隼人と私
過去編スタートです!
「おっはよー、隼人!」
私は朝の挨拶とともに、前を歩いていた大きな背中をバシンと叩いた。
「ってー! 朝からなんだよ、ったく」
グレーの瞳が拗ねたように私を見下ろす。
「あはは、ごめんごめん」
幼馴染の西森隼人とは母親同士が学生時代の友達だとかで、物心ついた時から一緒に行動していた。
「今日は一緒に帰れる?」
「わりぃ、今日は部活のミーティングがあんだ」
隼人は小学生のころからサッカーをやっていて、将来の夢はサッカー選手らしい。
「なーんだ、残念」
でも、隼人の邪魔はしたくないし……しょうがないか。
ずっと一緒に育ってきた隼人、いつしかいなくてはならない存在になっていた。
自分のそんな感情に気付いたのはつい最近のこと。これは恋愛感情なのか、それとも家族愛に近い感情なのか、いまだに自分の中で答えは出ていない。
私は隼人が幸せならそれでいい。それが私の幸せなんだから。
「隼人君、ちょっと話があるの」
学校に着くそうそう、サッカー部のマネージャーが隼人を呼び止めた。
名前は、九条すずらん。黒く真っ直ぐな髪が印象的だった。
彼女の黒い瞳が私を捉えた。
「……お邪魔だったかしら?」
気のせいか、彼女の私を見る時の目つきは、隼人を見る時のそれとは別物のように感じる。
「いや、大丈夫だ」
隼人の顔つきが一気に真剣なものになる。長年の付き合いのせいか、はたまた隼人の性格が顔に出やすいのかは分からないけれど、はっきりと読み取れた。
「じゃあ、私は先に教室に行ってるね」
部活の話なら私がいない方が話しやすいかもしれない。私はそう思い、そそくさと上履きに履き替えて教室へと歩き出した。