公爵家の裏側にひそむ不穏な空気
朝食を終え、自室へ戻る廊下を歩きながら、カトリーナは公爵家の「空気」について考えていた。
(お父様も不器用なだけで根は悪い人じゃなさそうだけど……やっぱりこのお屋敷、全体的にピリピリして冷え切っているわねぇ)
前世の家計管理と子育てで培ったカトリーナの勘が、ピシピシと警告を鳴らしている。
家の中が暗くギスギスしている時は、だいたい「お金の不透明さ」か「働き手への過度な負担」が原因なのだ。
自室に戻ると、カトリーナはミーナに静かに声をかけた。
「ミーナちゃん。少し聞きたいのだけれど……このお屋敷の家計や帳簿は、どなたが管理されているのかしら?」
「えっ? 帳簿……でございますか?」
ミーナは予想外の質問に目を丸くした。
「ええと、基本的な管理は執事長様と、お父様の補佐をされている事務官様方が行っておられます。ですが、最近はなんだか険しいお顔で書類とにらめっこされているのをよくお見かけします……」
「……なるほどね」
カトリーナは納得がいったように頷いた。
記憶を掘り起こしてみると、グランヴェル公爵家は歴史ある名門だが、ここ数年は領地の減収や無駄な社交費がかさみ、裏ではかなり台所事情が苦しいはずだ。
以前のカトリーナも、見栄を張るために高価なドレスや宝石を湯水のように買わせ、家計を圧迫していた原因の一つだった。
(あんな豪華な部屋に住んでおいて、裏でお金に困ってカリカリしていたら本末転倒じゃない。……ちょっと、現状を確認させてもらいましょうかね)
「ミーナちゃん、執事長を私の執務室……いえ、応接室に呼んでくださる? 詰問するわけじゃないから、慌てなくていいとお伝えしてね」
「は、はい! かしこまりました!」
少し不安そうにしながらも、ミーナは急いで部屋を出て行った。
一人残されたカトリーナは、ドレッサーの引き出しを開け、以前の自分が買い漁っていた豪華なアクセサリー類を眺めた。
(こんなにキラキラしたものをジャラジャラ身につけなくたって、人間、お腹がいっぱいになって温かい布団で眠れれば幸せなのよ。貧乏暮らしを乗り切った私の目をごまかせると思ったら、大間違いなんだから)
前世で「1円単位のやりくり」と「節約レシピ」で5人の子供を育て上げた肝っ玉母ちゃんの血が、静かに騒ぎ始めていた。
公爵家を裏から立て直し、誰もが安心して働ける「温かい我が家」にするための作戦が、今まさに始まろうとしていた。




