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裏の顔

「詩織ちゃん、ちょっといいかな?」

「え?」

 珍しく、本当に珍しくすずらんちゃんから声を掛けられた。しかもいつもは見せない柔らかい笑みのおまけつきで。

 丸くて大きな瞳に見つめられた私は、ドキリとして、無意識のうちに「うん」と答えていた。

「じゃあ、こっちに来て」

 彼女はニコリと嬉しそうに微笑むと綺麗な黒髪をなびかせて方向転換した。私の動きなど気にもしていない様子で足早に進んで行くすずらんちゃん。

 私は慌ててその後を追った。

「ここは……」

 すずらんちゃんを追って着いた先は校舎裏。普段から誰も来ないうえに、日陰でじめじめと湿気を感じる。今日は比較的暑いから、涼しいというプラスの評価もできるものの、積極的に訪れたい場所ではない。

 なんでこんな所に?

 私が疑問を口にする前に、すずらんちゃんが口を開いた。

「ここならきっと誰も来ないから、ゆっくり話ができると思って」

 そう言った彼女に、先程までの笑みはなかった。

 立ち振る舞いが教室に居る時とは打って変わって、小動物の様な愛らしさは消え失せ、瞳には男前ともとれるくらいの力が宿っていた。

「単刀直入に訊くけど、貴女、隼人君の何なの?」

「え……?」

「はっきりいって邪魔なのよ。いつもいつもベタベタベタベタと。今朝だって一緒に学校に来てたでしょ! ムカつくのよ、あんた!」

 想像もしていなかった敵意の塊を私は受け止めきれず、情けない事に何ひとつ言い返せなかった。

「わ、私は隼人の幼馴染で……」

 やっとのことでしぼりだした一言。でもその後が続かない。

 そして初めて気づかされた。

 私は隼人の幼馴染であり、それ以上でもそれ以下でもないということに。

「確かに隼人君もそう言ってたけど――」

 胸に小さな痛みが走った。すずらんちゃんに邪魔だなんだと言われてもこんなに哀しい気持ちにならなかったのに。

 ただの幼馴染と言う事実だけが、妙に胸につかえる。

「ともかく! 幼馴染だろうがなんだろうが、今後隼人君に近付かないで!」

 すずらんちゃんは言うだけ言って、すぐにその場を後にした。

 後に残された私はまだ自分の気持ちを整理できないでいた。

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