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探偵

「あの……。父は怒っていますよね。でも、夜鶴さんは関係ないはずですよ」

 車の後部座席に座った私と奈々川さん。

「うーん。そうだねー」

 銃を見て恍惚になる男は気楽に言ったが、その言葉はこれから何が起きても可笑しくないといったところである。

「まあ、大丈夫。死んだりしないよ」

 私と奈々川さんはもう離れることはないはず……。けれど、これからどうなるのだろうか?

「俺の車に……あのガンショップでの出来事だけれど、犬の絵に傷を付けたのはなんのためだ?」

 私は疑問を口にした。

「その時は単純に殺された奈賀の容疑者だと思ったのさ」

「それで、マークをわざわざ付けてその後は?」

「ズドンさ。当たり前だろ」

 銃を見て恍惚になる男と話を続けた。

「どうして、犬の絵に傷を付けると解った」

「……若いあんちゃんに、10万払って他人の車に傷をつけろと頼むとどうなるか? 傷を付けるときには必ず目立つところに……そう犬の絵にね。」

銃を見て恍惚になる男はのらりくらりと話した。

「そうか……」

 当然、今は藤元のせいで捕まったのだが……。

「その後は、奈賀が何故か生き返ってきて……奈々川お嬢様の捜索に急展開をしたのさ。そして、どうやら奈賀を撃った男と同棲でもしているのだろうと大胆な発想をしたんだけど……どんぴしゃだったね。家が空っぽだったからとっくに逃げたんじゃないかとも思ったけれども……なあ。同棲している男を早くに撃ってもいいのだけど、それだとA区とB区の戦争になる可能性もあるし……。なるだけ戦争を回避してほしいと奈々川首相のお言葉があったものでね」

 銃を見て恍惚になる男は安っぽい推理を話した。

 重苦しい緊張が漂った車は、一定のスピードで首相官邸に着いた。

 正門は豪華な造りで、何年代から続いている日本家屋だ。広さは普通の家の20倍くらいか。昔はサムライの偉い人の家だったようだ。それが今の首相官邸だ。

 地味な車は広い玉石の駐車場に停まると、二人の男は私たちを家の中へと案内した。他には地味な高級車が何十台も停まっている。けれど、目立つ車もある。派手な黄色のスポーツカーだ。

 道を挟んでいる庭には、小さい盆栽と池が無数とある。

 青い服装の警備員が立ち並ぶ幾つもの和室のあるせせこましい通路を歩き。重厚な西洋風の書斎に通される。扉の傍の両脇には背広姿が一人ずつ立っていた。

 書斎には赤ら顔で太り過ぎている小男がいた。顔にも脂肪もついていて、笑うと、脂肪が振動するくらいだ。


 奈々川首相だ。

「晴美。部屋へ行きなさい。この男と話したい」

 首相は脂肪を振動させて、まるでこれからミサイルでも発射するかのようだ。

「いやです。私は夜鶴さんと一緒にお父さんと話したいことがあるんです」

 奈々川さんが強い口調をした。

「……晴美。では仕方がない。言って御覧なさい。私は忙しいんだ。手短にな」

「あの……。お父さん。私、夜鶴さんと結婚します」

 首相は二三度首を振って、

「駄目だ。晴美……。お前はこの町を発展させなければならない。それが私たちの使命なのだよ」

 首相はレースのカーテンの大きい窓から外の景色を……町の巨大な建物が林立している様を見せる。まるで都会のテーマパークである。

「この町は私が作った……。母さんに約束したんだ」

 奈々川さんは怯むことはなく。

「いいえ。お母さんはこんな世界を望んでいません。ハイブラウシティ・Bはいわば失業者を急増させるためだけの都市です。私は労働自体を機械がしてはいけないとは言いません。けれど、もっと全体的に見ないと……お父さんはきっと矢多部さんの口車に惑わさ利益だけを見ているだけです。その理想はごく一部の……B区だけの人たちの理想だと思います」

