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修繕の極致と、深淵の門を叩く者たち

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 温かい応援のおかげで、頑張れています。どうぞお楽しみください!

 深い敗北の夜から一週間後。


 奈落の森の朝霧がうっすらと立ち込める豊穣の街の広場に、深淵への旅立ちを決意した六人の姿があった。


「みんな、待たせたな」


 工房から徹夜明けの足取りでやってきた刀真が、ズシリと重い麻布の束を地面に下ろした。


 彼が布を解くと、そこには美しく、そして恐ろしいほどの殺気を放つ武器たちが並んでいた。


「刀真……これ……」


 蒼汰が、自分の魔骨鋼の刀を手に取り、息を呑んだ。


 新しい素材を使ったわけではない。


 だが、刀身の表面には波打つような美しい刃紋が浮かび上がり、指先が触れただけで切れてしまいそうなほどの極限の鋭さが宿っていた。


「新しい素材が手に入るまでの『修繕』だ。

 ……だが、ただ研いだだけじゃねえ。

 刃の炭素密度を叩き直して、重心をミリ単位で調整した。蒼汰、お前の『陽炎』の熱が、一瞬で刃の先端まで伝導するように最適化してある」


「すげえ……。前よりずっと軽く感じるのに、手に吸い付くように馴染む。ありがとう、刀真」


 蒼汰が、空中で軽く刀を振るう。シュガッ!と、大気が鋭く裂ける音が響いた。


「楓菜ちゃん、お前の弓もだ。弦の張力を上げつつ、本体のしなりで反動を殺すように調整した。

 これなら、あの異常なステータス相手でも、矢の初速で後れを取ることはねえはずだ」


「うんっ! すごい、弦の感覚が全然違う……! ありがとう刀真くん!」


 楓菜が、生まれ変わった愛弓を抱きしめて嬉しそうに笑う。


「理人には、化学薬品の投擲速度を上げるための特殊なスリング(投石紐)の改良版だ。

 乃亜ちゃんと萌音の防具も、急所の魔物革を二重にして編み直してある」


「完璧だ。これで僕の『化学式陣』の展開速度も跳ね上がる。感謝するよ、刀真」


「ありがとう、刀真くん。すごく動きやすいよ」


 理人と乃亜が、それぞれ装備を確かめながら微笑んだ。


「へへっ、どういたしましてだ。……萌音、防具の重さ、ステータス的に負担になってねえか?」


「うん、全然平気! 私の体力でもマイナス補正がかからないギリギリの重さになってる。

 さすが刀真だね!」


 萌音が、自分の革鎧を叩いてウインクをする。


 全員が新しい装備に歓声を上げる中、蒼汰はふと、刀真の背中に背負われている『見慣れない武器』に気がついた。


 刀真といえば、いつも巨大な鍛冶用のハンマーを武器として持ち歩いている。


 だが、今の彼が背負っているのは、無骨で分厚い、鉄塊のような巨大な『剣』だった。


「なあ、刀真。そのデカい剣、誰のやつだ? 予備にしてはずいぶんと形が歪だけど……」


 蒼汰が不思議そうに尋ねると、刀真はニヤリと獰猛に笑い、その巨大な剣を背中から引き抜いた。


「これは、俺のだよ」


「お前の? ハンマーじゃねえのか?」


「ああ。こいつは斬るための剣じゃねえ。刃も付いてない、ただの分厚い鉄の塊だ」


 刀真が地面に突き立てたそれは、剣というよりは『棍棒』に近い代物だった。


「あいつらの理不尽な装甲や盾を砕くには、ただ力任せに叩くだけじゃダメなんだ。


