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60.トーヤとヤン(世界の終わりから2年8か月前/10)

 さあ夢を歌おう。

 さあ翼広げて、

 明日へ夢を届けよう。


 奇跡の翼広げて、

 その歌声とともに、

 どこまでもどこまでも。


 力の限り勇気の限り。

 空へ夢を明日へ。

 届けよう。

 ─とあるミラメル童謡歌より─



前回のあらすじ!

 帝星宮の湯浴み場で続く

 ナナセちゃんとフィラの

 ガチバトル!


そのとばっちりで、

「神視点の語り部」だったはずの

「わたし」までゲーム世界に

 落っこちて?

 

 どさくさで入手した魔聖剣で

 バトル決着?

 でもその先に待っていたのは……

 え? ヤン?


始まります!

「シア? シアいるのか?」


 帝星宮(ラグナレク)の湯浴み場。

 その更衣室。


 ちょっとしたホテルのガーデンチェアのような椅子に座り、楕円形の真っ白な机に突っ伏していたわたしの顔が上がる。


 思わず更衣室の扉を見る。

 白地に金の縁取りがされた両開き式の扉。


「シア? 悪いけど、ちょっと出て来れないか?」


 これは──ヤン?


 ヤン・マッキー・ヴァレンシュタイン!?


 わたしの頭に、ボサボサでつんつんの頭、ラフなシャツにジーンズを履いた30絡みの男の姿が浮かぶ。


 扉の横にいる真っ白なドレス&エプロン姿のメイドさんが、ちらりとこちらを見た。

 

 彼女によれば、その扉にはカーテン代わりに不可視の魔法がかかっているとのこと。

 なので、たとえいきなり開けられても決して中は見えないらしい。


 もちろん通常は彼女によって(魔法的に)施錠されているので、外からは決して開けられないけれど。

 

 ちなみにわたしたちのような利用者には、扉を開けられる魔法が渡されている。

 そのまま取っ手に手をやるだけで、自分で勝手に扉を開けて出入りできる。


 というか、ここは一般の外来者向けの湯浴み場なので、扉の開け閉めから服の管理まで、基本的にはすべて自分でやることになってる──って、元の世界じゃ当たり前のことだけど。


「ヤン──? ああえっと、ちょっと待って!」


 椅子を倒しそうな勢いで立ち上がると、さっと大きな姿見のところへ駆け寄る。


 生乾きでこちらもぼっさぼさの頭。

 先にヤンと一緒だった時に来ていたやぼったいロングドレス。

 腰のベルト。


 ゲームキャラじゃない、リアルの自分そのままの顔を除けば、さっきヤンの仲間(部下かな?)の「勇者レイ」に会った時と同じ姿。


 彼はあっさり誤魔化せたけど(さすがゲーム!)、果たしてこっちはどうか。


 会わないで帰ってもらえるならそれが一番だけど。


「ごめんなさい、今ちょっと出られなくて」


 言ってみた。


「儀式でどうしても『あれ』が必要なんだ。レイに聞いたら、『その包み』はきみが持ってるって」


 それってつまり、あの短剣──魔聖剣「ケリス・ルーンテイカー」のことか。


 うーんどうしよう。


「……え? 包み? ナニソレ?」


 どこぞの殿下よろしく、しらばっくれてみた。


「冗談はよせ。時間がないんだ」


 だめだった!


「湯浴み場担当のきみ、聞こえてるか? おれは──わたしはミラメル小王国宰相、ヤン・マキ・ヴァレンシュタインだ。緊急の用事でどうしても中の彼女と会う必要がある。ここを開けてくれ」


 うわそうきたか!

 って、え? 宰相?

 

 それもミラメルって──確かそれ、帝国でも一番強い国じゃなかった?


