13話 幼女
奴隷ギルドのある一室で、女の子と少年が見つめ合っていた。
言わずもがな、タクと奴隷の女の子である。タクが座ってから約3分、ずっと見つめ合っているのだ。
「……じー」
女の子は時々(20秒に1回くらい)「……じー」と口に出しながら見つめてくる。もちろん寝ながらだ。
タクはその特殊な目で女の子の魔力を見ていた。
(間違いない。やっぱりあれは魔力だ。だけどあんな色の魔力は見たことがない……金色の魔力か。見たところ普通の人間にしか見えないけど、実は種族的に根本から違うのかもしれないな)
そう。女の子が身に纏っている魔力はタクとは全く違う色だったのだ。だからこそ即断即決で購入を決めた。
タクはこの街に来てからいくつか気付いたことがある。その1つが“魔力の色が他人と異なる人間は強い”というものだ。一般人の色は青を濃くしたり薄くしたりしたような色なのだが、他人より少し強かったであろうダレイスにくっ付いてきていた弓使いの2人は緑に近い色だった。
ではタクはどうなのかと言うと、森に入った後(具体的には2日目の朝)から変色し始めて、今ではすっかり黒くなってしまった。当初は色が変わって焦っていたのだが、どうしようもないし無害だと分かってからは(と言っても3時間ほどしか悩んでいない)放置していたりする。
そこから考えると、この女の子は将来かなり強くなるだろう、ということで買うことにしたのだ。これほどの素質の持ち主は滅多にいないはずだし、2人以上も育てる気はなかったからでもあるが。
「……おにーちゃん、だれ?」
「ん? あ、俺か? 俺……の名前はタクだ。君の主になる…と思う」
「……こっちでおはなし、する」
「いいのか?」
「……ん。おにーちゃん、いいひと」
「それは無いと思うが……まあ、お言葉に甘えさせてもらいますか」
タクが心配しているのは心の病、つまり精神病についてだ。見た目では何が地雷なのか分からなかったのでいきなり近づくのは避けていた。
しかし女の子から許可を貰ったのなら話は逆になる。ここで断って無駄に不安にさせる必要もないので素直に近づいた。
「……ん」
「なんでここに座るんだ?」
近づいたら膝の上に座られるタク。どちらも表情が乏しいのである種異様な雰囲気を醸し出している。
「……いいひと、だから」
「理由になってない……まあいいや。それより名前を教えてくれないか?」
「……フィムは、フィムっていうの」
「フィムか。これからよろしくな」
「……ん。よろしく、ごしじ…さま」
「ごしじ? ……あぁ、もしかして“ご主人様”って言おうとしたのか?」
「……いえなかった」
「別に他の呼び方でもいいけどな。タクとか」
「……ほかには?」
「んー……マスターくらいしか思い浮かばないな」
「……じゃあそれにする。よろしく、です、ますた」
「まあ、いいか。そろそろさっきの胡散臭いハイテンションが来るから待ってろ」
「……ん」
などと和む会話を繰り広げる2人。意外と相性がいいのかもしれない。
だがその空気をぶち壊す存在がタクが言った通りに現れた。もちろんうるさい店員である。
「お待たせいたしました! 準備が整いましたのでこちらへ来てください!」
「だってさ。行くぞ、フィム」
「……だっこ」
「………………はぁぁ……って、お前軽いな。ちゃんと食わないと死ぬぞ」
「さぁさぁこちらですよ!」
「分かったから騒ぐな」
「……ん」
「いやお前じゃないから」
「おやおやいい子ですな!」
「あんたがうるさいんだよ。ちょっと黙ってろ」
「これは手厳しい!」
やいのやいのと騒ぎながら移動していく一行。案内されたのは普通の応接間っぽい部屋だった。
「お客様は初めて奴隷を購入されたご様子! 不肖、私めが説明させていただきます!」
「なんでいきなり謙るんだよ。違和感が凄いから元に戻せ」
「分かりました! では説明しますね! これが『契約陣』というものです!」
「へぇ……」
店員が見せてきたのはザ・魔法陣という感じのものが書いてある1枚の羊皮紙だった。円の中に複雑な図形や文字が書き込まれていて、それが淡く青く発光している。
「この契約陣というのは優れものでありまして! 奴隷が主人へ危害を加えることが出来なくなるのです!」
「そういうことは心配してないけどな。それで? 契約するにはどうすればいいんだ?」
「主従の血を1滴ずつ垂らせば完了でございます!」
「あー……フィム。ちょっと痛いかもしれないけど我慢しろ」
「……ん。かんばる」
「よし。じゃあ手出せ」
タクはその表情とは裏腹に意外と優しい。それも過去に色々とあったからなのだが、ここにそれを知る人物はいない。
それはともかく、タクは目にも止まらぬ速さでナイフを振り抜き、フィムの薬指の先を薄皮と少しだけ切った。ほんの少しだけ血が滲む程度だが1滴分には十分だろう。
その後、自分の親指も浅く切って契約陣に血を垂らすタク。無駄に高い技術を日常で使うのもどうかと思うが。
「……っ…………? ……いたくない」
「よかったな。ほら、俺も垂らしたぞ。さっさと契約終わらせろ」
フィムが不思議そうな顔をしているが仕方ない。
何故タクは薬指を切ったのか、という質問に対しては「普段一番使わない指だから」との回答が返ってくるだろう。
「では手を出してください! あ、お客様ではありません!」
「先に言えよ」
「……ん」
「では契約陣を手の甲の上に置いてください!」
「……これでいい?」
「はい! では………………これにて契約は完了です!」
「いや待てよ。今なんかしたのか? 魔力すら動いていなかったぞ」
「終わりましたよ! 主人のいる奴隷の手の甲には契約陣が刻まれているのです!」
「……ますた。これ」
「あ、ホントだ」
見れば、フィムの手には羊皮紙に書かれていた陣を小さくしたものが刻まれていた。刻まれると言っても刺青のようなものではなく、ただ単に写っただけだ。
この世界で初めての仲間は、フィムという幼女だった。