 相手の武器がどういう構造で、どこに力が加われば『へし折れる』のか……俺自身が前衛に立って、武器同士がぶつかり合う振動(悲鳴)を、一番近くで感じる必要がある」


 刀真は、分厚い剣の柄を強く握りしめた。


「俺は鍛冶師だ。誰よりも『モノの創り方』を知ってる。

 なら……世界で一番、『モノの壊し方』を知ってるのも俺のはずだ。

 この深淵の旅で、俺自身がどんな硬い装甲でも粉砕する『盾割り(シールドブレイカー)』になってみせる」


「刀真……っ」


 蒼汰は、親友の顔に宿った確かな覚悟を見て、嬉しそうに口角を上げた。


「ああ、頼もしいぜ。一緒に前衛で暴れようぜ、刀真!」


 ◇


「そうたお兄ちゃーーん!! のあお姉ちゃーーん!!」


 出発の準備を整え、正門へと向かった六人を待っていたのは、村の住民たちによる温かい見送りだった。


 その最前列で、難民の子供であるタイキとハナが、ちぎれんばかりに手を振っている。


「タイキ、ハナちゃん! 見送りに来てくれたの?」


 乃亜が優しくしゃがみ込み、二人の頭を撫でる。


「うんっ! これ、ハナが森で摘んだお花! お守りにして!」


 ハナが、小さな手で編んだシロツメクサの冠を乃亜に手渡す。


「僕たち、蒼汰兄ちゃんたちがいない間も、剣の素振りして村を守るから!

 だから、絶対に帰ってきてね!」


 タイキが、木の棒を握りしめながら鼻息を荒くして言う。


「おう、頼んだぞタイキ! 

 お前たちが守ってくれてるなら安心だ」


 蒼汰が、タイキの頭をガシガシと乱暴に撫で回して笑う。


「多目様、皆様……。どうか、ご無事で。

 この豊穣の街は、私たちが命に代えても守り抜きます」


 ガッシュが、難民たちを代表して深く頭を下げた。


「みんな、ありがとう。……行ってくる!」


 蒼汰が力強く宣言し、六人は振り返ることなく、巨大な防壁の門をくぐり抜けた。


 背後からずっと「バイバーイ!」「がんばってー!」と叫ぶタイキとハナの声が聞こえなくなるまで、彼らは歩みを進めた。


 やがて、鳥居の結界を越え、森の奥深くへと足を踏み入れた瞬間――周囲の空気が、まるで水底に沈んだかのように一変した。


 木々は天を覆い隠すほどに巨大化し、昼間だというのに薄暗い。


 まとわりつくような濃密な魔素と、獣たちのむせ返るような死と生の匂いが、六人の肌をビリビリと刺激する。


 ここから先が、奈落の森の本当の姿。


『深淵』と呼ばれる絶対死地だ。


「……空気が重いね。今までの中層とは、魔素の濃度がまるで違う」


 理人が、眼鏡のブリッジを押し上げながら周囲を警戒する。


「うん。……それに、すごく強い気配が、あちこちからする。

 でも大丈夫、私の目はごまかされない!」


 楓菜が、研ぎ澄まされた『鷹の目』で暗い森の奥を睨みつける。


 彼女の視界には、中層とは比較にならないほど巨大で強烈な生命力の光が、いくつも渦巻いているのが見えた。


「蒼汰くん、右前方の茂み、距離五十! すごく重くて硬い『何か』が来る!」


 楓菜の警告と同時だった。


 ズドォォォォンッ!!


 地響きと共に、巨大なシダ植物を薙ぎ倒して姿を現したのは、体長四メートルを超える巨大な猪だった。


 しかし、ただの猪ではない。


 その体表は、まるで岩石や黒曜石が幾重にも重なったような、禍々しい『天然の重装甲』に覆われている。


「いきなりお出ましだ! 萌音!」


「任せて! ……解析完了! 『剛石猪ロック・ボア』!

 物理防御力に特化したステータスだよ!

