遭遇
「おい」
誰もいないと思っていた屋上で、背後から声が掛かった。それも、とても不機嫌そうな。
ビクンと肩を震わせて反射的に振り向くと、そこには燃えるように真っ赤な髪の毛の男の子が私を睨みつけていた。
一目でわかる――この人、不良。制服を大幅に着崩し、手には火のついたタバコ。わりと細めの指にはゴテゴテした指輪がはまっている。
「てめぇ、一体誰の許可取ってここに入った?」
私を貫くような眼差しに、心臓はドキドキと大きく脈を打ち始めた。
今にも殴りかかられそうなこの状況。なのに、不思議と恐怖はなかった。それどころか、なんだか懐かしい感覚。魔法にでも掛かってしまったかのように、彼から目を逸らせない。
「ボケッとしてんな! てめぇ、人のは……な、し……」
今の今まで不良オーラ全開で、眉間にしわを寄せていたのに、私の胸倉を掴むなり目を丸くした。ハトが豆鉄砲を食らった顔というのはこういう顔を言うのだろう。
「詩織……」
彼の口からポツリと私の名前が零れた。はて、一体どうしてこの人は私の名前を知っているんだろう。先程、教室で自己紹介した時にはこんな人はいなかったはずだ。
「お前、なんで……」
胸倉は乱暴に解放され、代わりに穴が空くほど見つめられる。
背中と顔がカッと熱くなる。
「――って、そんな訳ねぇよな」
スッと冷めた目つきになると、私を解放した。
踵を返して校内に入っていく彼の後姿がやけにあっさりとしていて、少し寂しくなった。