17.物語は始まる
レオンハルト殿下は、私が事件に巻き込まれている最中、パートナーであるローズを放って置いて、婚約者でもない私と2曲続けて踊ったことにより、陛下に王妃、お父さまアル兄さまエル兄さまにこっぴどく叱られ、その上少なからず思いを寄せていた私に軽く失恋をしたと言う現実に落ち込んだそうだ。気分転換にバルコニーに出たところ、そこにはミラカップルとミラのお兄さまと女性が談笑していたようで、その見覚えのない女性を目にした途端、雷で打たれたような衝撃を受けたそうだ。そう、その女性に一目惚れしたのだ。
その女性は、ミラの家に滞在している隣国の公爵家のご令嬢でアリス様と言う。私たちと同じ16歳でゆるふわカールのピンクブロンドに金の瞳、肌は雪のように白く、華奢なのに出るとこは出ている我儘ボディの、まさに天使女神妖精聖女等々褒め言葉がたくさん出てくる美少女だ。ややこしい話なのだが、ミラのお兄さまとアリス様のお姉さまが婚約しており、今回の夜会のパートナーとして呼び、国王陛下へ婚約者として挨拶をする予定だったのだが、肝心のお姉さまが風邪をひいてしまい、夜会への参加が叶わなくなってしまった。気を病んだお姉さまを思い、ミラのお兄さまのパートナーの代理は私がする!と言って、やって来たのだ。陛下への挨拶は今度行うこととなったのだが、レオンハルト殿下の元にはそこまで詳細な情報が入っておらず、ミラのお兄さまの婚約者であると言う情報で止まっていたため、アリス様をミラのお兄さまの婚約者と勘違いをし、一目惚れをしたと同時にその日2度目の失恋をしたのだ。
後日、アリス様のお姉さまの病状が回復し、改めて陛下の元に挨拶にいらした時、苦い思いを飲み込み、レオンハルト殿下もアリス様の姿見たさに同席したところ、運命の女性に似ているがどうも別人であることに気づき、慌ててミラに夜会の日にいた女性は誰なのかと確認したそうだ。事情を知った殿下は、アリス様を調べ上げ、まだ婚約者がいないことを知ると、卒業までの数ヶ月、隣国に留学することを決意したのだ。凄い執着心…もとい行動力。そんな天使女神妖精聖女であるアリス様は大層モテるそうで、隣国の第一王子を筆頭に、宰相ご子息、騎士団長ご子息、学園の先生等々ライバルが多数いるそうだ。なんだか聞いたことがあるストーリーが始まりそうだ。殿下の恋が実ったかどうかはご想像にお任せしよう。
ブラッド様はどうなったかって?あの方は、レオンハルト殿下の護衛として、隣国へついて行ったから、ごめんなさい、よく知らない。剣の腕でも磨いているのではないだろうか。
かくして、私とフィルは婚約期間を経て18歳のデビュタント後に結婚する。あの事件以来なんだかんだ理由をつけて、夜会は避けてきたが、婚約者として参加する夜会はこれが最後だ。フィルのエスコートで入場し、国王陛下の挨拶も終わり、ファーストダンスが始まる。私たちの番が来て、フロアで踊り出す。
「オーリーのパートナーを初めて務めたあの日が、まるで昨日のことのようだ。」
「えぇ。色々あって大変だったけど、あの日あなたが好きだって気づけたんだもの。忘れられない日だわ。」
「僕はずっと君しか見ていなかったっていうのに、酷い人だ。」
とクスクス笑い、目を細めて私を見つめる。意地悪している顔だ、悪魔め。
「もう、すぐにそうやって言うんだから!フィルだって私に意識させるのが遅かったのよ!」
「はは!僕のせいかい?オーリーには本当に敵わないよ。」
「そうよ!フィルが悪いの!危うくレオンハルト様に靡くところだったわ。」
と言ったところ、緋色の瞳が仄暗くなる。
「靡きそうだったの?僕以外にレオンハルト様が好きだったの?」
と言いながら、腰に回した手を強く掴み、身体がより一層密着する。婚約してみてわかったが、フィルはなかなかのヤキモチ焼きで、言葉を間違うとお仕置きが待っている。