「晴美……。解ってくれ、ハイブラウシティ・Bのことは私たちに任せて、お前は谷多部くんと付き合いなさい」

 首相はそういうと、電話を取った。

「待って、お父さん! 私はもう子供ではありません!」

 私の両脇には二人の男が付いている。二人は終始無言だ。数人の男が奈々川さんの袂に行った。

「お嬢様。こちらへ……」

「嫌です!!」

「向こうへ行きなさい!!」

 父親と数人の男に奈々川さんは、抵抗虚しく連れ去られようとした。

「お呼びでしょうか?」

 背の高い男が書斎に入って来た。……こいつがひょっとして谷多部か? その男の後ろには4人の背広のボディガードがいた。


 首相たちの背広と同じく高級なスーツを着こなし、髪は銀髪。そして、鼻が外国人のように高く均整のとれた顔立ちの男だった。

「ああ、谷多部くん。晴美が戻って来たよ。そっちへ連れて行ってくれ、それから夜鶴くんだっけ……15分だけ話そうじゃないか。忙しい身でね。でも、君も言いたいことが私と同じくあるんだろう。よろしい、聞こうじゃないか」

 奈々川さんが谷多部たちに連れ去られた後、私はあらゆる疑問が渦巻く頭を二三度振って、

「奈々川首相」

「首相で結構だよ」

「首相。ハイブラウシティ・Bとは一体どういうものなのですか?この辺で確かなことを知りたいんです」

 首相はぶるぶる震えると、

「簡単には機械が人間を管理し、同時に労働をなくす……。そういうことだ。具体的な事を話してあげようか?まず、ことの次第は谷多部 創玄。つまり、谷多部くんの父親が考案した未来都市で。三年前から続いている安価なアンドロイドによる大規模な都市開発が発端だった。人工知能を搭載した大量のアンドロイドは、工事や建設の作業をしていたのだが、あまりにも高度な技術力と正確さを発揮した。そして、安価だ。大勢の都市開発研究者の間では、近い将来に人の技術は機械の管理をするだけで、道路も医療も建物もアンドロイドができる。というのが確実になったのだ。それが、ハイブラウ(知識人・文化人)シティ・Bだ。それを応用すると人間の労働を無くして機械が労働を変わりにすることが出来るのだよ。今までの生活が一変する。それを提唱しているのが矢多部 創玄だったわけだ」

「つまり、偶然機械を使っていたら、未来都市が浮かんだ?」

 首相は首を振って、

「いや、それは違う。必然なのだよ。簡単なことだ。人間の技術がある域に達しただけだ。しかし、その未来都市は獏大な金が掛かる。このB区の五本の指に入る大金持ちの谷多部親子でも、その額は容易には支払えないのだ。……だからなのだよ。晴美や私の出番なのだ。これは、国を挙げなければ叶わない夢なのだ。もっと具体的には、高齢者の介護もできるほどの性能を保持し、医学薬学、建築学、科学などのプログラム作成。そして、アンドロイドの大規模な量産。アンドロイドの収納施設、安全管理、修理施設、研究施設などなど。それでいて大規模な需要を得られる。これはこの国だけの技術革新だ」

 私はこんな未来都市は御免だった。


 だって、そうだろう。労働を私たちから取ったら一体何が残る?

「A区の人たちはどうなるんですか。機械の管理が出来る人々はB区の人たちしかいません」

 首相は笑った。

「はっはっ。A区の人たちには農業や漁を営んでもらうんだよ。昔通りの生活を営んでもらうことが一番だ。一時的にだが何年かは失業者数が何十パーセントと出てくるだろうが、その辺の対策にも時間と労力を使うつもりだよ。私はね。今の時代を発展というより社会の大改革をするつもりだ。人としての暮らしを見直し、経済を潤す人間の労働をなくし、それでいて需要を大幅に増やすことができる。それが、ハイブラウシティ・Bだ。治安にもハイブラウシティ・Bが貢献することもある……機械の交通整理。犯人逮捕。裁判。などなど、どれも高性能で安価なアンドロイド開発の賜物なのだ。私の政策には――」

 やや熱を持って(脂肪をこれでもかと揺らし)演説を始めた奈々川首相。

「そんな……」

 これでは、奈々川さんが言った失業者を急増させる都市が、現実のものとなってしまう。人は希望や努力を奪うと何もできないものではないだろうか?農業や漁といっても失業者である何千万の人々がやれるわけではないはずだ。

 奈々川首相はB区のことしか頭にないどころか、人々のことを考えているのだろうか……。

 それに、私たちA区の人たちは、高価なパソコンなんて買ったら、銃や弾丸が買えない。弾丸は毎日必要なのだ。

「話は終わったな。君のことは警察の者に引き渡すよ。容疑は(奈賀の)殺人罪と娘の監禁罪だ。後、合田くんと奈賀くん。これから私は国会へ行くので、その護衛を……」

 奈賀 比企下……私が撃った男だった。どうやら、変装していたのだろう。

「二人は探偵か……」


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