幽霊
私もなんの冗談かと思った。インターネットを使って、地球の裏側の人とコミュニケーションをとれる時代に幽霊? ふざけているのか、はたまた気でも触れてしまったのか。
「そう言えば、名前を訊いてなかったね」
しかし、そんな風には見えない。
「あ、えっと、名字は覚えてないんですけど……名前は詩織です」
「そうか」
その後、おじさんが小さく、やっぱり、と言ったのを私は聞き逃さなかった。
「昴、詩織さんは例のお墓の前に居たと言ってたな」
「うん。確かに、この人はあそこにつっ立ってたよ」
「あそこの墓に埋葬されている人の名前は?」
「確か、岡本――」
昴君はそこで一旦区切り、息を飲み込んだ。
「岡本、詩織……!」
眼球が落っこちるかと思う位に目を見開く昴君。そして私も同じくらいに目を見開いていた。
私は飲み込んだ唾でのどを潤した。
「まさか――私が幽霊だって言いたいんですか?」
息がつまる緊張感に押しつぶされてしまいそうな私と、そんな訳ないと考える冷静な私が居る。
でも、心のどこかで答えは出ていた。
「……」
無言でうなずくおじさんを見た時、ああやっぱり、って妙に納得できた。
非現実的だと頭の中では解かっていた。それはもうものすごく。けれどそれとは別に、墓、夜、とくれば誰でも幽霊を連想できるとも思った。
「昴、覚えておけよ。彼女の様になんらかの要因でこの世に魂がさまよい出てくる事もあるという事を」
重々しいおじさんの声に対し、昴君は今でも胡散臭そうな顔をして私を見ている。もしかしたらまだ墓荒らしだと思っているのかもしれない。