 弱点は装甲の薄い腹部と、魔力耐性の低さ!」


 萌音が、瞬時に『絶対鑑定』のデータを仲間たちに共有する。


「魔力耐性が低いなら、僕の出番だ。……蒼汰、三秒だけ時間をくれ!」


 理人が、白衣の裾を翻して前線に飛び出し、両手に持った特製スリングを振り回す。


「おう! 刀真、行くぞ!」


「ああッ!!」


 蒼汰と刀真が、前衛として巨大な猪の正面へと突進する。


 ブゴォォォォッ!!と咆哮を上げ、剛石猪が戦車のような勢いで突っ込んできた。


「『陽炎』!!」


 蒼汰の刀が赤熱し、猪の顔面を覆う岩の装甲に激突する。


 ガギィッ!と激しい火花が散るが、刀身は弾かれ、致命傷には至らない。


「硬ってえな……! だが、俺の武器は折れねえ!」


 刀真の完璧な修繕により、蒼汰の刀は刃こぼれ一つ起こしていなかった。


「退け、蒼汰! 俺が叩き割る!」


 蒼汰と入れ替わるように、刀真が鉄塊のような大剣を大きく振りかぶって前に出た。


 鍛冶師としての視界を極限まで集中させる。


 ただ叩くのではない。


 蒼汰の『陽炎』によって急激に加熱された岩の装甲が、どう熱膨張し、どの部分に歪み(ストレス)が生じているのか。


(見えた……! そこだッ!!)


 刀真の大剣が、装甲の微かな亀裂にピンポイントで叩き込まれる。


 パキィィィンッ!!という硬質な音と共に、絶対に壊れないと思われた猪の岩装甲が、見事に粉砕され、柔らかい肉が露出した。


「今だ、理人!」


 萌音の合図に合わせて、理人が後方から二つのガラス瓶を投擲した。


 瓶は猪の足元で割れ、事前に理人が足で描いていた幾何学模様の線――『化学式陣』の上で激しく混ざり合う。


「強酸と急激な冷却反応……。装甲溶解アシッド・ダウン、起動!」


 理人が指を鳴らす。


 瞬間、陣の中から発生した青白い特殊な酸の蒸気が猪を包み込み、残っていた岩の装甲を泥のようにボロボロに溶かしていった。


「楓菜ちゃん!」


「いっけえええっ!!」


 装甲が完全に剥がれた急所(腹部)に向かって、楓菜が三本の矢を同時に放つ。


 強化された弓から放たれた必殺の矢は、寸分の狂いもなく剛石猪の急所を深々と貫いた。


 ズゴォォォォンッ……!!


 圧倒的な質量を誇った巨大猪が、ついに力尽き、地響きを立てて倒れ伏した。


「やった……! 無傷で倒せたよ!」


 乃亜が、杖を握りしめながら歓喜の声を上げる。


「へへっ……どんなもんだ! 俺たち六人が揃えば、こんなバケモノだって鎧袖一触だぜ!」


 蒼汰が、赤熱した刀を振って血を払いながら、獰猛な笑みを浮かべた。


 圧倒的な敗北から一週間。


 彼らはただ悲しんでいたわけではない。


 それぞれが己の弱さと向き合い、新しい役割ロールを見出し、完璧な連携コンボを完成させていた。


「よし。乃亜、楓菜、早速解体してくれ。

 ……こいつの肉を食って、俺たちのステータスを限界まで跳ね上げるぞ!」


 深淵の森での初戦を完璧な形で飾った六人。


 狂気の勇者たちを打ち倒すための、極限のグルメ・サバイバルが、いよいよ本格的に幕を開けた。

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!


前回の絶望的な敗北から一転、今回はそれぞれが己の役割を見つめ直し、武器を、そして自分自身を研ぎ澄ませる回でした。

特に刀真の「創り手だからこそ壊し方がわかる」という覚醒には、書いていて作者も熱くなりました。


いよいよ始まった深淵サバイバル。

ただ強くなるのではなく、強敵を「喰らって」成長していく彼らの反撃劇を、ぜひ最後まで見届けてください!

**「今回の連携、熱かった!」「刀真の盾割りに期待!」と思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク登録】や【下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価】**で応援をよろしくお願いいたします!

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