怖い
黒竜との激戦から数時間後。
夜明け前。遺跡の外では焚き火が静かに揺れていた。黒竜は討伐された。二人とも無事。
フローラは岩に座り、本を読んでいる。リナは向かい側でじっと見ていた。
ずっと。本当にずっと。
「……」
「……」
「……」
フローラは本から目を離さない。しかし。視線が痛い。とても痛い。
数分後。リナが口を開いた。
「フローラさん。」
「……なに。」
「一緒に旅しましょう。」
即答だった。
「嫌。」
「ですよね。」
リナは全く動揺しなかった。むしろ予想通りという顔をしている。フローラは本を閉じる。
「私は一人で旅をしている。」
「知ってます。」
「一人の方が楽。」
「知ってます。」
「誰かといる理由がない。」
「あります。」
「ない。」
「あります。」
「ない。」
「あります。」
「……」
「あります。」
フローラは黙った。リナも黙らない。
「私、八年探したんですよ。」
「……」
「八年。」
「……」
「毎日。」
「……」
「Sランクになっても。」
「……」
「竜を倒せるようになっても。」
「……」
「探してました。」
「……」
罪悪感が。少しだけ。本当に少しだけ。フローラの胸を刺した。
「だから。」
リナは笑顔になる。
「一緒に旅しましょう。」
「嫌。」
「なんでですか。」
「一人が好き。」
「慣れます。」
「慣れない。」
「慣れます。」
「慣れない。」
「慣れます。」
会話が成立していなかった。さらに数分後。フローラが立ち上がる。
「私は行く。」
「私も行きます。」
「来なくていい。」
「行きます。」
「危険。」
「大丈夫です。」
「勝手についてくるな。」
「勝手についていきます。」
フローラは歩き出した。リナも歩き出した。フローラが止まる。リナも止まる。フローラが右を向く。
リナも右を向く。フローラが振り返る。リナが満面の笑みで立っている。
「……。」
フローラは人生で初めて理解した。禁呪魔術では解決できない問題があることを。
一時間後。街道。フローラの後ろをリナが歩いている。
距離は三歩。ぴったり三歩。離れない。絶対に離れない。
「帰らないの。」
「帰りません。」
「家族は。」
「自立してます。」
「仕事は。」
「Sランクなので自由です。」
「……」
完璧だった。言い逃れができない。そして夕方。宿へ到着。受付の女性が尋ねる。
「お二人ですか?」
フローラが答える前に、
「はい!」
リナが即答した。
「部屋は一つで?」
「はい!」
「二つ。」
フローラが即座に訂正する。リナはショックを受けた顔になる。なぜか宿の女性まで少し残念そうな顔をした。
フローラは理解できなかった。その夜。別々の部屋のはずなのに。
朝起きると。リナが部屋の前で正座して待っていた。
「おはようございます!」
「……」
「今日も旅しましょう!」
「……」
「明日も。」
「……」
「来年も。」
「……」
「十年後も。」
「……」
フローラは空を見上げた。黒竜との戦いより疲れていた。
だがほんの少しだけ。本当にほんの少しだけ。
一人で歩いていた頃より、旅が賑やかになった気もしていた。




