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12話 ギルドと奴隷

「ここか。市役所みたいな建物だな」



 タクは金を受け取った後にダレイスから紹介されたギルドという場所に来ていた。清潔な見た目でまさに市役所といった感じだ。だが扉だけが金属製であり、物々しくて全然合っていない。



「…まあここは戦闘ギルド・・・・・だしな。扉も壊れやすいんだろう、うん」



 中々に鋭い。タクの言った通り、ここは戦闘ギルド――正しくは戦闘職人材斡旋じんざいあっせん組合ギルドという。他にも何種類かギルドがあるのだがそれはまた後で説明しよう。

 ここには冒険者・傭兵・貴族の私兵が所属している。最後の私兵は、あくまで私兵であり、国に関与しないことが条件となっている。数は少ないが。



「……? やけにピリピリしてんな。なんかあったのか……?」



 入った途端に集まる視線。それに含まれるイライラ感と八つ当たり上等、な感情がタクに突き刺さ……らずに圧倒的な存在感で吹き飛ばされた。というか一瞬だけイラッとしたタクから殺気が迸ったので全員が目を逸らさざるを得なかった。



「よ、ようこそ戦闘ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」



 そんな存在に無謀にも話しかける1人の女性がいた。

 頭の上には犬のような垂れ耳が。タクからでは見えにくいが尻尾もある。紛うことなき獣娘だ。



「ん? …ああ、登録したいのですが、ここで大丈夫ですかね?」

「あ、はい。えーと……これですね。この用紙に必要事項をご記入してください」



 受付嬢が出したのは1枚の羊皮紙だった。一番上には「※の部分は必ずご記入ください」と日本語で・・・・書かれている。



「(そういやなんで日本語で書かれているんだ? 当たり前のように言葉も日本語だし。別に困らないからいいけど……)もし間違えていたら補足をお願いします」

「分かりました。ではお名前から――」



 しばらくお待ちください…………



「――はい。ありがとうございました。これで登録は完了です」

「いえ、こちらこそありがとうございます」

「ふふ…それでは、戦闘ギルドの規則について説明しますね」

「はい、お願いします」

「まずは――」



 もうしばらくお待ちください………………



「――お疲れ様でした。これにて終了です」

「ふぅ……覚えきれたかどうか不安ですね。ともかく、ありがとうございました」

「あ、はい。タチバナ様、またのお越しを」



 その言葉に思わず苦笑いを零しそうになってしまうタク。周囲にいる物騒な男どもと、この受付嬢とのギャップというか、温度差が凄いなと思ったのだ。無論、表情には欠片の変化も見られないが。



「さて、親切にも信用できる仲間の1つを教えて貰ったし、素直に向かうとするかね」



 因みに教えてくれたのは、先ほどの受付嬢だ。

 その教えてくれた仲間というのは――



「次はここか。今日はもうここで終わりだな。予想以上に時間食ったし……奴隷ギルドか。地球だとあまり馴染のないものだが、まぁ俺だし大丈夫だろ」



 ――奴隷であった。しかし奴隷と言っても、一括りに出来るほど単純なものではない。

 まず犯罪奴隷と、それ以外の一般奴隷では扱いが全く違う。今回タクは一般奴隷を見るつもりなのでそっちを説明しよう。

 一般奴隷とは、借金や不作で生きていけなくなったり、何かしらの理由で天涯孤独になってしまった人たちへの最後の救済手段である。こちらは奴隷法という法律で守られており、理不尽な暴力や虐待などの命に係わる行為は全面的に禁止されている。

 まあ、つまるところ犯罪奴隷はそうではないということなのだが。


 ギルドに入ると、正面にサーカスの団長か何かをやっていそうな人がいた。



「おや? いらっしゃいませ! 奴隷ギルドへようこそ!」

「…ここで奴隷が買えると聞いて来たのですが」

「ほう! そうでしたか! ですがお客様は見たところ会員ではないようですね!」

「……それだと何か問題があるのですか?」

「はい! 会員様でなければ見せられない奴隷もおります故!」

「………じゃあ俺が見られる奴隷を全て見せてください」

「わっかりました! こちらへどうぞ!」

「…………はぁ…(声がデカい……)」



 やたらとハイテンションな店員(?)に連れられてギルド内を見て回るが、特にこれといった人は見つからなかった。

 タクが気になったことは、10人部屋で普通に奴隷たちが生活していることだ。服も食料も十分に与えられていて、タクが想像していたものとは全く違っていた。考えてみれば当然で、商品の見栄えを良くしたり整えたりするのは基本だろう。



「これで最後なんですか?」

「いますがお勧めできません! なにせ病気や怪我で弱ってしまい、私共では手の施しようがない奴隷達ですから!」

「それも見せてくれませんか?」

「お望みとあらば! こちらです!」



 案内された場所は違う建物だった。どうやら病気を拡大させないために完全に隔離されているようだ。なんとなく暗い雰囲気が漂っている。



「ここが……」

「はい! ですが病気といっても感染症や疫病の奴隷は受け入れておりません! ですから安心して見てくださいませ!」

「へぇ……ん? あの子は?」



 タクが指差した先は、たった今通り過ぎようとしていた部屋の中で寝ている小さな女の子だった。金髪碧眼のどちらかというと整っている顔立ちをした、しかしこの世界ではありふれている容姿だ。あえて特徴をあげるのなら、常に眠そうにしていることだろうか。瞼が半分ほど落ちている。

 この子は病気の類らしく、見たところ怪我などはないようだ。年齢は痩せていて分かりにくいが、大体4~5才くらいか。



「あの奴隷は……ありました! どうやら心の病に――」

「――違う。値段を聞いているんだ」



 突然、口調が変わったタクにポカンとする店員。だがすぐに笑顔を張り付けてハイテンションを取り戻す。



「半金貨5枚となります! が、かなり弱っているようなので半額の、半金貨2枚と銀貨5枚で売りましょう!」

「(250万円か……高いのか、安いのか……)分かった。少しあの子と話してみてもいいか?」

「どうぞどうぞ! 私は契約の準備をしてきますので!」



 店員はすぐに立ち去ってしまった。

 それを見ようともせずに、タクは部屋に入る。さっきの10人部屋とは全く違う狭い空間だ。その入り口付近で立ち止まり、床に座った。

 余談だが、タクはここに来るまでに露店を見て回り、大体の貨幣価値を理解している。予想通りに半銅貨1枚1円ほどだった。



(さて、何を話すか……)



 タクのその眼には金色の魔力が映っていた。



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