 困ったようにこちらを見るメイドさん。


「いかがしますか?」


 と言われましても。


「開けてくれないなら、衛士を呼んでここを強制開放させる。おおごとになるが、いいのかね?」


「わかった、わかったから! ──いいよ、開けてくれる?」


 観念して姿見の前で振り返り、扉と正対する。


 メイドさんが扉を開く。


 完全に開き切る前に入って来た彼を見て、


「……誰?」


「は? ──ああ、おれだよ、おれ!」


 厳しめの顔が、ふっと緩む。


 しっかりなでつけた、オールバックのつやつや髪。

 スーツと詰襟を合体させて肩と胸に飾りをつけたような黒服。

 

 上から下までじっと見て、ぴかぴかの靴からまたその顔に視線を戻す。


「確かにヤン、みたいだけど」


 いや見違えたわ。

 馬子にも衣装を地で行ってるわ。


「きみの方は──おれの見間違いでなきゃ、全然変わってないな」


 わざとらしく大きなため息。


「このあと新皇太子お披露目の宴があるんだが、それまでには準備できそう?」


「ああ、うん、たぶんね──それより、あの短剣だけど」


「そうだった! 明日の葬竜の儀の前に、ちょっとあの短剣が必要に──」


 言葉が途切れる。


「──?」


 黙ったまま、わたしの顔をじっと見つめる。


「……誰だ?」


 自分でも信じられないといった顔で、ヤン。


「きみは──おまえは、誰だ」


 眇めようにしていた茶色の瞳が、次の瞬間、大きく見開かれる。

 

 今さらですけど、今ですか!

 やっと気がついたか!


「おまえだな! シアの『中』にいたのは!」


 ふわっふわの絨毯の上を、ピッカピカの黒靴でやって来る。


「誰だ──トーヤの手のものか!? 短剣(ルーンテイカー)を手に入れるために!?」


 目の前で立ち止まる。

 頭ひとつ上から、ぐっと睨みつけられる。


「だからってシアに化けるとか、こんな、こんな汚い真似を──よくも!」


「ちち、違う! 違うの!」


「何が違うもんか! すっかりおれを騙しておいて!」


「そんなんじゃない! そんな気はなかったの! 信じて!」


 短剣を持つ両手にさらにぎゅっと力をこめて、


「ただ気がついたら、こうなってた! トーヤは関係な──!」


 ……『「一方その頃」の魔法』。

 トーヤの声。

 

 そしてぱっちんと鳴らす指。


 そうだ……トーヤ。

 

 わたしはあれで、彼の──ヤンの部屋に飛ばされて。


 そこで幽霊のように立っていあ「彼女」に──シアの体に入って。


 そのときにはもう、彼女の手にはあの短剣が──ケリス・ルーンテイカーがあった。


 ……ほんとなの? トーヤ。

 あなたはあの短剣を手にれるために、わたしを「利用」したの?


「どうした? 言い訳が尽きたか」


「……」


 視線を落とした彼が二度目の、でも今度は本物のため息をつく。


「……もういい」


 顔を戻す。

 わたしを見る。


「おまえの──きみのことは、後で聞く。それよりあの短剣だ。渡してほしい」


 大きな手を開いてこちらへ向ける。


「あれを渡してくれれば、そうすれば悪いようにはしない」


 それはむしろ懇願するように。


「約束する。必要ならおれが守る。絶対に」


 さっきまで盗人扱いだったのに。

 まるで姫を守る騎士のような。


「悪いのはあいつだ。トーヤだ。きみはただやつに利用されてただけだ」


 その声がずきん、と心に刺さった。


「あの短剣がやつの手に渡れば、魔王帝国は最悪、崩壊する」


「それって、どういう意味、ですか?」

 

 彼はわたしの儀礼的な目上使いの言葉に、ちょっと寂し気に口元を引き結んでから、


「今回の葬竜の儀は、魔王皇帝ルースルーグの亡くなった王皇妃(レアクイーン)のために執り行われる」


「葬竜の儀……って、あの本当にドラゴンに、その、食べさせちゃうの? それを、その人を──」


 思わず素の言葉になったわたしに、彼はむしろほっとするように頷くと、


「ああ。まあ中にはダンジョンで生きた冒険者たちを喰らうような連中もいるが」


 ちょっと脅かすように低い声。


「そんなのとは全く違う。この帝星宮に降臨した大星竜アズルースは、人を、その命を、その身に残った魂を喰らうことで、それを奇跡の力に変えることができるんだ」


「人の命を、奇跡の力──に?」


 頷く。力強く。


「それは伝説の亜神がこの世界に残した魔法とは全く違う。この世界そのものを創造する、創造できる力なんだ」

 

 ふっと顔を上げて、白木の梁が縦横に並ぶ天井を見上げる。


「それはこの仮初の世界を、本物の世界にすることだってできるんだ」


「もしかして、それって……」


 ただのゲームだったこのがるどあが、今まさにリアル世界化しつつあるのは。

 リアル化しつつあるのは、もしかして、その力のせい?


