横島先生のばかー!!
****************************
「あぁ、もう!」
目の前にある書類の山に、私の苛立ちはピークを迎え、ヒステリックな声を上げた。
窓の外はとっくに濃紺に彩られてしまっているというのに、なんで私が教室でこんな作業を続けなければならないんだ。
「そうぼやくなよ。正規の日直じゃない俺も手伝ってんだからよ」
西森君に言われて、私はしぶしぶ作業を再開した。
事の始まりは、帰りのホームルームが終わり「さて帰ろう」と鞄を持った時だった。横島先生が書類の束を抱えて教室に戻って来て、
「よかった。詩織さん、まだ帰ってなくて」
と、とても良い笑顔で言った。
書類の量を目の当たりにした私は、すこぶる嫌な予感が頭をよぎった。
「この書類、まとめておいて下さい」
予感的中。
だめ押しとばかりに、「日直の仕事だから」と言って持っていた山を机に置いてさっさと出て行ってしまった。ハッとして教室内を見渡すが、もう一人の日直の姿はない。大方すでに帰宅してしまったか、部活に行ってしまったのだろう。
中々減っていかない山に半泣きになったのは、多分一時間を過ぎたあたりだった。差しこんでくる西日が余計に寂しさをあおる。
「何してんだ?」
教室の入り口には何故か西森君が立っていた。
「あれ? まだ帰ってなかったの?」
「あぁ。保健室で寝てたら……寝過した」
西森君は乱暴に席に座ると、興味を含んだまなざしを向けて来た。
「もしかしてそれ、横島に頼まれたのか?」
「うん……。酷いよね、もう帰る直前だったのにさ。それに横島先生が遅かったせいでもう一人の日直ももう帰っちゃってたんだよ」
私はこの一時間うちにため込んでいた愚痴を一気に吐き出した。
「しかたねぇ、手伝ってやるよ」
「え――」
西森君は私の意見を聞くこともなく、おもむろに山に手を伸ばした。
「おし! さっさと終わらせようぜ」
私は呆気に取られながら、西森君を見ていた。