23話 エグい話
「恐らく、敵戦力は3万前後でしょうね。何故か俺が初めて通った時にはそこまで遭遇しませんでしたが」
ここはダレイスのメルテリア邸。その一室にタクとダレイス、さらにミリアーナが座っていた。そこでタクが調査結果の報告を淡々とこなしている。
なお、タクが出会わなかった理由は、前にも言ったが魔力で遊んでいた時に漏れ出した膨大な魔力が獣除けになっただけである。
「そうか……実はな、こちらにも悪い知らせがあるんだ」
「…なんでしょうか?」
「カイル・アウワルド・エーウェレストという男が動き出した。伯爵だがそんなものは関係ない。どうやらこの男、どさくさに紛れてメルテリアを乗っ取るつもりらしい」
「………………何故メルテリアを? それにそう思った根拠は?」
「詳しいことは分かっていないが、どうせ私を闇討ちでもして“あいつは相応しくなかった”とか何とか言って奪い取るつもりなのだろう。根拠としては今回初めて“増援”として私兵を送ってくれるらしいぞ?」
「ふむ……些か根拠としては弱いですが……というかそれは不可能でしょう」
その言葉を聞き、ダレイスがニヤッと笑った。それを見てタクは「なんだこいつも気付いていたのか」と呆れていたが。
「何故そう思う?」
「大進行中に街中でダレイス様が死ぬということは、人の手による殺人以外にはありえません。何故なら魔物への警戒心が普段よりも高いからです。
そして民衆はダレイス様が街を守ってくれていることを知っています。そんな人を殺されたとあっては、いくら力の弱い民衆でも黙ってはいません。
そしてその怒りは乗っ取りに来たカイルとか言う男に向くことは確実でしょう。殺したことを隠し通せたとしても、憶測が噂となり、長くない時間で噂は真実になるでしょうから。
その男は恐らく、ダレイス様が死んだことによる混乱時に救世主の如く現れる計画でも練っているのでしょうが、現実はそこまで御伽噺ではありません。俺だったらタイミングよく現れた奴を信用することは出来ませんね。
まあ結果を言えば、総じて雑であり、穴だらけで、計画とすら言えない代物だということですね。ですが一応対策はしておきましょう。
ダレイス様宛に私兵を送る旨の手紙が送られてきたと思いますが、それをどうにかして断ってください。それで来なければ良し。来たとしても俺とフィムで盗賊を迎え撃ちます。
断れなかった場合は俺が盗賊としてその私兵たちを襲います。まあ足止めだけなら数にもよりますが、3日間くらいは余裕で止められるので心配は要りません。その足止めをしている最中に街からフィムの魔法で焼き払えば問題はないでしょう。
その魔法の言い訳は盗賊を殺すためだったと言えばいいでしょう。それでダメならフィムの魔力が暴走したとでも言えば、丸くはなくとも12角形くらいには収まります。因みにフィムは俺がガッチリ守りますからこちらも心配しなくていいですよ」
「「………………」」
長々と語るタクに対してポカーンとするしかない約2名。乗っ取りに対する考察もさることながら、その後に出てきた対策案が実にエグい。穏便に済ませる選択肢が増援を断るしかないあたりタクの性格が窺い知れる。というかダレイスには「断れないと大惨事になるぞ」としか聞こえなかった。
「クツキ様は……」
「なんですか?」
今まで一言も発していなかったミリアーナがやっと声を出した。
「一体、どのような場所で育ったの? それとも貴方はエルフのように見た目では年齢が分からない種族なのかしら?」
「俺が生きていたのは俗に言う“裏社会”という場所ですね。というかこの世界にはエルフが存在するんですか? あ、俺はエルフじゃないですよ」
「……ええ、この街にはほとんどいないけど、もう少し王国中心部へと進めば街中でも見かけるはずよ。その言い方だと、貴方の世界にはエルフはいなかったの?」
「いませんね。人間だけの世界です。魔物だって存在しません。たしかに凶暴な獣は多数存在しましたが、武術を使ったりデカかったり魔法をぶっ放すヤツはいませんでした」
「……平和だったのね」
「あっちはあっちで問題が山積みでしたけどね」
武術を使うのはモンク・モンキー。デカかったのはハイ・オーガ。魔法をぶっ放すのは熊みたいなあれのことだ。
余談だが、ハイ・オーガは街から頭だけ見えていたのだとか。そいつがいきなりボコボコにされて、直後に森が滅茶苦茶に荒らされて(タクがハイ・オーガの死体を振り回したため)、さらに1時間後にはそれを引き摺る何かが現れたのだ。そりゃあ警戒もするはずである。
「コホン……それで、君はこの街を救うために動いてくれると解釈していいのかな?」
「………………まあそれで結構です」
「今の間はなんだ?」
「最終的にはそう見えるので気にしないでください」
「……? 何を言っている? どういう意味だ?」
「結果は同じでも、そこに至るための意思が違うということです。俺は街を守りたいから守るわけではないということを覚えておいてください。では、俺はこれで失礼します」
そう言い残してタクは部屋から出て行ってしまった。
まだ部屋にいる2人はお互いの様子を窺うように顔を見合わせた。何故か対照的な表情だったが。
ダレイスは不思議そうな、だが微かに得体のしれない相手に対する怯えが含まれた表情を。
ミリアーナはうっとりとした、まるで憧れの人を見つけたかのような表情をしていた。分かっているとは思うが、ダレイスに向けたものではない。
タクは知らないことだが、この世界での恋愛観は地球とは違う。
地球では見た目やら性格やら相性が一番の基準になっていただろうが、この世界で一番に来るものは『力』である。財力・権力・武力と『力』と付くものに惹かれるのだ。
それは魔物という脅威があり、簡単に人が死んでいく世界だからだ。いつ死ぬか分からないので、早くに子を産み、育てていくのがこの世界での常識であり、守る力のないヤツと結ばれようとする人間はいない。
ということは………………どうやらタクの受難はここから始まるらしい。