 頭を振る。


 待って、待って!


 いま彼が、ヤンが話してることは「本当」のこと?


 それとも、今はまだ第二章の本編イベント中?

 彼のセリフも、そこで語られている「物語(シナリオ)」通り?


 わからない。

 どこまでがゲームで、どこからがリアルの話なのか。


 弟のユキくん──ここでは次の皇太子たるユート殿下──や、まさにトーヤ自身なら、答えられる?


 トーヤ──歳矢(としや)なら。

 このゲーム世界に転生した、わたしの「大切な人」だったら。

 

「トーヤに、彼に、会わせてくれる?」


 言って、小さく首を振る。

 再び彼を見上げるようにして。


「……会わせてくれませんか?」


 あの魔導鉄道で一緒だったヤンはここにはいない。

 代わって目の前に立つ一国の宰相へ向けて、お願いする。


「だめだ。それはできない」


 即答。


「あいつにはおれが会う。会いに行く。これから」


 彼もまた宰相の顔になって、


「やつはあの短剣を使って奇跡の力を横取りして、魔王帝国を乗っ取る気なのさ!」


 声を張るヤン。

 でもわたしに驚きはない。


 だってこの先の、最終章での彼は間違いなく、その魔王皇帝なのだから。


 わたしのいるリアル世界では、それはとっくの昔に(ゲームの中で)起こった交代劇なのだから。


 言葉のないわたしを、どうヤンが誤解したのか、


「たとえきみが魔帝の座を簒奪せんと企む大逆人の一味だったとしても、さっきも言った通り、おれが全力で守る──」


 守らせてくれ、と。

 きみを。


「そのためにも、どうしてもあの短剣が必要なんだ。頼む。渡してくれ」


 一国の宰相が、みすぼらしいドレスを纏ったぼさぼさ頭の女に頭を下げる。


 すっかり固まってしまったわたしの中で、先のユート殿下の言葉が蘇る。


 あの短剣は第二章のクリアに必須のアイテムで。

 それがなければここからログアウトできない。


 さらにそれは最終章で必要なイベントフラグを立てるためにも必要で。


 入手できなければ最悪、最終章で詰まってリタイアという事態になりかねない──


 わたしの目的を果たすには──このゲームの最終章を走り抜けて、その先にいるトーヤを、この世界を(ゲームとして?)存続させるには、あの短剣は絶対に必要だ。


 でもそれは、どうやらヤンにとっても「絶対に必要な」アイテムらしくて。


 わたしいったい、どうしたら──?


「──そこまでだ!」


 湯殿へ続く扉が開かれると、そこにはひとりの女性が立っていた。


「おまえは──」


「リデラー、さん?」


 それは相手に向かって突き立てられたような一対のツノの下、腰まで届く緑の髪をそのままに、薄いピンクの湯浴み着(スパドレス)一枚の姿で。

 

