2.前世から今世
私の前世は25年の人生であった。病死だ。活発に過ごしてきたのに、病気を発見してから亡くなるまで、早すぎる死であった。今回の転生って神様がかわいそうに思ったのかしら?
前世では、空手に日舞と身体を動かして過ごし、すぐに分析をする癖がある現実主義であった。男兄弟の中で過ごしたため男子とばかり遊んでいた。男性に苦手意識はなく、友人関係から恋愛に発展するなど何人かとお付き合いをし、身体の関係も持った。大人になるにつれ、割り切った関係を持つこともあった。病気をするまではリア充であったと言えよう。
そして、この状況はいわゆる異世界転生と言うやつなのだろうか?前世での貴族社会があった時代背景とはどうも違う。魔法が存在するなど、そういったファンタジー世界ではないが、今世はなかなかのご都合主義だ。蛇口からお湯が出るし、トイレも水洗で上下水道が整っている。なんて素晴らしい。となると、やはりここは異世界となるが、前世で流行っていたゲームの世界なのか小説の世界なのか…。だがしかし、私はハマったことがないので、この世界が何の世界なのか全くもって不明なのだ。
今世の私は両親に兄2人の5人家族で、家族仲は良好で十二分に愛情を受けている。クールビューティー系だが悪役令嬢というにはパンチが足りない。だからといってヒロインのような可憐さもない。兄たちは揃って超美形で優秀なので、こちらは登場人物の可能性はある。ふむ…。さしあたり私はモブであると推察する。ちなみにモブであってほしいという希望的観測もある。つまりは、今世には期待しかないではないか!美少女で裕福だなんて恵まれた環境ではないか!もしかしたら、私にも大事な役割があるかもしれないが、そんなこと知ったこっちゃない!だって知らないし。何よりも私の人生である。前世では短い人生となることが悔しかった。やりたいこともたくさんあった。それを今世では晴らそうではないか。
フォードヒル家は由緒正しき家柄で、お父さまは侯爵家当主で、兄である伯父さまは騎士団団長だ。当家は武と智のバランスが良く、何に秀でるかによって跡取りを決めるため、必ずしも長兄が跡取りとは限らない。私の2人の兄たちも切磋琢磨し、領地に関する勉強に、領地や国を守れるよう訓練も欠かさない。歴史ある家にしては、しがらみに縛られておらず、前世での自由さを知る私にとっては大変好ましい環境である。2人の兄はこの先も家や国を支えていく存在となるだろう。
では、私はと言うと。出来るだけ良縁を結ぶため淑女教育に力を入れている。でもそれだけ。もちろん家のために、政略でも何でも嫁に行くことに抵抗はない。しかし、それだけではつまらないのだ。せっかく裕福で理解のある家に生まれたのだから、淑女教育だけでは勿体ない。前世では空手をやっていたように、心身ともに強くありたい。弱き心は身を滅ぼす。身体が強ければ心も穏やかでいられるだろう。病気で余命わずかと宣告されたときも、腐らずにいたのはこの精神が生きていたのだろう。貴族社会はとても恐ろしいし、自分を見失わないようトレーニングが必要だ!!乗馬に剣術って前世でやりたかったんだよねぇ。美少女だから誘拐の恐れもあるよね?護身術も必要だな!あと知識だよね!知識がないと誰かや何かに負けてしまうわ!この腹黒い世界を渡り歩くには情報が必要でしょう。やりたいことが山ほど出てきてワクワクしてきた。新しいことを知るのはいつの時代も楽しいものだ。この世界のキャラ設定から外れるかもしれないが、ヒロイン・ヒーローの皆さま、ごめんなさい。私は自由にやらせてもらいます。
今後の方針が決まったため、私は気持ちよく眠りについた。