探偵
「くそー。B区の奴らめ……。俺たちを一体どうするってんだ……」
仕事の時間だ。
「島田。まだそうなるって決まった訳じゃないさ。俺たちで何とかするんだ。きっと、奈々川さんが協力してくれるから」
島田が肉をシューターに入れ、
「ああ……。俺な……弥生の足も治せられないんだよな。そんな奴に労働を取ったら一体何が残るんだ。そのハイブラウシティ・Bだと人間は何をして生きていくんだ?」
「簡単に言うと、そのアンドロイドの管理さ。機械を管理することによって、労働を管理する。つまりは、大勢の人がパソコンで労働の管理をするみたいだ。奈々川さんが言っていた。」
「何の話だ?」
田場さんが近くにいた。
「じゃあ、俺たちA区の奴らなんて、高価なパソコンも持ってない。そもそもパソコンを売っている店もない。どうするんだ?」
「ああ、どうなるのか……? B区と違ってA区には税金があるし、選挙権もない。A区はB区の食い物さ」
「何の話だ?」
田場さんだ。
津田沼は遠くで頷いていた。
「ふーん。ハイブラウシティ・Bね。俺は云話事町の新聞で昔読んだことがあるんだ。」
津田沼が日の丸弁当片手に私の隣に座る。休憩時間は気のせいかな……B区の奴らが大人しかった。
その新聞には政治のマニフェストなどや、選挙に有利なことが載っているようだ。A区には新聞がない。選挙権がないから当然か……。
「どんなのなんだ? それは?」
島田が愛妻弁当に一礼してから、真面目な顔して津田沼に言う。
「なんでも、完全に管理できる未来都市で、後10年くらいで労働がほとんどなくなるかも知れないって書いてあった」
「ええー!?」
島田が叫ぶ。
B区の奴らが失笑したように思える。
「それが、本当だとすると……?」
「でも、大丈夫だよ。その奈々川 晴美さんと夜っちゃん結婚するんだろう。昨日のテレビで観たんだけど、藤元が近所にいたのは総理大臣の娘だって騒いでいたんだ。奈々川さんと結婚すれば大丈夫。国会では民主党や野党とかの反対勢力も結構あるから……」
B区の奴らが騒ぎ出したように思える。
「あ、でも奈々川さんの気持ちを考えないと……」
私は呟いた。
「そうだな……。でも、お前だけが頼りだよ……本当に。夜鶴! 頑張れ! きっと奈々川さんと結婚しろよ……」
島田が愛妻弁当片手に言った。
「私……。決めました」
「え?」
ここは私の家。
「決めたんです」
「?」
奈々川さんが弥生の分もゴミを捨ててくれた。今日は火曜日。
「これからもよろしくお願いします」
「?」
「わんわん!」
スケッシーが私の足元で騒いでいる。
「……結婚してくれるのか…………俺と?」
「ええ」
奈々川さんが、今まで見たことのない笑顔を見せた。一瞬、奈々川さんが別人に見えた。
「でも、結婚式はだいぶ後になります。父を説得しないといけないので」
「やったー!」
私は涙目で喜んだ勢いで外へと走り出す。
外は雨が降っていた。
「やったぞー!!」
私はいつもスケッシーの散歩をする道を叫びながら走りまわる。
すると、後方からスケッシーが追い掛けてきた。
「わんわ。わん」
スケッシーも大喜びだ。
「やったー!」
降りしきる雨は勢いを増した。
「やったぞー! 奈々川さんと結婚だー! 結婚だー!……はあ、はあ、はあ……」
私は全速力で走りまわった。
「やったぞ。奈々川さんが俺と結婚してくれるって」
「本当かー!」
電話越しに島田が騒いだ。
家では興奮したスケッシーが奈々川さんと遊びまわっている。
「それで、それで、奈々川さんと一緒になるのはいいけど、戦争はどうする?」
「奈々川さんが総理大臣に話すってさ。きっと、うまくいって、ハイブラウシティ・Bも戦争もなくなるさ」
「やったー! って、式はいつなのか? 俺たちは一応準備の時間がないと」
「だいぶ後になるみたいだ」
「式には来てくれるのは嬉しいけど、弥生さんはどうするんだ?」
電話越しに島田と弥生が相談している様子が解る。
「行きたいそうだ」
「危険じゃないかな?」
「大丈夫さ。最新式の軽量マシンガンがある。夜鶴、今日は休みか。だったら奈々川さんにマシンガンを買うか?」
「うーん……。いやいい」
島田が「どうして」と言ったが、私は銃は自分だけが持つのがいいと思った。
そういえば、奈々川さんはここの現状を知っているのだろうか?結婚するのはA区とB区の戦争をするようなものだと?
