11話・共喰い
やっとの思いで、自分の部屋に到着。
一刻も早く、避難しようとした…そのとき。
グチャ、グチャ、グチャ
肉をミンチ(潰す)にする音が、ウラドの意識を奪った。
その物音は「隣の部屋」から。
彼の記憶によると。
隣の部屋には、二人組(男と女)が宿泊しているはず。
なのに…何だ?この音は?
もう、これ以上…踏み入ってはならない。
しかし、気づいた頃にはもう。
その手が「隣の部屋」のドアノブを回していた。
わずかに扉が開かれて。
小さな隙間から、部屋の様子が見える。
そこ(扉の隙間)から襲ってくる…容赦のない「死臭」。
グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ
瞬間…ウラドの目に、飛び込んできたのは。
「人と人との『共喰い』」
獣人の女が、戦士の男を押し倒し…男の体を貪り、バラバラに切り刻む。
グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ
男の血が、部屋中に飛び散ってゆく。
もはや、ウラドの正気は限界。
必死に堪えてきた「吐き気」が、たちまち暴走した。
「うっ!うぉっええええええええ!」
ウラドの口から、汚らしい嘔吐物が、ドバドバ…と溢れ出てくる。
ビチャ、ビチャビチャ…ビチャッ!
激しく嘔吐する音…
その音に気づき、獣人の女が、男を「喰う」のを中断。
殺意の眼差しで、扉の隙間を睨みつけた。
扉の隙間から、ウラドと女…二つの視線が重なる。
相手(獣人の女)の口からは「緑色の液体」が垂れていて…
目からも…獣耳からも…濁り汚れた「緑色」が覗いていた。
そのおぞましい怪物をまえに。
ゾッとする恐怖が、ウラドの体を凍らせた。
生ぬるい汗が、全身から溢れ出してくる。
恐怖によって、足が痙攣してしまう。
逃げねば!逃げなければ!
この現実(狂気)の手により、自分も狩られてしまう!
生存本能が、必死に警告を上げるも…
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
女の悲鳴(叫び声)が、部屋中を揺るがし。
物凄い勢いで、暴君の如く突撃してきた。
その俊敏さは、あまりにも「生き物離れ」しており。
圧倒的な腕力で、扉を粉々に粉砕…
一瞬にして、両者(ウラドと女)の堺が消え去る。
破壊された扉…襲いかかる「死の爪」。
すべての一瞬が、スローモーションに動き。
逃れられぬ「死」を、ウラドは実感した。




