ページ57 エピローグ 後半
「影山くん、これはとっても凄いことなんだよ」
青井さんが自慢気に語り掛けてくる。
「日本にはその名に『髪』を持つ四大貴族が居るんだけど、彼らはその莫大な資金力で日本の政治や経済、医療、教育など様々な分野からこの国を支える、とっても偉い人達なんだ」
青井さんが食い気味に続ける。
「その中でも教育機関を司る赤髪グループとの協力を取り付けたということは、とんでもなく凄いことなんだよ! わかるかい!? これで僕の出世も間違いなしさ!!」
「はあ……」
興奮しすぎて凄さがいまいち伝わってこないんだが。
そして、最後の本音の部分がすべてを台無しにしている。
「あらあら、お恥ずかしい限りですわ」
むしろ、自分がはそんな凄い人の学校に通っていたことに驚きである。
通りで授業がレベル高く、教師陣がみんな意識高い系なわけだ。
授業中に眠そうな顔をしているだけで、その場に立たされて授業続行するんだし。おちおち欠伸もできやしない。
「人が居てこその教育、高い教育があってこそ、この国の発展に繋がるのです。人を守り、育てることが我ら赤髪が目指す国の発展の形なのです」
人を守り育てること──。
あの時お婆さんに諭されたオレとしては、何だか考え深い言葉だった。
お婆さんの言葉を紗代さんが引き継ぐ。
「具体的には、我が校をゼロ西日本支部の本拠地、並びに近隣住人の避難所として提供、逃げ遅れた人々の救助や怪物の排除をお願いしたいと考えております」
何だか話が大きくなってきたな。
「ねね、影山くん」
「うん?」
突然隣に座る佐伯さんが嬉しそうに話しかけてきた。
「何だかクランみたいだね」
「クラン?」
「そう、血盟。みんなでこれから一つの目標に向かっていくこの感じ。ゲームみたいで何だかワクワクしない?」
確かにこれからオレ達が最前線でモンスター討伐を行い、人々の救助を行う。そして、学校の生徒達や避難してきた人達がそのバックアップに当たるのだろう。
確かにこれも一つの血盟の形なのかもしれない。
「だったら血盟名は何がいいかな?」
青井さんまでノリノリで話に参加してくる。
しかしこういった場合はスポンサーの名が入るでは?
「うーん。赤髪血盟、になるんですかね……?」
字面的には悪くないと思うんだけど。
ちょっと小っ恥ずかしいかな。
全員の視線がお婆さんに集まる。
「うふふ、そうですねぇ」
盲目のお婆さんは思案顔で何処か遠い場所を見つめた後、夢を語るように楽し気な表情でオレ達に語ってくれた。
「我が赤髪財閥の象徴とする赤という色には、火や炎という意味が込められています。原石のような小さな火種を守り育て、やがては大きな火種として日本、そして世界へと影響という火種を届ける。そんな意味が込められております」
初めて聞かされる、自分が通う高校の根源。
「まだ小さな火種である皆さんには、戦争で多くを学んだ地──広島から日本の各地へ、そして世界へ向けて、平和の火種『フォティア』を届けて欲しいと願います。どうか、この世界を救って下さい」
お婆さんと共に紗代さんが頭を深々と下げた。
オレ達の答えはもちろんもう決まっている。
「「「はい!」」なの!」
平和の火種『フォティア』を届ける。
世界中で今も苦しむ人々を救うための小さな火種。
その火種はやがて大きな炎となり、世界中を包み込むだろう。
この日、新たにオレ達の血盟名が決まった。
血盟名、『フォティア』。
それはこれから始まる動乱の時代、その中心となる血盟の幕開けでもあった。
◆ ◇ ◆
──その夜。
ふと尿意を感じて目を覚ました。
場所は職員室。
応接室用に仕切られたパーティションに囲われたソファーの上。
佐伯さんやノエルは体育館だ。
緊急事態に備え、とりあえずオレだけでもすぐに動けるようにと、ここ、職員室で眠っていたのだが。
「いててっ」
腰が痛い。
オレももう年だわ。若い頃はこんなことなかったのに。
そんなことを考えていると、どこからかパソコンを弾く音がした。
警備の人もいるだろうけど、他にも誰か起きているのだろうか。
時計を見ると午前三時を指している。
「まだ起きてたんですね」
「あぁ、色々とやることが多くてね」
声を掛けると青井さんがノートパソコンから顔を上げて伸びをした。
これはあれか。時間外労働を含め給料もらってるパターンだろうか。
状況が状況なだけに止めることも出来ないし。
お勤めご苦労さまです。
「トイレかい?」
「はい」
「じゃあついでに校内の見回りも頼めないかな。こっちでも回らせてるけど、昼間のこともあるし、念のためね」
「わかりました。ついでに散歩してきます」
「うん、よろしく頼むね」
青井さんのノートパソコンは、軍の特殊回線と繋がっているらしい。
とは言ってもワールドでワイドなウェブは止まっているので、出来ることはせいぜいメール程度らしいがそれでも充分だろう。
その青井さんの警護であるジャガイモ顔の菊池さんは、近くで寝息を立ててる。
きっとここに来るまでに色々苦労したのだろう。
まあいいや、トイレトイレっと。
「スマホがこんなところで役に立つとは思わなかったな」
懐中電灯機能が意外なところで役立った。
後で充電器借りよう。
夜の学校を歩き回るって何気に初めての経験かも。
当たり前だけど、人っ子一人居やしない。
「はぁ、彼女欲しいな……」
何だか急に人恋しくなってきた。
理想はかわいくて守ってあげたくなるような子がいい。
それでこんな暗がりを一緒に歩こうものなら、服の袖をちょこんと引っ張ってくる子がいいなぁ。そしたら、大丈夫だよなんて言いながらどこまでも歩いていける気がする。
なんでこんな妄想を繰り広げているかというと──
夜の学校ってマジで何か出そうで怖い。
青井さんに連れしょん頼めば良かった。
「あぁ、あったあった」
職員トイレが近くにあって助かった。
尿意もそろそろ限界だったので、何か飛び出して来ようものなら大惨事だ。
「ふぅ~」
決壊したダムは止まることを知らない。
はあ、幸せ。
「ん?」
ふと何か音がした気がした。
耳を澄ますと──
「な、なんだ……?」
廊下の方から、カシャ、カシャ、と、聞こえる。
しかもかなり近いし。これ、もしかして近づいて来てる?
やべえ。超怖い。
まだ五月だぞ。肝試しにはまだ早いだろ!
だがそんな時でも出るものは止まらない。
仕方ないので、背中を反らせて入り口の方を覗くと──
──カシャ。カシャ。カタカタカタ。
月明りに照らされて視界に映ったのは、人の形をした人でない者。
肉も皮も何もかも失った、骨だけの姿。
骸骨。
それがこちらに振り向き、オレのことを嘲笑うようにカタカタと顎を鳴らせたのだった。
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
どうも、ロングブックです。
一先ず一章はここで終わりとなります。
この今作は、以前投稿した『ログイン』のブラッシュアップ作品になります。
残念ながらブラッシュアップしたにも関わらず『ログイン』の総評120ptを越えることが出来ませんでした。
色々反省点はありますが、それはまた次作に活かしたいと思います。
一応二章のプロットも作ってあります。
気が向いたら続きを書くかもしれませんので、完結ではなく、このまま未完のままにしておこうと思います。
一章ラストまでお付き合い頂き、誠にありがとうございました。




