第9話 本気のジュリエット
学校祭。
雨勝シンのクラスでは、ロミオとジュリエットの演劇を行うことを決めた。その係に祭り上げられたシンは、ギャグ風に話をアレンジして、笑いをとる演劇に書き換えた。
ただ、役者の立候補が出ず、やむを得ずロミオ役がシン、ジュリエット役が幼なじみの葉山サキが引き受けることとなった。
学校祭の当日、お決まりのベランダ越しのやりとりのシーンで、ジュリエットとロミオの会話が始まった。
「あぁ・・・ロミオ、なぜあなたはロミオなの」
「そういう君はジュリエット、なぜ君はジュリエットなんだ」
「・・・そう、あれは夕暮れの街角の喫茶店。あなたは見覚えのあるあの子と微笑み見つめあっていたわ」
「・・・・・?」
「あの子が急にきれいになったのは、あなたとこんなふうに会っていたからなのね」
「・・・・・??」
セっ、セリフが違う。俺は慌てて舞台袖にいるスタッフを睨んだ。
スタッフも、サキの、全く台本にないセリフに驚き、いや、知らん、知らんと、俺に合図を送る。
サキは全く意に介さずセリフを続ける。
「あの子が、あなたにふられたのも知ってるわ。でもね。私は自分からいいよったりしないんだから」
「・・・・・・???」
『おいおい!!ユーミンの歌のパクリ劇かよ!!』
客席からヤジが飛ぶ。
ヤジが言うように、サキは明らかにユーミンの『待ち伏せの』の歌詞をセリフにしている。
シンは再び舞台袖のスタッフに目配せしたが、スタッフも、なんとか合わせろ!と勝手なことを言っている。
「・・・あぁ・・・ジュリエット。ちょっと何言ってるかわかんないんだけど」
『がはっ、何言ってのお前ら、ギャグってんじゃねーよ!!』
体育館に爆笑が広がり、ヤジがヤジを呼んでいる。
そのヤジをものともせず、サキはセリフを続ける。
「別の人がくれたラブレターをわざと見せたのも、偶然を装って帰り道でまっていたのも、あなたはほんとは知ってるんでしょ」
「あ・・えーーーと・・・」
『ロミオ!お前ひでーーやつだな!なんとか言いやがれ!』
『ジュリエットかわいそう!さいってーーね、シン!!』
ヤジが具体的になり始め、俺を本名で呼び始めた。
「ジュ・・・ジュリエット、今はそういうことを言う時ではないはずだ」
俺は、必死にアドリブを切り返す。
「だったら、どこで言えばいいの?今言えないのなら、私は死ぬまで言えないわ」
『シン、てめーーーはっきりしやがれ、答えろ!』
「いや・・・だから、何言ってるかわかんねーし」
「だったら、言ってやるわ、シン!私、幼稚園の時に三回もプロポーズしたわ」
「・・・い、いつの話してんだよ。そんなの覚えてるわけないだろう!」
『キャ!サキかわいい!!』
『シンてめえ!うらやましいぞ、このやろう!!』
「シン、あなたは、一度も返事をしてくれなかった」
「いや・・・だから・・・」
「私は、小学校、中学校、高校の時、三通もシンに手紙を渡したわ。それでもシンは何の返事もしてくれなかった。そればかりじゃないわ。私がシンにラブレターをしつこく渡しているって噂流したのもシン、あなたでしょ」
『ひでーーーーシン、お前、男じゃねーーー』
『ひっど、きもい、きっしょい。最低ねシン!!』
ヤジの勢いが高まっていく。
「本名言うのやめろ!今演劇してるんだぞ」
『演劇もくそもないぞ!乙女の公開告白だぞ!シン、何とか答えろよ!』
「みんな、ありがとう。でもねシンをいじめないで、シンはヘタレだけど、私はヘタレでもいいと思ってるの」
「サキ、お前何やってるか分かっての?」
「三年生最後のお祭り、私と一緒に歩いてってお願いしたら、気が向いたらなって、言ってくれたわ。だから私、お祭りの日、何時間も待ち合わせ場所でシンを待ってた。でもシンはこなかった」
『この!最低やろう!』
『さいっってい!シンってそういうやつだったんだね』
「あの時は、別の用事ができて行けなかったんだよ」
「じゃ・・・なんで、その後何もいってくれなかったの」
「それは・・・・」
「私がシンにお弁当を作ってきた日、シンは、今日は別の子からもらったからいらない。って、そのお弁当を田中君にわたしちゃったよね」
『田中ってだれだ!いや、とりあえず田中っていうやつも同罪だろ』
『田中!!出てこいや!!』
ヤジが広がっていく。
「私が編んだマフラー、あっついからいらないって、田中君にあげちゃったでしょ」
『田中君もひどい、女子の敵ね!』
『田中!!出てこいや!!』
傍観して聞いていた友人の田中が、キョトンと、俺???的な顔をして、その後、急いで体育館を脱出していった。
「サキ・・さん・・・・それいつまで続けんの・・・」
俺は半分諦めたように、サキを睨む。
「知らないわよ。シンがわるいんだからね」
サキはまるで人ごとのようにつぶやいている。
体育館には、男女問わずサキコールが響いている。
『サ キ! サ キ! サ キ!』
シンは、それを宥めるように制して、バカ騒ぎしているオーディエンスに向かってこう言った。
「お前ら、うるさい!騒ぐんじゃね!今から俺が言うことを、腹の底から噛み締めて、刮目しろ!」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
その一言で、体育館全体がシーーーーンと静まりかえった。
「俺は、俺から先に言いたかったから、サキから何言われても答えなかったし態度にも出さなかった。・・・・だから、今、それを俺から言う」
『・・・・・・・・・』
「葉山サキを幸せにできるのは俺しかいない!!」
『おおおおお!やるじゃん!』
『シン君、かっこいい!』
ぐわーーーんと体育館全体が沸き立った。
その瞬間に、初めから決められていたように、いきなり幕が締められた。
体育館では、アンコール、アンコールの掛け声が続いている。
いったい、何のアンコールだよ!
後から分かったことだが、この劇を取り仕切っていたのはサキで、スタッフ全員、さらには客席からヤジっていたやつらまで、全員、サキの下でこの劇を作り上げてきた連中だった。
その筋書きを知らなかったのは俺一人だけだった。
幕が閉まって、俺は大きなため息をついて、サキを見た。
サキは、まるで勝ち誇ったように、小さくVサインを見せてこう言った。
「私のシナリオ、上出来だったでしょ?」
おわり
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