「あたしらはまだ湯浴みの最中でね。悪いけど出直してきてくれないか?」


「リデラー……そのツノ。トーヤの手の者か」


「まだそうと決めちゃいない。だから今はただの雇われガードさ」


「傭兵か」


「ブルーム・クラン。聞いたことは?」


「悪いな──ひょっとして、ミラメル(うち)のカラミティ・クランと関係が?」


「あたしの前で二度とその名前を出さないと誓えるなら、ここじゃ何もしない」


 言って、にやりと笑う。


「約束はできないが、おれもこんな場所で争う気はないよ──それで?」


「言ったろ。もうひとっぷろ浴びるまで、ちょっと外で待ってろ、ってな」


「それが一国の宰相に向かって言う言葉か」


「あたしはカラミティのボスに向かって言ってるつもりなんだが」


 自分で言ってりゃ世話ないな、と笑うリデラーさん。


「知らんな。なんのことだ?」


「往生際が悪いぞ、宰相どの?」


 リデラーさんの横から、ちょこんと顔を出す空色ツインテ髪の女の子。


「ユユリコ姫? どうしてきみ──あなたがこんなところに?」


「なに、格式ばった上階の湯浴み場より、こちらの方が我が性にあっただけでな──そなたこそ、いつまでそうして女の聖域に立ち入り続けるつもりだ?」


「そうそう。彼女がカゼでも引いたらあんたのせいよ?」


 さらにもう一方の側から、赤い髪のデミエルフ、ナナセちゃんも顔を出す。


 そっか。先のバトルから復活したんだ、ナナセちゃん。


 横目で見つめるわたしに、彼女はこくりと頷く。


 そしてさっとわたしの横まで来ると、わたしの手から短剣を取って、


「どうせあたしらはその扉から出るしかないんだし」


 彼女は手に握ったその短剣をちらつかせながら、


「外で待ってればちゃんと返してあげるから、おとなしく外で待ってなさい」


 こちらも、相手が一国の宰相だろうがお構いなし。


 最も彼女の実年齢(?)がいくつか知らないけど。


 ただ一応エルフ族なら、一見してヒト族のヤンよりもずっと年上(の設定)だったとしても不思議はない。


「おれはこれでも忙しい身でね──レン、戻ってるか?」


「ここにいますけど」


 扉の外から声が返ってくる。


「いったい中はどうなってるんです? 理容師と着付け師を待たせてるんですが」


 ヤンはこちらを向いたまま、ひょいっと肩をすくめてみせると、


「もう少し待ってもらうさ。お嬢さま方はまだまだ湯殿でのおしゃべりを楽しみたいらしい」


 言って、くるりと振り返る。


「外でレンを待たせておく。短剣(それ)は彼に渡してくれ。あまり待てないぞ」


 さらに明後日の方を向いて声を上げる。


「バード! 時間は!?」


「──二つ半、かも~?」


 どこかからあの鳥の声が聞こえてくる。


「あと半時、30分だ。それを過ぎたら衛兵を引き連れたレンを突入させる。いいな」


「さあね」


 こちらも肩をそびやかすようにして、リデラーさん。


「無粋よの~」


 ユユリコ姫。


「がっつく男は嫌われる」


 ナナセちゃん。


 ……って、あれ?

 もうひとりの「わたし」は?


 第二章版の「ユキナ」は?


「半時だ!」


 言い捨てて、今度こそふり返らずに扉へ向かう。


 でもやっぱり立ち止まって、


「そういえば、それの鞘は?」


「──鞘?」


 わたしがみんなを見ると、全員そろって首を左右に振る。


「知らないって」


「そうか。残念だったな、マツリ姫」


 マツリ姫?


「──って誰?」


 でもそれには答えず、ヤンはさっさと扉から出て行ってしまう。


 扉が閉まり、一瞬の静寂。


「さあてと、邪魔者が消えたところで」


 リデラーさんが近寄ってくる。

 なんか嫌な予感。


「そうそう。これからが本番ってことでな」


 やはりじわじわと迫るユユリコ姫。


「ふうん、これが本(・)物(・)の(・)ユ(・)ナ(・)キ(・)?」


 絶対何か知ってる口調で、ナナセちゃんも。


「ま、時間もないことだし」


 剣呑な笑みを浮かべて目の前に立つリデラーさん。


 その指をぱちん、と鳴らす。


「さあみんあ、やっておしまい!」


 残り二人が同時にとびかかってくる。


「いえすまーむ!」


「覚悟終了してる!?」


「ちょちょっと待って! 自分で! 服自分で脱げるから! あーだめだめ、それだけはー!!」


「はっはー心配するな服ならあとでいくらでも弁償してやる!」


 さすが姫さま──じゃなくて!


「カイボーはいやだあああ~~~!」


「わっはっは往生際が悪いぞ主人公のくせに!」


 ちょっとナナセちゃん、あなた絶対何かしってるでしょ!?


「よし連行だ! さあ温泉回第二部、行くぞ!」


 リデラーさんの鬨の声を合図に、ひん剥かれたわたしごと湯殿に突入する一同。


 一体何がどうなった?


 さっきまでのシリアスはどこに!?


「ていうかいいのこれで!?」


 ほんとにいいの!?



次回予告!

 はいもう何でも来い( ̄▽ ̄;)!

 そんな気分の予告です!


 は? 現代? それって

 おいしいの?


 ……でもほんと、そろそろ

 戻らないと日常が。コミケが!

 あと会社も!

 それを考えると戻りたいような

 戻りたくないような。


 ……あれ、最終章は?


 お楽しみだ~!

(主に作者が(^^ゞww)!

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