タイムリミット
「そんなに難しく考える事はありませんよ。よく言うでしょう、無残な殺され方をした人が幽霊となって写真に写りこんだりする、と。――つまり、貴女がこの世に戻って来た理由は未練があったから、という訳です」
よほど現世に強い思い入れがあったのでしょう、といちさんは最後に付け足した。
――未練。今の私にはそれが何だか分からない。生きていた頃の事が何も思い出せない。
「そんなに焦って考えなくても良いんじゃない」
昴君は飲んでいたコーヒーをカタン置いた後、静かに言った。
「成仏できなければうちに居れば良いだけの話だし。ね、父さん」
「――いいえ」
昴君の言葉に答えたのは、怜治さんではなくていちさんだった。
「早めに未練がなんなのかを調べ、早々に成仏するべきです」
「どういうこと?」
いちさんのただならぬ雰囲気に、昴君も自然といつもよりも目つきがきつくなる。
「幽霊として存在していられる時間には限界があるんです。もちろん個人差はありますが、そう悠長に構えていられませんよ」
「……なんだ、問題ないじゃないか」
拍子抜けした、とでも言いたいかの様に、昴君は肩の力を抜いた。
「どうしてそう思うんですか?」
「幽霊としての時間に限りがあるという事は、何もしなくても必然的に成仏できる。そういうことじゃないの?」
その言葉を聞いたいちさんは、頭を抱えて、ハハハッと乾いた笑いをもらした。その後昴君を見下す様に、大げさに息を吐いた。