんなもの全く求めていなかったが、知らないのなら仕方ない。
見たところ10才ほどだろうか。とにかくフィムは完全に4才児ではなくなっていた。
「……それにこの翼、生えて……ないけど、これ何?」
「俺が知る訳ないだろ……」
そう、フィムの背には純白の翼があるのだが、背中から生えている訳ではなかった。肌から5㎝ほど離れた空中に小さな金色の魔法陣が浮かんでおり、そこから翼が生えてきているのだ。
「……あと、服キツい」
「それは我慢しろ。つーかお前って奴隷だよな? 奴隷ってこんなに自己主張が激しいのか?」
「……? 分かんない」
「なんか“奴隷の心得”みたいな教本ってないのかな……」
何故かいきなり成長したことによって合計20万円分の衣服が全て無駄になった。身長が100㎝から140㎝になったのだ。脱ぐのも不可能なくらいにパッツパツになっていた。これは貰い物の服だったが。
仕方がないのでナイフで切って服を脱がせるタク。どうでもいいが躊躇いなく幼女の服を脱がせていくタクは色々な意味で度胸があると思う。
「ちょっと待ってろ。今から適当に買ってくるから」
「……ん。裸は寒い」
「少しは恥らえよ……てか裸で居る必要は無いからな? 布団にでも包まっとけ」
服を切り裂かれて裸に剥かれたのにフィムは堂々としていた。……字にすると警察のお世話になりそうな気がするから不思議だ。この世界に警察はいないが。
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「どうだ?」
「……ん、ピッタリ」
宣言通り、タクはすぐに上下1組の簡素な服を持って帰ってきた。麻のシャツとなんだか良く分からない素材でできた丈の長い薄青色のスカートだ。それと無意味に等しいほど薄い靴を持っている。これらを身に着ければ誰でも『村人A』になれそうなラインアップだった。
「多分だが、お前はこれからも唐突にデカくなる。だから成長が止まったと確信できないうちは安い服で我慢しろ。いいな?」
至極真っ当な正論だった。この急速成長が今回だけとは限らないのだから、態々高い服を買う必要はない。
「……あ」
「ん?」
「……マスター、多分フィムは160ゼルくらいで成長が止まる」
「根拠は?」
「……今思い出した。ステータスプレートに書いてある」
「は? ちょっと見せろ」
「……ん」
ゼルとはこの世界の長さの単位である。何故か1ゼル=1㎝が成立していて「ご都合主義も程々にしろよ」と、タクがぼやいていた。
それはともかくフィムが結構大事な情報を口にした。どうやらそう思った理由はステータスプレートにあるらしく、早速タクがチェックする。
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名前:セラフィム
Lv:11
適性:戦闘技能〔体術〕〔双刀〕〔補佐〕
魔法属性〔聖〕
状態:記憶封印Lv.5/5→Lv.4/5
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「あ? なんだ“記憶封印”って」
フィムのステータスプレートには気になる事柄が追加されていた。だがそれを見ただけではどういう意味があるのか分からないので、タクは問いかける。
「フィム、これは記憶の封印が少しだけ解除されたという解釈で間違いないな?」
「……ん」
「それで? 今回お前は何の記憶が蘇ったんだ?」
「……思い出したのはほとんどフィムのこと。他は分かんない」
フィム曰く、
・こうなったのはレベルが10を超えたため
・次の成長はいつなのか分からないが、あと2回だけ急成長すること
・2回目に身長160ゼルほどになり、見た目は20代前半まで成長すること
・それに伴って精神年齢も引き上げられること
この4つの事柄を思い出したらしい。タクが欲しいと願っていた情報がピンポイントで手に入ったので「だからご都合主義はヤメロって……」と嘆いていた。
「はぁぁぁ……まあいいよ、うん。お前は何故かレベルが上がると物理的に成長する、ただそれだけだ。それより体術の訓練するぞ」
「……ん!」
どうやらタクは気にしないことにしたらしい。というかいくら考えても分からないことであり、新たな悩みの種になりそうなこのイベント(事件)は、何か他のことをやって早く忘れてしまいたかった。
俺そろそろ禿げるかもな……とタクが遠い目をしていたことにフィムは気付かなかった。