「夜鶴さん……。A区とB区の関係が悪化するのは知っています! そう、今よりも。でもA区の人たちはいい人たちです……! そのA区の人たちから労働を取り上げてしまうハイブラウシティ・Bをどうにか打ち消したいのです……! きっと、その政策ではA区の人たちは悲惨なことになるとは思えます!絶対、打ち消さないと……私はもう逃げません。戦います。夜鶴さんのためにも……!」
奈々川さんが電話をしている私の後ろから、いきなり声高々に言いだしてくれた。まるで、長い間封印されていた政治家の血が騒いで、体内から噴き出したかのようだった。
「ひゅー、ひゅー。言ってくれるぜ奈々川さん」
島田が電話で茶化す……。私は赤面して下を俯いた。
「なあ、今家に来ないか? 弥生と俺に奈々川さん紹介してー」
私は後ろを振り向いた。
「いいですよ。私たちの未来のためにもなるんですから」
「ひゅー、ひゅー」
205号室
「お邪魔します」
奈々川さんだ。島田の家にスケッシーと入ると、奈々川さんが挨拶をした。
「よく来たね。奈々川さん。うちの旦那がお世話になっているよ」
コーヒーの匂いがするキッチンから、弥生がキーコ、キーコとやって来た。
「とんでもありません」
奈々川さんの返事に、島田が二カッと笑って、コーヒーを持って来た。
三人?で島田の家のリビングにあるブルーのソフャに座る。
「島田。本当にいいのか?」
島田は熱いコーヒーを私に渡し、「おっけー」と言う。
「島田さん。ありがとうございます。でも、人が傷ついたり人が死んでいいことなんてなにもないです。……藤元さんの力を借りましょう」
奈々川さんが静かに言った。
「藤元……。あいつで大丈夫か?確か向かいに居るんだっけ?」
島田が熱いコーヒーを飲んだ。
「藤元さん。いつも私のところへ来て、宗教の勧誘をしているわ。とっても良い人よ」
弥生も熱いコーヒーを飲むとこだった。
「あ、やっぱりか?」
私の言葉に、
「ええ」
「藤元か……あいつならできるんじゃないか?」
島田がまったく逆のことを言うと、私は熱いコーヒーを飲んだ。適度の苦みがあって心が落ち着いた。
「呼んで来ましょうか?」
奈々川さんが立ち上がった。
「ちょっと待って、誰かが入団を考えているって言えば、喜んで来るわ」
弥生はニッコリと言った。
……
藤元が喜んで来た。
「いやー、僕の宗教に入団希望者がいるって……やったー。今なら抽選で……」
「藤元。実は……」
私の説明。それも総理大臣の娘の奈々川さんと結婚し、そのせいでA区とB区の戦争で死亡した人を生き返らせるという。そんな相談をした。
「え、いいけど。僕の役目だし」
「やったー。藤元さんありがとうございますね」
奈々川さんが喜んで涙を見せる。
「これで、私たちが結婚しても誰も死なないですね」
「ああ。でも、B区の奴らも生き返らせるのか?」
「うーん。僕はこの云話事町で誰も死んでほしくないんだ。B区とA区は関係ないな」
「さっすが藤元さんです」
奈々川さんが立ち上がり、
「私。夜鶴さんとA区の人たちが好きです。ここで、私たちは立ち上がります! ハイブラウシティ・Bを無くしましょう! A区の底力を見せましょう!」
「おおー!!」
?の藤元とスケッシーも立ち上がった。
藤元が今日も仕事だと言って、出掛けて行った。きっと、云話事町TVだろう。
しばらくしてから、弥生さんがリビングの花柄のテレビを点けた。