「ち、違うわ!好きなのはフィルしかいない!私にはフィルしかいないのよ。」
「そう。僕もだよ。オーリーしかいない。でも後でお仕置きするから、覚えといて。」
と耳元で悪魔モードのフィルが囁く。ダメだったか…。でも私もミラ以外の女性と仲良くするのは許せないため、甘んじてお仕置きを受けることとする。
そうして曲も終わったが、フィルは手を離すことなく、次の曲が始まる。2曲続けてフィルとダンスをする。婚約者の特権だ。
「ずっとこうしたかった。あの時、本当に悔しくて焦ったんだ。なんでオーリーの手を離したんだろうって。もう2度と離さない。」
「あの時は本当に驚いたわ。レオンハルト様の気まぐれに振り回されたけれども、あの時ハッキリとあなたが好きなことに気づいたから、そう言う意味では悪くなかったわ。」
「オーリーはずるいな。それを言われたらレオンハルト様の暴挙に感謝しなくてはいけないじゃないか。」
「ふふふ、遠からずもそうね。」
と私が笑うと、フィルは不貞腐れる。そんなフィルも愛しくてたまらないため、私も大概絆されている。
「ほら、フィル。しっかり私を見て。私を思ってくれて離さないでいてくれてありがとう。あなたが好きよ、あなただけが好き。」
「僕もオーリーだけが好きだ。愛してる。」
とおでこにキスをする。踊りながら器用なことだ。2曲目も終わりフロアから離れ、ミラやレオンハルト様と久しぶりに話す。レオンハルト様は王太子殿下に男児が生まれたのをきっかけに王位継承権を放棄し、公爵位を賜った。
夜会も盛り上がりを見せているところ、私たちは庭に出て少し涼む。賑やかな曲が聞こえ、周りに誰もいないことを確かめ、私はフィルに手を伸ばす。
「フィル踊りましょ。あの時広場で踊ったみたいに!」
「オーリーには本当敵わないな。怪我しないでよ。」
と言って私の手を取り、3度目のダンスを曲に合わせて適当に踊る。でたらめなステップに、クルクルとターンをする。ターンしすぎて私の足元がふらつき、転びそうになる私をフィルが庇って、2人とも倒れ込むとフィルが私の下敷きになった。顔を見合わせ、2人して笑い合う。
「あぁ楽しい!!フィル、怪我はない?」
「大丈夫。オーリーも大丈夫?」
「えぇ、あなたが守ってくれたから大丈夫よ。」
「オーリーといるといつも楽しい。あの日は散々だったけど、楽しい思い出もある。」
「えぇ、本当そうね。大人になってまでやると思わなかったけど。」
「今度、お祭りの時2人で行ってみようか。」
「いいの?あの日以来行かせてもらえなくなって悲しかったの。嬉しいわ!行きたい!」
と飛び起きて、フィルを見る。フィルも起き上がり優しく微笑む。あ、天使だ。そして、そっとキスをする。
「僕の奥さん。僕の唯一。2人でやりたいことをたくさんしよう。いつでも同じ景色を見よう。愛してるよ。」
「私もフィルを愛しているわ。2人でずっと楽しいことしましょ。私があなたを幸せにしてあげる。」
見つめ合い長い長いキスをした。
その後、私たちは結婚し、伯爵家を一緒に盛り立て、男女1人ずつ子宝にも恵まれた。嫁いでからわかったのだが、フィルのお義父さまはフィルに興味がなかったわけでも、認めていなかったわけでもなく、仕事の鬼で意地っ張りなだけであった。孫ができ、爵位を譲ってからは、ガラリとキャラを変え、孫たちを溺愛している。フィルはあの頃の悩みはなんだったのかとボヤいていたが、今は幸せなんだからいいじゃない!と笑い飛ばしキスをする。この世界に私が転生した意味はなんだったのか、恐らく一生わからないだろう。でも私の人生のヒロインは私で、フィルが私のヒーローであった。これがこの物語の真実だ。
これにて終わりです。




