誤解
強い光に目が眩み、とてもじゃないが動けない。
半ばあきらめかけていた時、
「詩織!」
と、私を呼ぶ声。
その声の主が誰なのか理解するよりも早く、私は歩道へと引っ張られた。
直後、自動車が脇をすり抜けていく。
走り去る車の後ろ姿をぼんやりと眺めている時、ようやく私は誰かに抱きとめられている事に気が付いた。
「何やってんだ、バカ!」
頭上から降ってくる怒声には聞き覚えがある。
首が取れるほどの勢いで見上げると、見慣れすぎた顔。
「は、隼人……?」
「なんで車道に突っ込んで行くんだ、お・ま・え・は!」
額を小突かれ、私は数歩よろけたけれど無視して続けた。
「なんでここに隼人が居るの?」
「あ、えと……それは――」
隼人の目が泳ぐ。
「なんて言うか、その……。――詩織、さっきの見てただろ?」
隼人は自らの髪を髪をかき上げ、私から目を逸らした。
『何を』と明確には言わなかったけれど、すぐにすずらんちゃんとのキスの事だと分かった。
躊躇いながらも、私は小さくうなずく。
「あれさ、誤解だから」
「え?」
「あいつが勝手にしてきただけで、別に付き合ってるとかそういうのじゃないから」
「なんで?」
「なんで、って言われても……。こういうの自分で言うのも自惚れてるかもしれないけど、九条が俺の事――」
「そうじゃなくて!」
すずらんちゃんが隼人の事を好きなのは知ってる。でもそれを隼人から聞くのは、なんだかすごく腹立たしくて、自分で思っていたよりも強い口調で遮っていた。
「そういうことじゃなくてさ。なんで隼人は、そんな弁解じみた事を私に言うの?」
今、私はどういう顔をしているだろう。泣きそうなのか、笑っているのか、自分でもよく判らない。
「私に言う必要ないよね。だって――」
コクリと唾を飲み下す。
「か、彼女でもないのにさ」
情けないほどに震える声が聞こえた。自分で出したつもり声と、耳に入ってくる声が全然違う。
「確かに――」
隼人の声がやけに落ち着いて聞こえる。
「俺達は幼馴染だし、報告する義務はない。でも、俺が誤解されたくなかったんだ」
「どうして?」
私はつくづく浅ましい。答えなんて考えればわかるはず――いや、すでに頭の片隅で理解しているのに。
「ったく! 言わなくても分かれっての!」
いつもの調子の隼人の声になるが、それでも私の緊張は全然ほぐれない。
「幼馴染から卒業したいと思ってたのは俺だけだったのか?」