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EP10・地下迷宮と銃神の絶技

鼓膜を削るような絶叫が、地下神殿に反響する。


闇の奥。 赤黒く濁った瞳が、一つ、また一つと灯っていく。 その数は瞬く間に数百へと膨れ上がり、俺と少年たちを三百六十度、窒息するような殺意で包囲した。


「くそっ……! 囲まれた……! 終わりだ……!」


シャドウ・ヴェインの少年たちが、絶望に顔を歪ませる。


赤毛のリーダー、エリオットは、俺を睨みつけ、そして、その手に握られたままの**「魔銃」**に目を落とした。


(コイツのせいか……? いや、違う……! それよりも、今は……!)


生き残る道は、一つ。 彼は葛藤の末、唇を噛み切りながら決断する。


「……おい、アンタ……!」


エリオットが叫ぶ。


「てめえのことは、まだ信用したわけじゃねぇ……! 仲間の仇かもしれないお前を、本当は今すぐにでも八つ裂きにしてやりてぇ……!」


震える手で、魔銃が足元へと滑らせられる。


「だが、今は生き残るのが先だ! そいつを使え! そして、この地獄を何とかしやがれ……!」


足元に転がってきた相棒を、静かに拾い上げる。 冷たいグリップが、再び掌に馴染む。


親指が、銃の心臓部──**『ルシファーズ・ハンマー(堕天使の鉄槌)』**と呼ばれる、その撃鉄に触れた。


その瞬間。 周囲に満ちるゴブリンの膨大な邪気に、左目が灼けるように反応する。


(……何だ、この魔力は……!?)


眼帯の下で、眼球がありえない熱を放ち始める。 構わず、左手で眼帯を引き剥がす。


露わになったのは、かつてグレンによって嵌められた義眼──神器【神晶球】。 何の変哲もないはずのガラス玉が、この闇の中で、かすかに、しかし確実に、心臓のように脈動している。


右目を閉じる。 左目だけで、戦場を見渡す。


次の瞬間、脳裏に、通常の視界とは全く異なる「景色」が流れ込んできた。


生命が放つ微弱な熱、魂の輪郭。 闇の中に潜む無数の敵が、赤い点となって浮かび上がり、完璧な三次元座標として知覚されていく。


一体たりとも、見逃さない。


「……なるほどな」


口の端が吊り上がる。 獰猛な笑みが浮かんだ。


(グレンの野郎……味な真似をしやがる)


眼帯を戻す。 まるで世間話でもするかのように、平坦な声で呟く。


「ざっと150匹、といったところか」


その冷静すぎる声に、エリオットが息を呑む気配。 少年たちの動揺など意にも介さず、相棒へ、さらに彼らへ冷徹な命令を下す。


「フェンリル」


『承知』


「**【アズール・バイト】**で、ここに防衛線を張れ。 ガキどもを一歩も通すな。1人たりともな」


神狼の咆哮。 足元から無数の蒼炎の幻影狼が溢れ出す。 炎の狼たちは少年たちを取り囲むように展開し、決して破られることのない蒼き結界となった。


「なっ……!」


神がかった光景に、少年たちが言葉を失う。 彼らに背を向けたまま、地下迷宮の最奥、闇が最も濃い場所を睨みつける。


「いいか、ガキども。 お前たちはそこで、震えてるか、祈ってるか、好きにしろ。 ここは、お前たちが出てきていい場所じゃない」


「――これは、俺の『弔い合戦』だ」


言い捨て、一人、ゴブリンの群れが渦巻く迷宮の闇へと、その身を投じる。


◇◆◇


神晶球が脳に直接投影する敵の位置情報マップ。 それを頼りに、迷宮を疾走―。


目的は、群れの発生源である『ゴブリンのキング』ただ一体。 だが、その前に、この無限に湧き出る雑魚を掃除する必要があった。


(……ここなら、やれるか)


たどり着いたのは、天井が崩れかけた広間。 一度立ち止まり、わざと壁に向かって一発、威嚇射撃を行う。


轟音が、迷宮の静寂を引き裂く。 その音と硝煙の香りに釣られ、ゴブリンの群れが一斉に広間へと殺到してくる。


醜悪な顔、錆びた武器、殺意の塊。 その光景を無感情に見据え、魔銃の銃口をゆっくりと上げた。


狙うは、一体のゴブリンではない。 天井から突き出た、一本の巨大な鍾乳石。


(──ここだ)


脳内で、完璧な死の幾何学が描かれる。 親指が、**『ルシファーズ・ハンマー』**を静かに、しかし確実な手応えで引き起こす。


意思いのりを込める) (弾種装填──【跳弾する死神リコシェ・リーパー】)


引き金が引かれた。 撃鉄が叩きつけられ、ただの鉛玉が神の領域へと昇華される。


放たれた魔弾は、鍾乳石の根元に当たり、甲高い音を立てて跳ね返る。 一発目の跳弾が、先頭のゴブリンの頭蓋を粉砕する。


だが、魔弾は止まらない。


硬質な着弾音が、連続して空間を支配した。 壁、床、柱、そしてゴブリンの頭蓋。


魔力を帯びた弾丸は、角度を変えるたびに速度を増すかのように、広間の中を縦横無尽に駆け巡る。 それは、死のピンボール。


バーレイグの神がかった計算ジオメトリと、ルシファーズ・ハンマーが生み出す魔弾の軌道制御。 「銃神」の絶技。


数十秒後。 最後の一匹が崩れ落ち、広間に静寂が戻る。


おびただしい数の死体の中心で、銃口の硝煙を静かに吹く。


「……さて、これで少しは風通しが良くなったか」


再び迷宮の奥へと進もうと振り返った、その時。 広間の入り口に、息を切らした人影が立っていた。


「……はぁ……はぁ……!」


赤毛のリーダー、エリオットだ。 彼は、今しがた起きた一方的な虐殺劇を、信じられないものを見る目で凝視している。


忌々しげに舌打ちが漏れた。


「……なぜ来た。足手まといになるだけだと、言ったはずだ」


「うるせぇ……!」


エリオットは、恐怖を怒りで塗りつぶすように叫んだ。


「俺は、こいつらのリーダーだ……! 仲間の仇を……見てるだけなんて、できるかよ……!」


その瞳に宿る、不純物のない光。 かつての自分を、少しだけ思い出す。


深く、深いため息。 背を向けたまま、吐き捨てる。


「……好きにしろ。だが、俺の足だけは引っ張るなよ」


それは、拒絶ではなかった。 不器用な男が示す、束の間の「共闘」への許可証。


二人は、迷宮のさらに奥、ゴブリンの王が待つ玉座へと、並んで歩みを進めるのだった。

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