ページ2 我が人生一片の悔い無し?
「ヒャッハー!! 死に晒せえええっ!!」
不意打ちも何もない。
大声を上げ、大突撃。
正義は我に在り!
その場の全員が驚愕し振り向く──が、遅い!
オレは大量に教科書が詰まった鞄を一番近くにいた一匹に叩きつけた。
『ギャッ!?』
吹っ飛んでいく姿を律義に見送っている暇はない。
既に残りの二匹が醜悪に顔を歪め、襲い来ている。
だが甘い。世の童貞達は妄想を怠らないのだよ。
故に、我はその先を行く。
「必殺トルネードクラッシュ!!」
振り向き様に鞄を横に薙ぎ払い、二匹まとめて蹴散ら──
「あっ……」
…………。
蹴散らした二匹が、民家の雨戸を突き破って大惨事となった。
急に冷静な自分に戻るオレ。
ど、どどど、どうしよ、これ。
だが惨事はそこで終わらない。
「だめえええええっっ!!」
「ええっ!?」
今度はこちらが驚く番だった。
尻餅をつき、オレを見上げる態勢だった佐伯さん。
彼女が突然悲鳴を上げたのだ。
もう頭の中は真っ白である。
直後、目の前を何かが落下した。
「痛ッ」
右腕に熱が走る。ポタポタと腕を伝って鮮血が飛び散った。
反射的に腕を抑え顔を歪めたオレを嘲笑うかのような視線。
『ギギッ』
油断した。油断した。油断したっ!
仲間を囮にして、木の上に隠れてたのだ。
冷静に次手を繰り出さんと構えを作る姿は、まるで歴戦の戦士のよう。
必ず殺すという強い意志がヒシヒシと伝わってくる。
明らかに他の三匹とはレベルが違う生き物に、思わずたじろいでしまう。
──息苦しい。
鼓動の音が忙しなく警報を鳴らしている。
コイツはやばい。今すぐ逃げろと語り掛けてくる。
この体格差なら、全力で逃げば逃げ切れる。
だから、今すぐ佐伯さんを連れて逃げろと……。
なのに──
どうしてオレは笑っているのだろう。
耳が脈を打つ。全身の震えが止まらない。
本能が戦えと──いや、戦いたいと渇望しているのだ。
オレはこんな状況をずっと待ち望んでいたのかもしれない。
凶悪なモンスターから女の子を助け出す。
物語やゲームの中でしか起こりえない状況。
それが今まさに目の前で繰り広げられているのだ。
──ならば、やるしかないだろう。
英雄達が乗り越えてきた死線の先にあるモノを手にするために!
己の胸の内に仕舞い込んでしまったモノを、今こそ解き放つ時だろう。
──刮目せよ。
一人と一匹の視線が交差する。
雄と雄の命を駆けた戦いが、今始まろうとしていた。
「こぉのっ!!」
「あ……」
勇ましい声と共に勝負は決した。
敵の背後から大きな石を抱えた佐伯さんによって。
「影山くん、大丈夫?」
さらに助けに来た英雄が言うであろうセリフまで取られてしまう始末。
きっとこうやって可愛い女の子達は、自衛のために駆けつけた男共のフラグをへし折っていくのだろう。
ラブコメの神様よ、オレの見せ場を返してくれ。
……いやまて、これでいい。
オレは中二病を卒業したんだ。
このまま英雄になることもなく、普通でいい。
こんな出会い頭にゴブリンみたいな恥ずかしい設定は、今のオレには必要ない。
普通に佐伯さんと恋をして、普通に大人になっていく。
それでいいじゃないか。普通最高。
「…………大丈夫、です」
「なんで敬語!?」
グスンと泣きたい気持ちを必死に堪え周囲を見渡した。
気を失ってピクリとも動かない四匹のゴブリン達。
まだ生きてるみたいだけど、こいつらは一体なんなんだ。
最初の三匹はともかく、最後の一匹は間違いなくオレを殺す気だったぞ。
奴らが再び目を覚ませば、次こそは守ってみせると意気込みたいが、わざわざそのために起きるのを待つのもバカらしい。
「佐伯さん、話は後だ。とりあえずここから離れよう」
「う、うん」
オレは彼女の手を掴み、すぐさま走り出した。
◆ ◇ ◆
どれだけ走っただろう。
オレは夕焼けの下、アスファルトの地面に身を投げ出していた。
大の字である。もう一歩も動けない。
「ぜぇー、ぜぇー」
呼吸をする度に激しく膨張と収縮を繰り返す肺。
おかしい。どうなってんの。
「影山くん大丈夫……?」
「ああ……てかっ、佐伯……さんっ、早すぎっ」
最初はね、オレがどさくさに紛れて繋いだ手を引っ張って走っていた。
それがいつの間にか追い付かれ、追い抜かれ、そして気が付けばオレの方が引っ張られているという醜態を晒していたのだ。
「わたし、中学は陸上部で今もたまに走ってるから……」
そうでしたあああっ。
ちょっと調子に乗ってかっこつけるとすぐこれだ。
万年帰宅部の童貞には普通のハードルが高過ぎる。
「もしかして、初めから走って逃げていれば助けなんて要らなかったんじゃ……」
そこまで言って、急にとてつもない羞恥心に駆られた。
頭の中では、今の発言が何度も反響して繰り返すのみ。
そして、遂には耐えきれなくなり崩壊が始まった。
「アーッ、死にたい死にたい死にたいっ」
「ひぃっ!?」
頭を抱えて悶え絶叫するオレ。
たまらず佐伯さんが悲鳴のような声を上げた。
…………あれ?
ふと、何だかいつもより身体がだるいような気がした。
そんなに疲れたのだろうか。手足もなんだか少し重い。
視界までぼやけてきて、あれ本当にどうしたんだろう。
薄っすらと映る視界の先には、大盤振る舞いに垂れ流した血の痕──
「影山くん……?」
「…………」
やべっ。血を流し過ぎたかも。
ようやく思い出したように右腕に意識を向けると、待ってましたとばかりに全身に悪寒が走る。
あ、これあかんやつや──
「え、うそ!?」
薄れゆく意識の中で、オレは自分の死期を悟った。
抱き起こされ、柔らかいモノが頭に当たる感触に少しだけ意識が蘇る。
自分の物ではない鼓動の音に安らぎすら感じる。
「影山くん。ねえ影山くんってば! お願いだから目を開けて!!」
このまま彼女の腕の中で眠り逝くのも悪くないと思った。
我が人生一片の悔い────…………
どうも、ロングブックです。
これぞ異世界ものあるあるのスタートですね。
でも残念、異世界にはいきません。
私はなかなか続きが刊行されない某ラノベ作品の大ファンで、
続きが読めないなら自分で書くしかねえと思い上がった次第です。
奥義アイ・アム・アトミッ〇!!
この作品が少しでも『面白い』、『続きが読みたい』と思って頂けたら、
作者が奥義を唱えて喜びますので【評価】【ブックマーク】をお願いします。




